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August 31, 2005

環業革命

kangyoukakumei
 【今週の一冊】
 ●『環業革命』

  著:山根 一真(講談社)
   2005.5 / ¥1,995

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 ◆ 燃える一言 ◆
 『人類は、20世紀の大工業時代の礎となる17~19世紀前半の「産業革命」
   によって壮大な文明を構築したが、それが破綻の兆しを見せ始めた今、
      私たちは次の「産業革命」を興す決意をするときなのである。』
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 日本のものづくりに携わる創造的な技術者との対談「メタルカラーの時代」
 を14年にわたり連載している著者が、「環境を基軸とした新しい産業革命」
 =「環業革命」を提唱しています。
 
 豊富な自らの体験と取材を基に、これまで人類の犯してきた「過去」、我々
 が直面している「現在」、そして今後突きつけられる「未来」を描き出して
 います。
 
 
 「水に流す」という言葉が示すごとく、川や海には廃棄物の浄化作用があり
 ますが、自然界では処理しきれない、あるいは浄化できない「モノごみ」が
 大量に廃棄されています。
 
 しかし、人々の意識は、縄文人が貝塚に食べかすを捨てていた時代と変わら
 ず、垂れ流した汚染物質により、水俣病に代表される「公害」として、「ゴ
 ミが人を殺す」結果となりました。
 
 また、筆者は熱海の沖合いの1,200mの海底で、光も届かぬ暗黒の世界の中に、
 UCCコーヒーやバドワイザーの空き缶が、まるで宴会の後のように散乱し
 ている光景に唖然とします。
 
 もはや、我々は「捨てる」ことは赦されておらず、自らの手で「戻す」以外
 に選択はないのです。
 
 
 人間が産業革命以後、大量に捨ててきた「ゴミ」があります。
 
 「ガスごみ」とも言える、工場や車の排気ガスであり、二酸化炭素です。
 
 地球温暖化と温室効果ガスの因果関係は、未だ決定的な証明はなされていま
 せんが、将来証明されるまで放置していては「時すでに遅し」となるのは目
 に見えています。
 
 
 化石燃料という「IN」を使いたいだけ使い、二酸化炭素という「OUT」
 を捨てるだけ捨ててきた入口と出口を共に閉じ、その中で資源やエネルギー
 を循環させて、かつ豊かさと便利さを実現することは、まさに「革命」とい
 えるほどの大転換を要します。
 
 果たしてそれはできるのでしょうか?
 
 そのヒントがいくつか示されていますが、北九州市の例を挙げましょう。
 
 
 20世紀初頭、八幡製鉄所を中心に一大工業都市を形成した北九州は、「七色
 の煙」を市歌で歌い上げるほど、工場の煙を繁栄の象徴としていました。
 
 1960年代には気管支ぜんそく患者が増大し、廃液の充満した湾は大腸菌すら
 生息できない「死の海」と化したのです。
 
 80年代に入り、「エコタウン」の構想により、公害克服から廃棄物処理、そ
 して資源の効率的な再利用まで含めた総合環境コンビナートへと転換を始め
 ます。
 
 その中の使用済み自動車のリサイクル工場では、自動車の製造ラインを廃車
 が「逆流」し、部品を順次はずして最後には高品位の鉄として高炉に戻せる
 ほどの「見事なもの壊し」が実現しています。
 
 こうして青空と清浄な海を取り戻した北九州は、視察者が引きも切らない、
 循環型社会構築の世界の手本と生まれ変わったのです。
 
 
 人類始まって以来、化石燃料による「炭素の火」を大量消費することを豊か
 さとしてきた歴史をひっくり返す壮大な試みが始まっています。
 
 それは「炭素の火」を使う以上に高性能、低価格でなければなりません。
 
 日本のものづくりに、これまで以上の大きなイノベーションが求められてい
 るのです。
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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 火葬場の煙、つまり遺体からもダイオキシンは出ている。
 
 人体には塩という形で塩素が含まれており、燃焼温度が低く不完全燃焼する
 と生成される。
 
 最近はより高温で燃焼できる炉への改修が進んでいるようだ。
 
 人間の身体を火葬すれば、「土に還る」と言うが、実際は大半は大気に放出
 されており、「空に還る」のである。
 
 人間という形で固定されていた炭素が大気へ放出され、植物が吸収し、動物
 が摂取する。
 
 私という「炭素」も、地球の「カーボンニュートラル」という輪の一部に過
 ぎない。
 
 その輪を破綻させる化石燃料による二酸化炭素の増加は、もう、止めねばな
 らない。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 今日の異常と昨日の異常に大きな差がないから、異常に慣れていないか。
 遅れれば遅れるほどツケが大きくなることは、公害で学んだはずだ。
 
