June 29, 2007

千年、働いてきました

Sennenhataraite
 【今週の一冊】
 ●『千年、働いてきました』
  老舗企業大国ニッポン

  著:野村 進(角川書店)
  2006.11 / ¥740

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 ◆ 燃える一言 ◆


 『ケータイという現代の「新しさ」の粋を集めた製品を
 
                  見えないところで支えているのは、
 
   実は「古くさい」と思われがちな老舗企業の力だと言ったら
 
                         言いすぎでしょうか』


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 「現存する、世界最古の会社」といえば、なんとなくイギリスやドイツなど
 ヨーロッパあたりにありそうな感じがします。
 
 しかし、実はここ日本にあります。
 
 しかも、その「創業」は、江戸時代でも、室町時代でも、平安時代でもあり
 ません。
 
 なんと・・「西暦578年」聖徳太子の飛鳥時代なのです!
 
 大阪の「金剛組」という建築会社で、難波の四天王寺を完成させたのが、最
 初の仕事だったとか。
 
 日本には実に10万社以上あると推定される、創業100年以上の「老舗」と
 言われる会社、その中の「ものづくり」企業にこだわった本書を紐解いてみ
 ましょう。
 
 
 冒頭の言のように、皆さんお持ちの「ケータイ」は、日本の老舗企業の底力
 なくしては、全く機能しないと言えるでしょう。
 
 例えば、二つ折り携帯の折り曲げ部分、電気メッキされた銅箔や、電磁波シ
 ールド用の銀入り塗料を作る「福田金属箔粉工業」の創業は、元禄時代、赤
 穂浪士の討ち入り2年前。
 
 もともと屏風や蒔絵に使われた、金箔や粉を作っていた福田金属は、「金属
 の箔や粉」という「コア・ミッション」から外れることなく生き延び、今の
 事業に結びついています。
 
 
 明治24年(1891年)設立の東洋通信機の流れを組むエプソントヨコムは、携
 帯電話の心臓部、「人工水晶」を世界最大手のノキアにも供給しています。
 
 天然物の水晶が数百万年かかるのに対し、エプソントヨコムの技術により数
 ヶ月で一度に3トンもの水晶が生産できるようになったのです。
 
 かつて軍艦や戦闘機に搭載される無線機を製造していた同社が、その技術を
 「より小さく、より安定したもの」へと突き詰めた末にたどり着いた技術が
 「人工水晶」の工業化だったのです。
 
 
 こうした「老舗」企業群の姿からは、変わらない偏屈な「静」のイメージで
 はなく、柔軟性と即応性の富んだ「動」の組織が見えてきます。
 
 しかし一方では、創業以来の家業の部分は、たとえ利益には直接結びつかず
 とも、頑なに守り抜く「頑固さ」も併せ持っています。
 
 バブル期に土地転がしや多角化によって消えていった企業とは、一線を画し
 ているのです。
 
 「会社の寿命は30年」と言われる中、脈々と受け継がれる「老舗」のもの
 づくりには、学ぶべき「技術」と「哲学」が流れています。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 液体窒素の零下196度の世界に一週間放置されても、90度の熱湯に一時間漬け
 ても、純度100%のエチルアルコールに1週間入れても、はたまた17年間も乾
 燥したままであっても「死なない」生き物がいる。
 
 「ネムリユスリカ」をいうアフリカ中部に住む蚊の一種だ。
 
 その驚異的な生命力の最大の理由が、「トレハロース」という糖を自分の体
 内で作り出し、一つ一つの細胞を守っているからだ。
 
 
 この「トレハロース」の大量生産に世界で初めて成功したのが、創業123年の
 「林原」である。
 
 甘味だけではなく、乾燥や冷凍にも強い特長を生かして、菓子類はもとより、
 様々な食品の砂糖やブドウ糖が、近年トレハロースに置き換わっている。
 
 トレハロース自体は昔から発見されてはいたが、抽出が極めて難しく、「夢
 の糖」とまで言われていた。
 
 その量産化に林原が成功したのは、同族経営の老舗企業の強みである、長期
 的でハイリスク・ハイリターンな研究開発に投資ができたお陰だと言えるだ
 ろう。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 あなたの仕事の「コア・ミッション」は何だろう。
 目先の利益ではない、「利他」の使命でなければ100年は続かない。
 
