世界の自動車を造った男
【今週の一冊】
●『世界の自動車を造った男』
荻原映久、50年のモノづくり人生
著:生江 有二(日刊工業新聞社)
2006.10 / ¥1,785
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◆ 燃える一言 ◆
『技術は日々、先進する。
コストを下げることを忘れ、研究に力を注がず、
現状に満足していると、すぐに追い抜かれてしまう。
前進か死か。
これは製造業の全てにいえることなんです』
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2004年に世界各国で生産された自動車台数は63,956,415台(日本自動車工業
会調べ)。
この年、世界では8億3681万台の車が走っており、これは世界の人口で7.5人
に1台の割合です。
その8億台あまりのクルマのうち、1億台を越える車を日本の1つの会社が
造っていることを、ご存知でしょうか。
その会社とは、金型メーカ「オギハラ」。
正確には、「オギハラの製作した金型でボディを製造した車が1億台以上」
ということです。
この途方もない膨大な自動車生産を支えるために、オギハラは、日本、アメ
リカは当然として、実に5大陸全てに工場を構える、グローバル企業なので
す。
オギハラと、その金型技術を支えた荻原映久氏の技術者の半世紀は、世界の
中の日本のものづくりを語るに欠かせない、貴重な歴史です。
オギハラの海外進出第1号は、意外なことにオーストラリアでした。
昭和39年、当時のフォードオーストラリアの金型は、主に米国から輸入して
おり、日本で100万円程度の型が800万から1,000万円ほどしていたため、日本
の金型メーカが注目されていました。
通常の3倍ほどの見積価格にしても安すぎると疑問に思われ、現場まで見に
来た上での受注となったのでした。
このときに、米国等に通用する、インチ単位の図面や部品のノウハウを手に
したことが、後の海外進出の足がかりとなったのです。
更にその後、旧ソ連の自動車メーカにトラック用の金型を納め、アメリカの
現地工場立ち上げ、BIG3との丁々発止の交渉、中国・台湾・韓国の急成
長との格闘など、めまぐるしい世界展開が続きます。
更にはタイ、インド、そして南アフリカ、メキシコなど、ごく最近注目され
始めた国々にも、「声がかかった翌朝の出社時間までに飛んでいく」ほどの
フットワークで営業・進出を繰り返し、今日の「オギハラ」となったのです。
しかし、グローバル化の波は、日本的な家族経営のオギハラも飲み込み、20
03年に外資との提携直前まで追い込まれ、結局、大和証券による資本参加と
なったことは、記憶に新しいところです。
最新加工機で無人24時間加工が可能な、大手自動車メーカの金型技術、また
躍進著しい新興国の安価な金型など、オギハラの優位は脅かされつつありま
す。
綺麗事ばかりではない、グローバルなものづくりの「過去・現在・未来」が
見える一冊です。
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◇ カンドコロ! ◇
70年前まで、職人の「手作り」で金型は造られた。
一体、数トンにも及ぶ鉄の塊から、どうやって「手作り」するのか。
特殊な鋳物でできたカマボコ型の金型の原材に、タガネを用いて、深さ5ミ
リ程度の溝を約100ミリピッチで縦横につけていく。
溝と溝の間は100ミリ×100ミリ程度の切り餅大の山が残るが、これを再びタ
ガネ(多くは鉄砲と呼んだエアコンプレッサを使った自動タガネ)で削り取
っていく。
おそろしく地味な作業だ。
しかも1000分の1ミリ以下の誤差で削らないと、プレス機にかけてから鉄板
が裂けたり、皺ができたりすることになる。
それを手作業で作り出してきた時代が長く続いていたのである。
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◆ 熱い行動 ◆
「グローバル化」は、日米欧だけではない。
BRICs、東南アジア、そしてアフリカの「今」を知れ。
ものづくりも、ビジネスも、「人と人」がつくる。
本音で付き合わなければ、いいもの、いい仕事はできない。
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◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
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第1章 ビッグ3
第2章 鉄工所の映画館
第3章 初受注
第4章 海を越えて
第5章 紊乱のデトロイト
第6章 TJ、世界自動車市場を行く
第7章 中台韓・激動するアジア市場
第8章 五大陸に吹く風―南ア、メキシコ
第9章 環境へのまなざし
第10章 世界市場、ふたたび
終章(あとがきに代えて) 培った技を継承するまで
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◆ 関連ページ ◆
・オギハラ
・出版社 日刊工業新聞社
・アマゾン 『世界の自動車を造った男』
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