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May 24, 2007

ゼムクリップから技術の世界が見える

Zemuclip
 【今週の一冊】
 ●『ゼムクリップから技術の世界が見える』
  アイデアが形になるまで

  著:ヘンリー・ペトロスキー 訳:忠平 美幸(朝日新聞社)
  2003.8 / ¥1,365

----ものづくりを応援!技術士やまさんの「えんぢに屋本舗」-----

 ◆ 燃える一言 ◆


 『われわれは、自然界や既存の人工物について考えをめぐらせ、
 
   それらをどう作り変えたり改善したりすれば人類に有益な目標を
   
    よりよく達成できるか、という問いに答えを出さなければならない』


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 今、皆さんの目の前にあるもので、「人工物」にどんなものがあるでしょう
 か?
 
 そもそも、この文章を目にしているのはPCのモニターや携帯電話のはずで、
 間違いなく100%、工学的な製品です。
 
 いや、おそらくは部屋の片隅の観葉植物と「人間」以外は、ほとんど人工的
 なものばかりでしょう。
 
 本書では、ごくごく身近な文具やアルミ缶から始まり、橋や高層建築に至る
 まで、それらを生み出した「工学」的な背景を、描き出しています。
 
 
 おそらく今、机上で最も単純な「製品」の一つが「ゼムクリップ」でしょう。
 
 あまりに単純で、クリップの「取扱説明書」なんて見たこともないような分
 かりきった製品ですが、クリップが「機能」するために必要な「弾性」が明
 確に理解されたのは、さほど昔のことではありません。
 
 ロバート・フックが「張力は力に比例する」という「フックの法則」発見し
 たのは1660年のことであり、クリップのみならず、橋や飛行機の翼、高層ビ
 ルなど、技術者が設計するほとんど全ての構造物に影響しています。
 
 
 この弾性を超えて、長さ10センチ程の針金を3回折り曲げたらクリップは出
 来上がりですが、これで「紙を留める」製品として「完成」した、とは言え
 ません。
 
 おそらく、だれでも取り出そうとしたクリップが絡まったり、クリップの針
 金の先で紙を破った経験はあるでしょう。
 
 こうした「欠点」をあげつらって、「改良した」と言い張るのが「発明」で
 あり、事実、これまでにゼムクリップを批判し、特許を取得した「クリップ
 」は、何百もあります。
 
 針金の先で紙を破る対策としては、針先を丸くつぶす、先をリング状に丸め
 る、針の足をクリップの円弧よりも長くする・・などなど、枚挙に暇があり
 ません。
 
 逆に言えば、最良の「クリップ」の探求が、今もって困難であることは明ら
 かであり、複数の相容れない目的の「妥協案」を提供することが、ものづく
 りであると言えるでしょう。
 
 
 クリップやジッパー、アルミ缶などを通じて語られる材料力学や発明、加工
 機械や環境への影響など、製品と我々エンジニアを取り巻く世界を知る一冊
 です。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 シャープペンシルの芯や、削ったばかりの鉛筆の芯がポキポキ折れることほ
 どイライラするものはない。
 
 カリフォルニアの工学者ドン・クロンキストも手書きレポートを仕上げる間
 に何度もこのイライラに遭遇した。
 
 レポートを書き終えて机の上を見ると、鉛筆の折れた芯先がたくさん転がっ
 ているのを見つけた。
 
 彼の目を引いたのは、その数の多さではなく、「どれもこれも大きさと形が
 ほぼ同じだったことだ」。
 
 そこでこの理由を、彼は「円錐形の片持ち梁」のモデルを作って計算してみ
 た。
 
 すると、なるほど計算した「折れた鉛筆の芯」の大きさは、机の上で見つけ
 た「芯」の大きさにごく近かった。
 
 しかし、彼は破断面が「傾いている」ことは満足のいく説明をしておらず、
 吟味した人々も気に留めていなかった。
 
 それは鉛筆の幅方向に加わる「せん断力」を考慮しなかったことが原因であ
 ったが、解析の前提となるモデルの「仮定」が間違っていたためだ。
 
 同じような怠慢による過誤は、分析に取り組む「方法」がどんなに精巧なコ
 ンピュータ・モデルを使うようになっても、起こりえるのだ。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 机の上の文房具を、どう作っているか考察せよ。
 その構造を、力学的に記述してみよう。
 
 「ゼムクリップ」より作りやすく、使いやすいクリップを考案せよ。
 「鉛筆の折れた芯」の大きさを計算せよ。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 |   | (炎3つが満点)
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 1 ペーパークリップと設計
 2 鉛筆の先と分析
 3 ジッパーと開発
 4 アルミニウム缶と失敗
 5 ファクシミリとネットワーク
 6 飛行機とコンピュータ
 7 水と社会
 8 橋と政治
 9 建物とシステム
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・出版社 朝日新聞社
 ・アマゾン 『ゼムクリップから技術の世界が見える』
 