 良い未来を描く「ファンタジー」を持ち、実現しよう。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
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 第1章 環業革命のレッスンワン
 第2章 さよならアメリカ文明
 第3章 地球の温かな危機
 第4章 欲望の炭素世紀
 第5章 殺傷ゴミの経歴
 第6章 「モノ壊し」と「モノ戻し」
 第7章 「狩光採風」の生活

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August 24, 2005

能力構築競争

nouryokukouchiku
 【今週の一冊】
 ●『能力構築競争』
 日本の自動車産業はなぜ強いのか

  著:藤本 隆宏(中央公論新社)
   2003.6 / ¥1,008

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 ◆ 燃える一言 ◆
 『二十世紀最後の四半世紀、世界の自動車産業を動かした原動力は、
                     『能力構築競争』であった。』
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 「カンバン」「カイゼン」などの言葉が、そのまま「国際語」として通用し
 てしまうほど、トヨタ生産方式に代表される日本の自動車生産システムは、
 「グローバルスタンダード」化しています。
 
 また、かつての輸出の主力であった家電や半導体などが勢いを弱め、国際競
 争力を失っていく中、自動車産業には独特な「しぶとさ」があります。
 
 なぜ、戦後日本の自動車産業には、こうした特性が備わったのでしょうか。
 
 
 本書では、そのキーワードとして「能力構築競争」を挙げます。
 
 通常、企業の競争力として観察される指標は、製品の価格や納期、また目に
 見える製品の内容です。
 
 これに対し、顧客が直接観察できない、しかし表面の競争力を支える「深層
 の競争力」として、生産性や生産リードタイム、開発リードタイム、不良率
 などが挙げられます。
 
 こうした顧客が直接評価しない水面下の指標について、お互いにベンチマー
 キング(実力の比較調査)しあって競争しあうことを、「能力構築競争」と
 呼んでいます。
 
 
 自動車という製品は、機能と部品とが錯綜した関係を持つ「擦り合わせ型」
 であり、また情報を製品に転写しにくい(※「カンドコロ!」コーナーで説
 明します)材料でできた「作り込み」が必要な製品です。
 
 日本企業が得意とする、製品開発部門と生産現場・生産技術の緊密な情報共
 有は、こうした「擦り合わせて作り込む」製品と相性が良く、更に「深層の
 競争力」を競い合って組織能力を進化させてきたのです。
 
 
 この能力構築の過程は、事前に合理的に蓄積された、というより、「結果的
 に合理的になった」=「創発的」なものでした。
 
 たとえば、「忙しかったからその場その場で対処した」ことが「多能工化」
 に繋がった「怪我の功名」的な経過も含まれます。
 
 当事者の企業自身でさえ全貌を明らかにできない「創発的」な組織能力です
 から、ライバルにとっては認知しにくく、模倣しにくい能力となり、欧米の
 自動車メーカーに対して日本企業が優位を保った一つの要因とも言えるので
 す。
 
 
 こうした能力構築競争では、相手が見えないだけに、優位性を求めるあまり
 「過剰設計」にエスカレートし、90年代の品種の肥大化などにより、競争力
 を低下させるという副作用も生じます。
 
 その後の設計簡素化による大幅コストダウンで、「失われた10年」といわれ
 た中でも競争力を発揮し、今なお能力構築競争で切磋琢磨しているのが、自
 動車産業なのです。
 
 一方で、せっかく深層の競争力を持ちながら、ブランド構築などの面で欧米
 企業の後塵を拝し、「がんばってるけど儲からない」ことが、問題点として
 挙げられます。
 
 
 「儲かった企業は強い」というトートロジー的な評論が多い中、自動車業界
 の近代史を紐解きながら、緻密な分析で「ものづくり」の構造を分析した視
 点は、実に読み応えがあります。
 
 「能力構築競争」は、日本のものづくり優位性の必要条件であり、自動車産
 業以外も、徹底的に学ばねばなりません。
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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 製品とは、「情報+媒体(メディア)」と言える。
 
