ゼムクリップから技術の世界が見える
【今週の一冊】
●『ゼムクリップから技術の世界が見える』
アイデアが形になるまで
著:ヘンリー・ペトロスキー 訳:忠平 美幸(朝日新聞社)
2003.8 / ¥1,365
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◆ 燃える一言 ◆
『われわれは、自然界や既存の人工物について考えをめぐらせ、
それらをどう作り変えたり改善したりすれば人類に有益な目標を
よりよく達成できるか、という問いに答えを出さなければならない』
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今、皆さんの目の前にあるもので、「人工物」にどんなものがあるでしょう
か?
そもそも、この文章を目にしているのはPCのモニターや携帯電話のはずで、
間違いなく100%、工学的な製品です。
いや、おそらくは部屋の片隅の観葉植物と「人間」以外は、ほとんど人工的
なものばかりでしょう。
本書では、ごくごく身近な文具やアルミ缶から始まり、橋や高層建築に至る
まで、それらを生み出した「工学」的な背景を、描き出しています。
おそらく今、机上で最も単純な「製品」の一つが「ゼムクリップ」でしょう。
あまりに単純で、クリップの「取扱説明書」なんて見たこともないような分
かりきった製品ですが、クリップが「機能」するために必要な「弾性」が明
確に理解されたのは、さほど昔のことではありません。
ロバート・フックが「張力は力に比例する」という「フックの法則」発見し
たのは1660年のことであり、クリップのみならず、橋や飛行機の翼、高層ビ
ルなど、技術者が設計するほとんど全ての構造物に影響しています。
この弾性を超えて、長さ10センチ程の針金を3回折り曲げたらクリップは出
来上がりですが、これで「紙を留める」製品として「完成」した、とは言え
ません。
おそらく、だれでも取り出そうとしたクリップが絡まったり、クリップの針
金の先で紙を破った経験はあるでしょう。
こうした「欠点」をあげつらって、「改良した」と言い張るのが「発明」で
あり、事実、これまでにゼムクリップを批判し、特許を取得した「クリップ
」は、何百もあります。
針金の先で紙を破る対策としては、針先を丸くつぶす、先をリング状に丸め
る、針の足をクリップの円弧よりも長くする・・などなど、枚挙に暇があり
ません。
逆に言えば、最良の「クリップ」の探求が、今もって困難であることは明ら
かであり、複数の相容れない目的の「妥協案」を提供することが、ものづく
りであると言えるでしょう。
クリップやジッパー、アルミ缶などを通じて語られる材料力学や発明、加工
機械や環境への影響など、製品と我々エンジニアを取り巻く世界を知る一冊
です。
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◇ カンドコロ! ◇
シャープペンシルの芯や、削ったばかりの鉛筆の芯がポキポキ折れることほ
どイライラするものはない。
カリフォルニアの工学者ドン・クロンキストも手書きレポートを仕上げる間
に何度もこのイライラに遭遇した。
レポートを書き終えて机の上を見ると、鉛筆の折れた芯先がたくさん転がっ
ているのを見つけた。
彼の目を引いたのは、その数の多さではなく、「どれもこれも大きさと形が
ほぼ同じだったことだ」。
そこでこの理由を、彼は「円錐形の片持ち梁」のモデルを作って計算してみ
た。
すると、なるほど計算した「折れた鉛筆の芯」の大きさは、机の上で見つけ
た「芯」の大きさにごく近かった。
しかし、彼は破断面が「傾いている」ことは満足のいく説明をしておらず、
吟味した人々も気に留めていなかった。
それは鉛筆の幅方向に加わる「せん断力」を考慮しなかったことが原因であ
ったが、解析の前提となるモデルの「仮定」が間違っていたためだ。
同じような怠慢による過誤は、分析に取り組む「方法」がどんなに精巧なコ
ンピュータ・モデルを使うようになっても、起こりえるのだ。
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◆ 熱い行動 ◆
机の上の文房具を、どう作っているか考察せよ。
その構造を、力学的に記述してみよう。
「ゼムクリップ」より作りやすく、使いやすいクリップを考案せよ。
「鉛筆の折れた芯」の大きさを計算せよ。
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◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | | (炎3つが満点)
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1 ペーパークリップと設計
2 鉛筆の先と分析
3 ジッパーと開発
4 アルミニウム缶と失敗
5 ファクシミリとネットワーク
6 飛行機とコンピュータ
7 水と社会
8 橋と政治
9 建物とシステム
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◆ 関連ページ ◆
・出版社 朝日新聞社
・アマゾン 『ゼムクリップから技術の世界が見える』
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