町工場で、本を読む
【今週の一冊】
●『町工場で、本を読む』
著:小関 智弘(現代書館)
2006.11 / ¥2,100
----ものづくりを応援!技術士やまさんの「えんぢに屋本舗」-----
◆ 燃える一言 ◆
『時にはそれがどんな機械に使われる部品なのかさえ
わからぬようなものであっても、
それをつくっている男なら、ただの鋼のかたまりにすぎなかった素材が、
いま新しい形をもって機械の中から立ち現れてくる姿を見据えていると、
もののほうがこちらに語りかけてくる瞬間を知ることがある。』
-----------------------------------
半世紀に渡り、「旋盤工」として現場に立ち続けながら、ものづくりの現場
に根を張った作品を上梓する「作家」、小関智弘氏のエッセイであり、書評
集です。
戦後、工業高校(ただし普通科)を卒業し、たった3人の町工場に飛び込ん
で、氏の「旋盤工」人生は始まりました。
仕事はきつかったものの、自分の手ではじめて鉄を削ったときには、「感動
と緊張のあまり、ズボンを濡らしたほど」であったと述懐します。
そんな仕事の合間、文学青年が集まって、毎月一度の読書会を開くようにな
り、それが40数年後の今日まで続く「生涯の友」となったのです。
この読書会でめぐり合ったという、「ものづくり本」を、いくつか紹介しま
しょう。
刃物の町、三条で鍛冶屋を創業し、日本刀の技術を応用した剃刀を量産した
岩崎航介の遺稿集『刃物の見方』。
岩崎は、大工道具の名人や、刺身包丁の名人の言葉から、鋼を徹底的に分析
し、自社で作った剃刀と金属顕微鏡をもって、製鉄所の技師に欠点を指摘し
ます。
はじめは取り合わなかった大製鉄所も、同じ欠点を大手自動車メーカから指
摘され、あわてて製法に大改良を加えます。
製鉄所の技師よりも、鋼を打ち、鋼を研ぐ名人たちの方が「鋼を知っていた
」ことが、平易な言葉で綴られています。
残念ながらこの書籍は絶版だそうで、是非とも再版が望まれます。
金属メッキ工場の職工であり、「アララギ」に入会し歌集も編んだ松倉米吉
は、24歳で夭折しました。
わが握る槌の柄減りて光けり 職工をやめんといくたび思ひし
ふと詠みし歌をおづおづ記す間ぞ 前の男の仕事早かりし
鑢するわが手の下に真鍮粉は 光りきらめき散りたまりけり
旋盤を回している時にとてもいい表現を思いついた経験のある小関氏は、2
番目の引用歌に、共感を覚えています。
これも「旋盤工・作家」の肩書きを持つ筆者ならではの感覚でしょう。
ものづくり書籍にこだわって紹介している やまさん にとって、経験に裏打
ちされた深さと、労働に対する厳しい眼差しに基づく氏の書評に、感銘を受
けることしきりの一冊でした。
-----------------------------------
◇ カンドコロ! ◇
写真家 英 伸三氏の写真集に、夜空に浮かぶ満月を思わせる鋼の断面があ
る。
丸いシャフトを金属帯鋸で切断し終えた瞬間を取ったものだろうが、工場の
男が気付かない美しい姿を撮っている。
これを写真家ではなく、旋盤工の眼で語ると、何の変哲もない断面にも言葉
が隠れている。
丸い断面にほぼ水平に走る鋸歯の切断層のほかに、丸い円の左右に向き合う
ようにいくつかの半円のぼかし模様が浮いて見える。
さらに切断層とは垂直に走る細かい鋭い線が5本ある。
この半円や垂直の線を、現場の男たちは「ユウレイ模様」とか「ユウレイ線
」と呼び、鋸歯の切れ味の目安にしている。
鋸歯の左右に曲げた歯の「アサリ」が描くのが半月模様であり、垂直の線は
切断を終えて回転を止めた鋸歯が上に戻るときに残したアサリ歯の引っ掻き
傷だ。
つまり、鋸歯のアサリの模様が浮いて出ぬようなら、もう切れあいは悪いと
いうことであり、鋸歯を好感したほうが良い、という目安になる。
なぜかは知らず現れるこの現象に、「ユウレイ」と名づける現場の男たちの
ユーモアが溢れている。
───────────────────────────────────
◆ 熱い行動 ◆
「暗黙知」を明文化しようとしても、匂いや音は伝わらない。
現場のおっちゃんの言葉を聞き、五感を動員せよ。
町工場で、本を読もう。
リズミカルな切削音は、最高のBGMだ。
-----------------------------------
◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
-----------------------------------
1 錆色の町・めぐまれた友
2 「旋盤工・作家」駆け出しのころ
3 名作に描かれた技術・技能
4 読書とともに
-----------------------------------
◆ 関連ページ ◆
・著者 小関 智弘
・出版社 現代書館
・アマゾン 『町工場で、本を読む』
----ものづくりを応援!技術士やまさんの「えんぢに屋本舗」-----
Recent Comments