 製品設計情報が、素材すなわち媒体の中に埋め込まれたものが製品なのだ。
 
 自動車企業は、外観デザインなどの設計情報を、厚さ0.8mmの鋼板という媒体
 に乗せて顧客に発信している。
 
 製品開発とは設計情報の創造であり、生産とは工程から製品への設計情報の
 転写のことだと言い換えられる。
 
 ソフトウェアなどのデジタルデータは、「書き込みやすい媒体」に、「劣化
 しにくい情報」を転写する。
 
 自動車の鋼板は、高価な金型と数千トンのエネルギーを使ってようやく情報
 転写(プレス作業)する「書き込みにくい媒体」だ。
 
 また、よほどうまくやらねば歪んだり、破れたり、情報を正確に転写しにく
 い。
 
 そして一旦書き込まれたならば、修正が難しく、完成すれば10年は持つ。
 つまり「劣化しにくい」。
 
 こうしてみると、日本企業が国際的に見てレベルが高いのは、「書き込みに
 くく劣化しにくい」素材に、苦労して設計情報を転写し、顧客に発信する「
 作り込み」タイプの業種といえるだろう。


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 ◆ 熱い行動 ◆
 「売れた」「売れない」の上っ面ではなく、「深層の競争力」をベンチマー
 キングせよ。
 
 IT、ツールは能力の差を埋めるものではない。
 むしろ、能力差を浮き彫りにすると自覚せよ。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 炎 | (炎3つが満点)
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 序章 もの造り現場からの産業論
 第1章 自動車産業における競争の本質
 第2章 能力構築競争とは何か
 第3章 なぜ自動車では強かったのか
 第4章 もの造り組織能力の解剖学
 第5章 能力構築の軌跡―二十世紀後半の自動車産業
 第6章 創発的な能力構築の論理
 第7章 紛争―脇役としての貿易摩擦
 第8章 協調―競争を補完する提携ネットワーク
 第9章 欧米の追い上げと日本の軌道修正
 第10章 能力構築競争は続く

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August 17, 2005

技術屋たちの熱き闘い

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 【今週の一冊】
 ●『技術屋たちの熱き闘い』
 組織の壁、開発の試練を突き破れ!

  著:永井 隆(日本経済新聞社)
   2005.8 / ¥730

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 ◆ 燃える一言 ◆
 『日本が世界に貢献するのは経済でも、
                まして政治なんかではない。技術なんだ』
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 お盆休みを終え、休みボケと残暑のけだるさに、どうも調子が出ない・・。
 
 そんな頭に、猛暑より「熱い」エンジニア達の燃える闘志を、ガツンとお届
 けしましょう!
 
 本書は、主に最近のヒット商品の開発現場で、技術者たちが乗り越えてきた
 数々の「闘い」が描かれています。
 
 
 TOTOのユニットバス、といえば、「カラリ床」と「魔法びん浴槽」。
 
 インパクトのあるユニークな技術は、同じ開発者が立て続けに打った「ホー
 ムラン」でした。
 
 
 開発者の北角氏は、まずユニットバス特有の「乾かない」という致命的欠点
 の克服に取りかかります。
 
 床材料のFRP(繊維強化プラスチック)に、カッターでガリガリと傷をつ
 けると、水滴が形成されず、乾きやすいことを突き止め、独特な溝形状を成
 型することを思いつきます。
 
 金型を起こし、発売直前となったところで、急に「乾かない」テスト結果が
 出てしまい、カタログ印刷直前でストップがかかります。
 
 脱力した北角氏でしたが、自宅の風呂でおもちゃの人形を手にして「長考」
 していた時にふと気づきます。「原因は人の『皮脂』だ!」
 
 皮脂がワックスのように作用したために、効果が出なくなったことを突き止
 め、加工法を含めたブレークスルーにより、あのヒット商品が生まれたので
 す。
 
 
 周囲は北角氏に「次のホームラン」を求め、強烈な周囲のプレッシャーの中
 で、「保温できる浴槽」を提案しますが、「カラリ床」ほどのインパクトに
 欠け、反応は冷ややかです。
 
 そこで「冬場に6時間経過しても2℃しか下がらない」という突き抜けたタ
 ーゲットを示し、開発に突き進みます。
 
 開発の実行部隊は、あれこれ「できない」言い訳を述べ、彼は「俺がやる」
 と自ら引き受けますが、強度を満たす保温材の選定は、難航を極めます。
 
 1年に及んだ「長考」の末、息子のおもちゃの飛行機の「発泡ポリプロピレ
 ン」に光明を見出し、見事に目標の性能を達成したのです。
 
 
 ダイハツ工業で、自動車の排ガス浄化に用いる「触媒」に、自己再生機能を
 与えたエンジニア、田中氏は、世界を放浪した後に29歳で入社するという、
 一風変わった経歴を持ちます。
 