 軸足を据えて、もう片足を広げよう。
 じっとしたままでは進歩はないが、一足飛びでは進めない。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 炎 | (炎3つが満点)
-----------------------------------
 ◎ 目 次 ◎

 プロローグ 手のひらのケータイから
 第1章 老舗企業大国ニッポン
 第2章 ケータイに生きる老舗企業の知恵
 第3章 敗者復活
 第4章 日本型バイオテクノロジーの発明
 第5章 “和風”の長い旅
 第6章 町工場 ミクロの闘い
 第7章 地域の“顔”になった老舗企業
 エピローグ 世界最古の会社は死なず
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・金剛組
 ・福田金属箔粉工業 金属粉末、箔
 ・エプソントヨコム 水晶デバイス
 ・林原 トレハロース
 ・出版社 角川書店
 ・アマゾン 『千年、働いてきました』
 
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June 08, 2007

手作りですが精度はミクロン単位です

Tedukuridesugaseidohamikuron
 【今週の一冊】
 ●『手作りですが精度はミクロン単位です』
  世界を制するオンリーワン中小企業

  著:木村 元紀 編:みずほ総合研究所(洋泉社)
  2007.2 / ¥1,680

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『モノづくりの本質は、高度な基盤技術と技能を持った
 
    中堅・中小企業の細部にこそ宿る―そう言っても過言ではあるまい。
 
   生産現場は絶えず自己変革をし、競争条件の変化を乗り越えようと
 
                      弛まない努力を続けている。
 
       その蓄積が、日本の製造業の未来を担っていくことになる。』

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 ※本記事は07/3/21発行のメルマガの内容です。

 大手メーカーの春闘の結果が出揃い、前年を上回る給与賞与で妥結したと報
 道されています。
 
 これに対し、中小企業では「いざなぎ超え」の景気回復は実感がなく、格差
 が広がっている・・というのがどこかの政党の掛け声にもなっています。
 
 確かに大企業の収益力は突出していますが、本書に挙げた19の中小企業は、
 いずれも業績は伸びています。
 
 その「突破力」がどこにあるのか、ちょっと覗いてみましょう。
 
 
 長野県の「アールエフ」が開発した「NORIKA3」は、風邪薬のように飲み込み、
 消化器を通って排泄されるまでの7~8時間に渡って体内の様子を撮影、リ
 アルタイムでモニターできる内視鏡です。
 
 イスラエル製の同様なカプセル内視鏡がバッテリー内蔵で1秒に2コマの静
 止画しか撮影できないのに対し、「NORIKA3」は30コマ/秒の動画撮影が可能
 です。
 
 この高機能の秘密は、カプセルへの電力供給を体外から無線で行うことがで
 きる点にあります。
 
 更に、カプセルの駆動も、極小のモータをカプセルに内蔵するのではなく、
 体外の電磁石に対してカプセルを「回転子」とするユニークな構造で実現し
 ています。
 
 「新しい製品を作るとき、壁にぶつかったら、その分野の掟を破ることで突
 破口が開かれる」という丸山社長の発想こそ、同社成長の原動力です。
 
 
 板金に小径穴を多数打ち抜いた「パンチングメタル」は、物質の分離・濾過
 ・粉砕・脱水などに活用されます。
 
 常識的には穴径は板厚と同等までが限界とされていますが、「布引製作所」
 では最大166%(2mmの板厚に1.2mmの穴径)まで可能にしています。
 
 最小の穴径は0.25mm、幅200mmに500本ものピン状のパンチが埋め込まれた金
 型は圧巻ですが、驚くのはその受け側となる無数に穴の空いたダイの加工は、
 最新鋭の工作機械ではなく、改良した「ボール盤」。
 
 NC機ではドリルが折損するまで気が付きませんが、ボール盤を使って作業
 者が目と耳と手先の感覚でドリルの切れ味を「感じ」、再研磨・調整するこ
 とで高精度な穴あけを実現しているのです。
 