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May 10, 2007

レアメタル・パニック

Raremetalpanic
 【今週の一冊】
 ●『レアメタル・パニック』

  中村 繁夫(光文社)
  2007.1 / ¥1,000

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 ◆ 燃える一言 ◆


 『このレアメタル高騰は、25年に1度の大きな波である可能性が高く、
 
     「レアメタル・パニック」はこれから本格化するだろう。
 
          その甚大な影響は「石油ショック」をも超えるだろう』


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 マンホールの蓋や水道の蛇口、果ては公園の滑り台まで、各地で「金属泥棒
 」が頻発しています。
 
 かくまで「珍事」が起きるほど、今、金属材料が異常なほど値上がりしてい
 ます。
 
 その大きな要因が、本書で指摘する「レアメタル」の高騰です。
 
 
 「レアメタル」とは、希少金属のことで、ニッケル、コバルト、タングステ
 ンなど比較的よく知られたものから、インジウム、タンタルなど生産量の極
 めて少ないものまで含み、計31種類あります。
 
 レアメタルは、その名の通り地球上に埋蔵量が少ないもの、もしくは埋蔵量
 は多くても経済的・技術的に純粋なものを取り出すのが難しいため「希少」
 となるものがあります。
 
 そして、今や我々の生活は、「レアメタル」なしには成り立たないのです。
 
 
 例えば液晶テレビの生産工程では、「インジウム」がパネルの透明電極とし
 て使用されます。
 
 リチウムイオン電池にはリチウムやコバルトが、蛍光体にはイットリウムや
 ユーロピウムが原料となります。
 
 そして電子機器や自動車などのモーターに使われる「ネオジム系焼結磁石」
 の原料としてネオジムやサマリウムが用いられ、今後需要が高まる勢いを見
 せています。
 
 つまり最先端の製品が高い性能を発揮するためにはレアメタルは必要不可欠
 であり、そうした製品を多数生産する日本は、世界のレアメタルの25%を消
 費する、世界最大の「レアメタル消費国」なのです。
 
 
 ところが、そのレアメタルの需給バランスが崩れ、市場からなくなっている
 のです。
 
 2003年以降の3年間で、タングステンやバナジウムは約6倍、モリブデンは
 6倍、インジウムに至っては10倍近くまで高騰しています。
 
 この原因は、中国をはじめとする「BRICs」や「Next11」と呼ばれる新興国の
 経済発展にあります。
 
 これまで先進国で分配していたレアメタル資源を、これらの国を含めて分配
 することになり、資源消費マップが大きく塗り替えられているのです。
 
 
 特にこれまでレアメタルの輸出国であった中国が、国内需要の高まりと国家
 戦略により、輸入、更には世界中のレアメタルの「独占」を狙い始めている
 動きに注視せねばなりません。
 
 筆者をはじめ、世界を股にかける「山師」のような商社マンが動かす「レア
 メタル市場」が、日本のものづくりの今後を大きく左右することは間違いな
 さそうです。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 レアメタルが激しい値動きを示す理由として、埋蔵量が少ないことに加えて
 偏在していることが挙げられる。
 
 可採埋蔵量を見ると、ニオブはブラジルに約98%、タンタルは豪州に約93%、
 白金族は南アに約89%、リチウムはチリに約73%とその多くが特定の国に偏
 在している。
 
 また、生産量では、中国が希土類元素(レアアース)で約95%、タングステ
 ンで約83%、アンチモンで約82%を生産し、南アがプラチナで約72%、クロ
 ムで約50%、豪州がタンタルで約67%、チタンで約31%を生産している。
 
 これに対して、日本で操業している鉱山は菱刈金山のみ。
 
 日本は「レアメタル」の争奪戦で、圧倒的不利な状況にあるのだ。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 設計者は安易に「レアメタル」に依存するな。
 数円のVAではカバーできない変動が、レアメタルには付き物だ。
 
 環境技術でレアメタル産出国に貢献せよ。
 中国に偏らず、中央アジア、東南アジアなど広く供給先を確保せよ。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
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 第1章 世界のレアメタルを中国が食い尽くす
 第2章 決して終わらない世界各国の争奪戦
 第3章 世界経済はレアメタルによって作られる
 第4章 なんでもありの商社で世界を駆け巡る
 第5章 独占に次ぐ独占、そして大損のレアメタル商史
 第6章 資源貧国・日本の生きる道
 第7章 探検商社の船出
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・著者 アドバンストマテリアルジャパン
 ・出版社 光文社
 ・アマゾン 『レアメタル・パニック』
 
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