 「管理職になるなら辞める」と上司に言い、「会議に出て1時間無駄にする
 なら、10分怒られて50分実験に使う」と朝礼等一切出ない、という偏屈者で
 すが、放浪体験から学んだ東洋思想を元に、独自の環境技術を切り開きまし
 た。
 
 彼の「インテリジェント触媒」によりダイハツは環境技術の先陣を切り、後
 にライバル会社が追い上げることで、自動車の排ガス浄化は大きく前進した
 のです。
 
 
 北角氏、田中氏を始め、トップエンジニア達の共通の思いは「売れる商品」
 を作ること以上に、「ものづくりを通して世の中を良くしたい」という信念
 です。
 
 プロジェクトXや、すでに紹介した書籍に登場した事例も含まれていますが、
 熱き「技術者仲間」の想いは、一服の清涼剤となることでしょう。
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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 スズキの「チョイノリ」は、国内生産ながら中国製より安いスクーターだ。
 
 常識破りの「破格値」を実現するために、既存技術にとらわれない発想が必
 要となった。
 
 アルミ合金のエンジンのシリンダー内面に、焼きつき防止のため通常は鋳鉄
 製のスリーブを用いるが、大型化し、放熱性も劣る。
 
 アルミの表面をめっきする方法もあるが、工程が複雑で、コストが大幅に上
 がる。
 
 そこで、シリンダ内面を「陽極電解エッチング」と「高速めっき」という新
 しい手法により、インライン化も可能な、安価で革新的な技術を開発したの
 だ。
 
 F1と同じ手法を、安価なスクーターに使う、逆転の発想だ。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 「どうつくるか」の前に、「なぜつくるか」を問い直せ。
 
 技術者は、技術の前にロマンを語れ。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 |   | (炎3つが満点)
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 ◎ 目 次 ◎
 第1章 人々を幸せにするものづくり
  松下電器産業/ななめドラム式洗濯乾燥機
  TOTO/魔法びん浴槽
 第2章 本当は凄い日本の技術力
  ダイハツ工業/インテリジェント触媒
  日産自動車/フェアレディZ
  サントリー/発泡酒
 第3章 埋もれた研究と才能を生かす
  スズキ/チョイノリ
  キリンビール/キリンチューハイ氷結
  ホンダ/ASIMO(アシモ)
 第4章 挑戦せずにはいられない
  東京めたりっく通信/ADSL
  トヨタ自動車/燃料電池車
  燕市/磨き屋シンジケート
 第5章 「ゼロから一を」生むために
  富士通/フルカラーPDP
  カシオ計算機/デジカメ

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August 10, 2005

戦艦大和誕生(下)

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 【今週の一冊】
 ●『戦艦大和誕生(下)』
  「生産大国日本」の源流

  著:前間 孝則(講談社)
   1999.12 / ¥987

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 ◆ 燃える一言 ◆
 『これだ!すなわち今われわれが戦っている戦争は、
   単なる武力戦ではなくて実は生産戦であり、技術戦なのだ。
        より優れた飛行機を、より効率的な生産法で、大量生産で
               造られたのでは、とてもかなうはずはない』
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 先週に引き続き、「戦艦大和」建造から生まれた「ものづくり」のドラマを、
 ご紹介します。
 
 前代未聞の巨大戦艦を、いかに軽量に、短期間に、そして低コストで完成さ
 せるか―。
 
 建造技術責任者の西島氏は、この難工事に、それまで培った造艦技術の粋を
 集めます。
 
 それは「実物大模型」「ブロック建造法」そして「電気溶接」などの活用で
 す。
 
 
 甲板中央にそびえ立つ司令塔である「艦橋」は、通信ケーブルや観測装置が
 集中し、致命傷を避ける耐久性が必要であり、そして使い勝手の良さが求め
 られます。
 
 この込み入った構造を検討するために実物大(ほぼ10階建てビルに相当!)
 の模型で配置の検討を行い、艦橋を船体上で製作するのではなく、各階を電
 気溶接で独立したブロックとして工場内で作り、それらを次々に積み上げて
 いったのです。
 
 電気溶接は未だ発展途上であり、西島氏がドイツで見聞した技術から、独自
 に溶接棒の開発を行ったもので、現在も用いられる「グラビティ溶接法」の
 基礎となっています。
 