 
 こうしたオンリーワン技術は、ハイテクよりもアナログな「職人技」こそ中
 小企業に適していると筆者らは指摘しますが、それができる企業は限られる
 でしょう。
 
 ならば、「普通の中小企業」は地域密着の仕事、つまり「食」「住」「環境
 」「福祉」こそが生き残る道だと説きます。
 
 元気な中小企業を鑑として、自社の「コア」と「食住環福」を掛け合わせる
 ことが、生き残りのヒントとなるでしょう。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 本書のタイトルにもある「ミクロン(1/1000mm)」以下の精度で粉粒体の形状
 を加工したり、表面処理をする技術がある。
 
 例えば、UVカットファンデーションには、紫外線吸収効果の高い二酸化チ
 タンが配合されているが、粒径が0.1μmになると毛穴に入り込んでしまう。
 
 そこで10μm程度のナイロンの粒子の表面に二酸化チタンをコーティングす
 ることで、その機能を引き出しているのだ。
 
 こうした粉粒体処理装置を製造しているのが大田区の奈良機械製作所だ。
 
 粉体を機械的に粉砕する方法には「たたく、つぶす、擦る、切る」をいう4
 つの原理があるが、これらでは0.1~0.5μmが限度だ。
 
 そこでより細かいナノ粒子を作る方法として開発されたのが「レーザーアブ
 レーション・システム」である。
 
 ハード面では特段斬新な技術が採用されているわけではないが、オリジナリ
 ティが発揮されているのは、各要素をシステム化するための総合的なエンジ
 ニアリング力だ。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 「理科」で学ぶ原理原則にこそチャンスあり。
 単純な精密化・微細化ではない、発想の転換が突破力になる。
 
 「格差」「弱者」と呼ばれることに甘んじるな。
 中小企業に適した市場は、必ずある。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 炎 | (炎3つが満点)
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 第1章 世界を制する研究・技術開発力
 第2章 深化するコア技術―コア技術を磨き、高付加価値を極める
 第3章 オンリーワンの熟ワザ
 第4章 常識を覆す“顧客対応・生産技術”革命
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・アールエフ カプセル内視鏡Sayaka
 ・布引製作所 パンチングメタル
 ・奈良機械製作所 レーザーアブレーション・システム
 ・出版社 洋泉社
 ・アマゾン 『手作りですが精度はミクロン単位です』
 
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April 05, 2007

製造業崩壊

Seizougyouhoukai
 【今週の一冊】
 ●『製造業崩壊』
  苦悩する工場とワーキングプア

  著:北見 昌朗(東洋経済新報社)
  2006.12 / ¥1,680

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『必要なのは「1人が100歩進む」ことではなくて
                  「100人が1歩進む」ことである。
 
    製造業はそのほうが業績向上につながる。
    
      人材は、長期的な視野で育てよう。
                  目先の成果主義では人材は育たない』

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 突然ですが、あなたの職場では、こんな項目に当てはまりませんか?
 
 □ 30代前半の男性社員の未婚率が5割以上ある
 □ 男性の新入社員が入社3年以内に5割以上退社している
 □ 工場で働く人の半分以上が「外国人+派遣+高齢者+パートタイマー」
   になっている
 □ 最近は社内の飲み会がめっきり減った
 □ 社長が社員に対して結婚の世話をしたことがない
 
 該当する項目が多ければ、あなたの会社は「内部崩壊が始まっている」と、
 筆者は指摘します。
 
 そんなこと関係あるの?といぶかしく思う向きに対し、独自のデータから、
 皆が漠然と感じている製造業の問題点のあぶり出しを試みています。
 
 
 現在の中小企業の人員構成を、筆者のデータを縮小して「男性社員58人」
 の会社と考えると、平均年齢38歳、勤続年数10年となります。
 
 つまり、「中途入社」が多いことが見て取れます。
 
 また、入社3年以内という新人が18人、入社4年以上10年未満が16人
 で、合わせて6割を占めます。
 
 一方で、入社20年以上のベテランは10人しかおらず、「一部の古手社員
 +多数の新人」という人数構成が見えてきます。
 
 この団塊世代に代表されるベテランは、間もなく退職を迎え、一方で若手社
 員は「3K」を嫌い、入社3年目までに半数が転職していくのです。
 
 これが現在、最も潤う愛知県でのデータというのですから、暗澹たる気持ち
 にさせられます。
 
 
 この現状を破るには、やはり「人づくり」が原点です。
 
 会社に対する愛着を持つ社員とするためには、新卒を採用して育てることが
 ポイントですが、大都市部ほど中小企業の求人は困難を極めます。
 
 そこで会社の「採用力」を構成する方程式を挙げましょう。
 
  採用力=待遇のよさ×ホームページ×求人費用×企業イメージ×立地
 
 いずれも「金」のかかる項目ですが、すぐに辞めてしまうような新入社員し
 か雇えなければ、1人年間1,000万円にも及ぶ「投資」が無駄になるのですか
 ら、目先にとらわれてはなりません。
 
 
 日本のものづくりの足元を支えている町工場に、ひたひたと迫っている「崩
 壊」を、今、食い止めねば、大企業も、地方も国も雪崩に巻き込まれます。
 
 苦言から目をそらさず、我がこととして凝視せねばなりません。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 「技能伝承」の問題が指摘されて久しい。
 
 日本のものづくりにおいて不足間の強い技術職とはどんなものだろうか。
 
 2006年の「ものづくり白書」によれば、以下が挙げられる。
 
 ・設計
 ・製毛、紡績、製織、剪毛、編成、縫製又は染色
 ・切削
 ・溶接
 ・熱処理
 
 これらの基盤技術において一人前になるまで要する期間は「5~10年」とい
 う長期間がかかることもあるので、今後中長期的に見て、日本のものづくり
 のネックとなりかねない。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 「最近の若い者は」と嘆くだけでは済まされない。
 まずは「我が子」「我が後輩」に「ものづくり」の喜びを伝えよ。
 
 「楽しい仕事」「自分にあった仕事」の青い鳥の尾を追うな。
 一所懸命(一つ所で命を懸ける)の君の横に、青い鳥がやってくる。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 |   | (炎3つが満点)
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 第1章 異変あり!独自調査が明かす「中小製造業の就労問題」
 第2章 「ものづくり」は「人づくり」という原点に戻ろう
 第3章 「こんな若者に誰がした!」製造業崩壊の原点を探る
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・著者 北見 昌朗
 ・出版社 東洋経済新報社
 ・アマゾン 『製造業崩壊』
 
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February 15, 2007

負けるな町工場

Makerunamachikoujyo
 【今週の一冊】
 ●『負けるな町工場』
  ハンデをプラスに変える発想法

  著:中里 良一(日刊工業新聞社)
  2002.6 / ¥1,890

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『今日、長引いた不況で町工場の経営に夢も希望も
 
              なくしている経営者は大いに違いない。
   
  しかし、町工場の一番大きな財産は、
  
    “小さいからこそ自分の好きな夢がみられる”ことであろう。
      
                     その夢をなくしてはいけない』

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 「町工場」と聞いて、イメージするのはどんな姿でしょうか。
 
 狭い路地裏にある油にまみれた薄暗い工場。
 納期に追われ、薄汚れた作業服で、黙々と働く年老いた社員。
 仕事量の確保や、資金繰りに汲々とする経営者―。
 
 そんな、夢も希望もない、いわゆる「3K(暗い、汚い、きつい)」職場の
 代表のように描かれることが多いことでしょう。
 
 しかし、本書の著者が経営する「中里スプリング」は、規模こそ「町工場」
 ではあるものの、どんな大企業にも劣らない「楽しい、夢の溢れる」工場で
 す。
 
 
 例えば、一年間で最も頑張った社員に対する報酬は、金一封、なんてもので
 はなく、「会社の設備と材料を自由に使って自分の好きなものを作ることが
 できる権利」が一つです。
 
 ばね材料を利用して、ロボットやカブトムシなど自由に作って良い権利であ
 り、これが新たに「ワイヤーアート」という新しい事業のベースにもなって
 いるのです。
 
 さらにもう一つ与えられる権利が、自分の担当しているお客さんの中で、自
 分が親しみを持てない取引先を「リストラ」する権利です。
 
 ちょっと驚くべきことですが、これも社員が楽しく仕事をするためであり、
 「取引先は取引額でなく、好き嫌いで判断する」のが中里流なのです。
 
 
 また、コンサルタントのセンセイに言わせれば、町工場は「作業環境が悪い」
 「整理が悪い」「いい設備がない」など問題点だらけですが、それを「欠点
 だらけ」ではなく「個性に溢れている」のだと、発想の転換を促します。
 