 
 これらの施策によって、4年に渡る工期のうち、大和は当初の予定から実に
 6ヵ月も繰り上げて竣工することが可能となったのです。
 
 一方、大和と同時期に、2号艦として建造された「武蔵」と比較すると、起
 工から進水までにかかった日数では、武蔵のほうが2ヶ月も余計にかかって
 います。
 
 いかに西島氏が取り仕切った大和の船殻工事で、工数削減に成功していたか
 が分かります。
 
 
 こうして大洋へ踊り出した大和でしたが、戦況は巨艦大砲による長距離艦隊
 戦から、航空機による物量戦へと大きく変化しており、もはやその実力を発
 揮する場は失われていたのです。
 
 代わって西島氏に命じられたのは、消耗激しい輸送船や小型の艦船、更には
 戦闘機の「大量生産」の陣頭指揮でした。
 
 「今や生産力の増進こそがわが祖国日本を救う唯一の途」との悲壮な覚悟の
 元、溶接やブロック工法を取り入れた艦船製造の「ライン化」を実施しまし
 た。
 
 素人集団でも短時間で安く建造するこのシステムは、奇しくも戦後の商船と
 共通するものであり、戦後わずかの期間で復興を果した造船業の礎となった
 のです。
 
 
 現在では当たり前となった合理化やコストダウン、標準化や量産の考え方な
 どの概念が、戦前には全くといっていいほど存在していなかった中で、西島
 氏が独自に生み出した生産方式を現実化させるエネルギーがいかほどのもの
 であったかは、想像に余りあります。
 
 現代に広く浸透した技術や思考様式が、こうした多くの犠牲や悲劇を伴った
 苦闘の結果として生み出された歴史の上にあることを、強く認識させられま
 す。
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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 「これを見たまえ。これはB29の管系のバルブだ!」
 
 西島は数日前、東京空襲の際に撃墜されたB29の残骸の中から拾い出した
 小さな金属部品を部下に見せた。
 
 一見、なんの変哲もない燃料か潤滑油を分配する小さな部品だったが、決定
 的に違うところがあった。
 
 ダイキャスト鋳物でつくられていた点だ。
 
 溶かした金属を金型の中に圧力をかけて注入するダイキャストは、金属部品
 を連続してつくるのに適した製造法である。
 
 この方法なら、製品の精度が高くなり、機械加工の際に削り取る部分が極端
 に少なくなり、効率が良く量産が容易になる。
 
 日本では品質に問題があり、ほんの一部でしか利用されておらず、高い信頼
 性が要求される精密な航空機部品にはとても使えなかった。
 
 ところが日本を縦横無尽に爆撃する巨大なB29には、実際にダイキャスト
 部品が使われていたのである。
 
 「こういうものをダイキャストでやられたんでは、これはかなわんなあ」
 
 普通の人なら見逃しそうなB29の小さな部品から、アメリカの技術レベル
 の高さを、西島は正確に把握していたのである。
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 ◆ 熱い行動 ◆
 精神論、労働強化で生産性を上げるのは能がない。
 新しい工夫、工法、設備の改善で生産性を上げよう。
 
 技術を、幸福のために、使おう。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 炎 | (炎3つが満点)
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 ◎ 目 次 ◎
 第8章 「大和」進水
 第9章 戦時下の船舶建造計画
 第10章 商船の大量建造
 第11章 多量生産への第一歩
 第12章 無責任な精神主義
 第13章 狂気の特攻兵器製造
 第14章 生産戦での敗北

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August 03, 2005

戦艦大和誕生(上)

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 【今週の一冊】
 ●『戦艦大和誕生(上)』
 西島技術大佐の未公開記録

  著:前間 孝則(講談社)
   1999.12 / ¥987

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 ◆ 燃える一言 ◆
 『よく人は大和が大きいことで、世界一だったと誇りがちだが、
     私は、たった6万2千トンだったこと、つまり小さいこと、
                     すなわち軽いことを誇りたい。
   物をつくるのに、少しでも軽く、小さく、そして安くつくる。
                       これが技術の本領である』
-----------------------------------
 戦後60年を迎え、かつての大戦を振り返る機会が、特にこの8月は多いこ
 とでしょう。
 
 『燃える100冊』でも、ものづくりという観点から、太平洋戦争の象徴ともい
 える「戦艦大和」を2週に渡って取り上げます。
 
 本書は、大和を建造した現場責任者である、西島技術大佐にスポットを当て、
 あの巨大戦艦がいかにして作られたかを、克明に描き出しています。
 
 
 「大和」といえば、世界最大の46cm主砲や特殊鋼で厚さ410mmもの装甲、そし
 て世界に類を見ない7万トン級の巨大戦艦であることが強調され、それらの
 特殊な軍事技術ばかりが注目されます。
 