 もし小さくて薄汚いけれど行列のできるウマいラーメン屋と、オシャレで広
 々としているが、食べに行ってもこれといった特徴のないレストランとであ
 れば、多くの人は前者に行くでしょう。
 
 町工場も、同じ労力をかけるのならば、不慣れな社員教育や生産管理に向け
 るより、徹底して得意な分野を盛り上げていった方が社員も楽しいし、変に
 ぎくしゃくしたところがなくなります。
 
 本当に優秀な技術や製品ならば、町工場のつまらない欠点なんか、どうでも
 いいのです。
 
 
 町工場が本当に何とかしなくてはいけない「3K」とは、「企画力がない」
 「既成概念から抜け出せない」「希望がない」の3つであり、この3Kから
 抜け出すことが、町工場の未来を拓くのです。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 ハンデをプラスに変える発想法は、「負けるな町工場!勝ち上れ!」
 
  負 負の連鎖から抜け出し
  け 健全な経営をして
  る 留守番役の脇役で終わるのではなく
  な なるほどと思わせる技術を持ち
  町 町にとって必要不可欠な大きな歯車となり
  工 工程を楽しむモノづくりを行う
  場 場所であると自覚すべし
  ! !
  勝 勝利を目指して
  ち 力を合わせて
  上 上昇気流の風を呼び寄せ
  れ 劣等感を自信に変えよう
  ! !

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 ◆ 熱い行動 ◆
 ステレオタイプな批評や講釈は、現場では間に合わない。
 「中小企業だから」「下請けだから」と、愚痴をこぼさず汗こぼせ。
 
 ものづくり、人づくりは楽しいもの、楽しませるものだ。
 会社を大きくするのは、金を儲けるのは何のためか。原点を忘れるな。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
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 第1章 生きている町工場
 第2章 求められる経営者像
 第3章 小さな会社がやるべきこと
 第4章 情報化時代の町工場
 第5章 負けるな町工場
 第6章 五〇音別経営名言集
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・著者 中里スプリング
 ・出版社 日刊工業新聞社
 ・アマゾン 『負けるな町工場』
 
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February 14, 2007

日本ものづくり優良企業の実力

Nipponnmonodukueiyuuryoukigyou
 【今週の一冊】
 ●『日本ものづくり優良企業の実力』
  新しいコーポレート・ガバナンスの論理

  著:土屋勉男(東洋経済新報社)
  2006.11 / ¥1,890

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『日本経営は、ものづくり現場における業務執行能力を生かした
 
      経営が基本であり、人間を大切にし、その能力を組織的に
 
                      改善することを重視する。

       それが差別化された価値創造の源泉であることは間違いない』

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 ※本記事は07年初にメルマガで配信した内容です。

  明けて2007年、穏やかな正月休暇を過ごされた方も多いことでしょう。
 
 新年にあたり、「ものづくり」を大所高所から眺めるべく、今回は日本のも
 のづくり優良企業の「経営」にスポットを当てた書籍を紹介しましょう。
 
 
 SOX法やTOC、ブルーオーシャン戦略…
 
 アメリカ発の企業経営の法律や手法は、手を変え品を変え色々出てきます。
 
 しかし、トヨタやホンダ、キヤノンや松下電器など、日本を代表する「もの
 づくり」企業は、決して米国型の経営手法を真似たものではありません。
 
 
 米国型の企業統治が、社外取締役が中心になって経営者(CEO)を監督す
 るのに対して、日本型は経営監督と執行が未分化であることが「弱点」と指
 摘されることがあります。
 
 また戦略面でも、戦略立案と執行が明確に分離された米国に対し、日本では
 執行役が経営方針を決議しつつ執行する、これも未分離な体制となっていま
 す。
 
 ところが、上記に代表される優良企業は、その弱点とされる監督と執行、戦
 略と執行が未分離である体制を活かし、本業に軸足を置き、「現場」を知り
 抜いた社内取締役が中心となったコーポレート・ガバナンスを実現している
 のです。
 
 
 例えば、キヤノンは取締役25名に対し、社外取締役は採用していません。
 
 高度に多角化した技術分野の経営判断を、月1度程度の取締役会に社外から
 参加しても、適切な経営判断や監督機能が発揮できないと判断し、実質は、
 年40~50回に及ぶ経営会議などで常時審議されるのです。
 
 経営の重要事項に対して適切な経営判断を行うためには、役員同士の価値観
 や経営理念の共有が不可欠です。
 
 そこで、同社では社長や役員を中心に「毎日」朝8時から9時まで「朝会」
 が開催され、そこで経営判断のための情報収集や、役員の育成が行われます。
 
 これが米国流とは異なる「キヤノン流のコーポレート・ガバナンス」の仕組
 みの一つとなっているのです。
 
 加えて、部門毎による事業の執行に対し、内部統制を図る全社横断的な委員
 会等の組織(企業倫理委員会、情報開示委員会など)によって横串を通し、
 トップの方針を浸透させる仕組みをとっていることも特徴の一つです。
 

 日本企業の強みといえば、ものづくり現場の能力構築能力であると分析され
 てきましたが、更にその執行・統治においても、日本独自のスタイルを磨き
 上げた企業こそが、ものづくり力を活かし切れるのです。
 
 この「日本型の強み」を基盤としつつも、米国型のよさを学習し、経営手法
 そのものを「カイゼン」することこそ、今後の突破力の源泉であることを、
 最後に筆者は指摘しています。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 ホンダは創業以来、経営理念先導型、それも創業者「本田宗一郎」の経営理
 念に先導されたユニークな企業としての特徴を持っている。
 
 近年、本田宗一郎と同じ釜の飯を食った仲間は、少しずつ引退し、今では経
 営の役員層や高齢層の一部に限られてきているのが実情である。
 
 それでも、創業者の経営理念を誇りとして大事に守り、それを経営に生かす
 不断の努力を続けている。
 
 それが結果として、同社を他社と差別化されたユニークな経営スタイルを持
 つ企業に育て上げてきた。
 
 その経営理念は「ホンダフィロソフィ」として、基本理念、社是、運営方針
 からなる企業哲学に体系化されている。
 
 そして、難しい経営判断の局面では、この「ホンダフィロソフィ」を拠り所
 とし、共通の「創業者」経営理念のもとで各取締役が「ワイガヤ」の精神に
 則って喧々諤々の議論を行うことで、経営判断の精度を上げているのだ。

───────────────────────────────────
 ◆ 熱い行動 ◆
 マネジメントもガバナンスも、時代や流行に振り回されるな。
 短期的な利益や評価のために、自社の強みを殺すことになる。
 
 現場のものづくりと経営は不可分だ。
 戦略と執行のPDCAを速やかに回す「しくみ」づくりがキモだ。
-----------------------------------
 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
-----------------------------------
 日本経営の本当の「強み」
 1 日本企業が直面している課題
 2 コーポレート・ガバナンスとは何か
 3 日本のものづくり優良企業のコーポレート・ガバナンス事例研究
 4 日本経営の戦略とコーポレート・ガバナンス―その特性と相互連関性
 5 日本経営のコーポレート・ガバナンス―今後の展望と課題
 補論 日本ものづくり優良企業の新しい戦略構想
  ―自動車メーカーの垂直統合型モデルの考え方
-----------------------------------
 ◆ 関連ページ ◆
 ・著者 土屋勉男
 ・キヤノン
 ・本田技研工業
 ・出版社 東洋経済新報社
 ・アマゾン 『日本ものづくり優良企業の実力』
 
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January 31, 2007

世界の自動車を造った男

Sekainojidousya
 【今週の一冊】
 ●『世界の自動車を造った男』
  荻原映久、50年のモノづくり人生

  著:生江 有二(日刊工業新聞社)
  2006.10 / ¥1,785

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『技術は日々、先進する。
 
    コストを下げることを忘れ、研究に力を注がず、
           現状に満足していると、すぐに追い抜かれてしまう。
  
      前進か死か。
  
               これは製造業の全てにいえることなんです』

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 2004年に世界各国で生産された自動車台数は63,956,415台(日本自動車工業
 会調べ)。
 