 しかし、真に注目すべきは、冒頭の言のように、むしろ大和はその性能に比
 して「小さい」ことであり、それだけ中身が「ぎっしり」詰まっていたとい
 うことです。
 
 前例の全くない、その複雑な大工事を、いかに予定通り竣工させるか。
 
 加えて西島氏を悩ませたのは、巨大な船躯や主砲を作る技術的課題よりも、
 工事を予算内に収めることでした。
 
 
 軍艦建造は、「親方日の丸」でどんぶり勘定的に進められる官製プロジェク
 トの最たるものでしたが、戦時下での納期遅れや国費の浪費は許されざるこ
 とです。
 
 かくして、「最小の工事費で、納期を確保する」ために、これまでのように
 経験や勘に頼るのではなく、各種の実績データをきめ細かく取り、予算や工
 数を管理する、独自の生産管理方式を導入したのです。
 
 
 その一つは、部品や材料の制式化(標準化)です。
 
 大量生産の消費財とは異なり、まさに一品物で作るのが「常識」とされてい
 た造船材料を、「必要な時期に必要量を準備しなければ船は予定通り建造で
 きない」と断じ、「最少の在庫量でこれを実施せねばならない」と舵を切っ
 たのです。
 
 
 また、工数の管理に、「西島カーブ」と呼ばれるチャートを導入します。
 
 仕事量を示す指標として、材料の重量やリベットの本数を選び、これを横軸
 とし、縦軸に工数をプロットします。
 
 この曲線と、事前に見積もった総工数とゼロ地点を結んだ直線とのズレが、
 作業の遅れであり、何か問題が生じていることを示します。
 
 それまでは、最後に人手をかけてつじつま合わせをしていたムダ・ムラを、
 リアルタイムに監視することで、造船の世界では不可能と考えられていた「
 能率」の考え方を持ち込んだのです。
 
 
 これらの生産管理、生産システムは、戦後トヨタ生産方式に代表される、日
 本の生産方式の源流となったことは明らかです。
 
 3万枚に及ぶ図面から、前代未聞の巨大戦艦は、こうして着々と建造されて
 いき、いよいよ進水を迎えます・・(つづく)
 ----------------------------------
 ◇ カンドコロ! ◇
 
 建造が順調に進んでくると、西島は残工事(やり忘れ)のチェックを毎日く
 どいほど念入りに行った。
 
 もっとも多いのは鋲の打ち忘れだ。
 
 鋲を打つべき場所に、ボルトが仮締めされただけの状態で工事が進んでいた
 り、鋲打ち後に隙間をふさぐコーキングが不十分なために、鋼板との間に隙
 間やズレが生じる。
 
 鋲打ちされた鋼板の接合力は、鋲そのものよりも密着した2枚重ねの鋼板板
 の摩擦力に負うところが大きいため、わずかな隙間で摩擦力が低下し、鋼板
 のズレや破断が起きる。
 
 そこから海水が浸透し、錆が生じて、やがて大きな浸水に発展する恐れもあ
 るのだ。
 
 一方、「大和」で使われた鋲は直径40mmもあり、一度頭を叩いて打ち込まれ
 ると、さらに硬くなっている。
 
 不具合が見つかった鋲を、孔から抜き取って直すのは、やりにくければ1本
 に1日かかることすらあった。
 
 たとえ検査のために人と時間をかけようとも、残工事によって生じる混乱や
 時間のロスに比べれば、はるかに少ない、というのが西島の考えだった。

───────────────────────────────────
 ◆ 熱い行動 ◆
 「○○だから安くできない」「△△だから間に合わない」は本当か?
 断じて行えば、道は開ける。
 
 「これまでも大丈夫だった」と限界設計を続けると、必ず破綻する。
 ニーズに流されず、明確に設計限界を見極めねばならない。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 炎 | (炎3つが満点)
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 ◎ 目 次 ◎
 序章 海軍造船に西島あり
 第1章 海軍造船大尉西島亮二の誕生
 第2章 科学的生産管理法への第一歩
 第3章 次々と新技術を導入
 第4章 相次ぐ大惨事
 第5章 戦艦「大和」建造計画
 第6章 建造準備は着々と
 第7章 前代未聞の複雑な巨大戦艦

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