 この年、世界では8億3681万台の車が走っており、これは世界の人口で7.5人
 に1台の割合です。
 
 その8億台あまりのクルマのうち、1億台を越える車を日本の1つの会社が
 造っていることを、ご存知でしょうか。
 
 
 その会社とは、金型メーカ「オギハラ」。
 
 正確には、「オギハラの製作した金型でボディを製造した車が1億台以上」
 ということです。
 
 この途方もない膨大な自動車生産を支えるために、オギハラは、日本、アメ
 リカは当然として、実に5大陸全てに工場を構える、グローバル企業なので
 す。
 
 オギハラと、その金型技術を支えた荻原映久氏の技術者の半世紀は、世界の
 中の日本のものづくりを語るに欠かせない、貴重な歴史です。
 
 
 オギハラの海外進出第1号は、意外なことにオーストラリアでした。
 
 昭和39年、当時のフォードオーストラリアの金型は、主に米国から輸入して
 おり、日本で100万円程度の型が800万から1,000万円ほどしていたため、日本
 の金型メーカが注目されていました。
 
 通常の3倍ほどの見積価格にしても安すぎると疑問に思われ、現場まで見に
 来た上での受注となったのでした。
 
 このときに、米国等に通用する、インチ単位の図面や部品のノウハウを手に
 したことが、後の海外進出の足がかりとなったのです。
 
 
 更にその後、旧ソ連の自動車メーカにトラック用の金型を納め、アメリカの
 現地工場立ち上げ、BIG3との丁々発止の交渉、中国・台湾・韓国の急成
 長との格闘など、めまぐるしい世界展開が続きます。
 
 更にはタイ、インド、そして南アフリカ、メキシコなど、ごく最近注目され
 始めた国々にも、「声がかかった翌朝の出社時間までに飛んでいく」ほどの
 フットワークで営業・進出を繰り返し、今日の「オギハラ」となったのです。
 
 
 しかし、グローバル化の波は、日本的な家族経営のオギハラも飲み込み、20
 03年に外資との提携直前まで追い込まれ、結局、大和証券による資本参加と
 なったことは、記憶に新しいところです。
 
 最新加工機で無人24時間加工が可能な、大手自動車メーカの金型技術、また
 躍進著しい新興国の安価な金型など、オギハラの優位は脅かされつつありま
 す。
 
 綺麗事ばかりではない、グローバルなものづくりの「過去・現在・未来」が
 見える一冊です。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 70年前まで、職人の「手作り」で金型は造られた。
 
 一体、数トンにも及ぶ鉄の塊から、どうやって「手作り」するのか。
 
 特殊な鋳物でできたカマボコ型の金型の原材に、タガネを用いて、深さ5ミ
 リ程度の溝を約100ミリピッチで縦横につけていく。
 
 溝と溝の間は100ミリ×100ミリ程度の切り餅大の山が残るが、これを再びタ
 ガネ(多くは鉄砲と呼んだエアコンプレッサを使った自動タガネ)で削り取
 っていく。
 
 おそろしく地味な作業だ。
 
 しかも1000分の1ミリ以下の誤差で削らないと、プレス機にかけてから鉄板
 が裂けたり、皺ができたりすることになる。
 
 それを手作業で作り出してきた時代が長く続いていたのである。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 「グローバル化」は、日米欧だけではない。
 BRICs、東南アジア、そしてアフリカの「今」を知れ。
 
 ものづくりも、ビジネスも、「人と人」がつくる。
 本音で付き合わなければ、いいもの、いい仕事はできない。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
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 第1章 ビッグ3
 第2章 鉄工所の映画館
 第3章 初受注
 第4章 海を越えて
 第5章 紊乱のデトロイト
 第6章 TJ、世界自動車市場を行く
 第7章 中台韓・激動するアジア市場
 第8章 五大陸に吹く風―南ア、メキシコ
 第9章 環境へのまなざし
 第10章 世界市場、ふたたび
 終章(あとがきに代えて) 培った技を継承するまで
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・オギハラ
 ・出版社 日刊工業新聞社
 ・アマゾン 『世界の自動車を造った男』
 
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January 18, 2007

時計屋が育てた世界のベストセラーマシン

Cincom
 【今週の一冊】
 ●『時計屋が育てた世界のベストセラーマシン』
  シチズン「Cincom」物語

  著:春田 博(日刊工業新聞社)
  2006.10 / ¥1,680

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『低迷する日本のモノ作りに必要なのは、作り手の「美学」である。
 
   「美学」とはイコール、人の「器」のことであり、
                   「器」とは「魂」のことである。
 
       この「魂」が今、日本経済を支える技術者に求められている』

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 「シチズン」といえば、もちろん「時計」。
 
 一方、精密な時計を作るためには、当然精密な加工機械が必要であり、その
 自動機を内製し、そして外販していることは、一般的にはあまり知られてい
 ません。
 
 加工機械専門メーカーがしのぎを削る中で、その「時計屋」シチズンが世に
 送り出した自動旋盤「Cincom(シンコム)」シリーズが、世界の40%以上
 というトップシェアに至ったのはなぜか。
 
 その秘密を探ってみましょう。
 
 
 今でこそ日本の工作機械は、世界をリードする力強いマザーマシンとしての
 地位を築いていますが、半世紀前までは欧米の力は抜きん出ていました。
 
 シチズンは創業時から時計製造用の工作機械を作っていましたが、いずれも
 基本コンセプトは外国機械の模倣でした。
 
 「こんなことをしていては、将来も夢もない」と奮起し、未だ国内の専業工
 作機械業界でもNC(数値制御)工作機械の開拓期であった1962年、自前の
 NC機械の開発を始めました。
 
 NC工作機械の対象に選んだのは、時計製造用自動機に多数使用されていた
 「カム」を加工する、カム成形機であり、65年に国内屈指の早さで市場に送
 り出したのでした。
 
 
 当時、カム式自動旋盤を外販していたシチズンでしたが、カム式は段取替が
 頻繁であり、複雑な形状を一気に加工するには限界がありました。
 
 そこで、「カム式自動旋盤からカムをなくそう」を合言葉に、「夢」に挑戦
 したのです。
 
 「カム」の加工を近代化するために開発したNC技術を活用し、「カム」を
 なくす自動旋盤の開発に取り組むという、皮肉な展開であり、「NC化して
 も上手くいかない」というのが世の定説でしたが、これが新しい「工作機械
 NC時代」の幕開けとなりました。
 
 
 後に「ドリームマシン」といわれた名機「シンコムF-12」は、五角形の回転
 刃物台を2個対向位置に配置し、一方のタレットに取り付けた切削工具で加
 工中に、他方のタレットで次の切削工具の選択を行い待機し、非加工時間を
 最小とする工夫が凝らされていました。
 
 その他独特の構造で、剛性と精度の向上を図り、またこれまでの工作機械に
 ない清潔感ある斬新なデザインが受け、シチズンシンコムは量産体制が間に
 合わないほどの大ブレイクを迎えたのです。
 
 
 その後、専門工作機メーカーもこぞってNC化を進めてきたことはご承知の
 通りですが、シンコムは同一シリーズで累計5万台を間もなく迎える、工作
 機械としては異例のベストセラーとして君臨しています。
 
 汎用機が自動旋盤に近づいてきた昨今、かつてカム式からNC化に進んだよ
 うな画期的な技術開発ができるのか。
 
 シチズンのエンジニアたちは新たな「夢」を描き、実現するために模索を続
 けています。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 シチズンの軽井沢工場は、工場そのものを展示場とし、日常業務を全てオー
 プンとしている。
 
 中でも見ものなのが「きさげ」だ。
 
 「きさげ」は仕上げ面をさらに精密に仕上げるために、手作業で凸部分を削
 り取っていく作業だ。
 
 大きく分けて、日本式の「腰で押す」方法と、欧州式の「腕で引く」方法と
 がある。
 
 どちらの方が仕上がり具合がよいかは別として、日本では珍しい欧州式も含
 めて、シチズンでは両方の技術を修得している。
 
 
 工作機械に「きさげ」が必要なのは言うまでもないが、この技術を独学で身
 に付けることは難しい。
 
 匠の代表格と言われるだけに、技能伝承なくして覚えられるものではない。
 
 シチズンでは「きさげ」担当者が4名おり、40年近く取り組んできたベテ
 ランが、30代、20代の後進を、やってみせ、やらせて指導している。
 
 現在は作業全体にしめる「きさげ」の比率はわずか数%で、「きさげ」を必
 要としない機械が多くなっているが、担当者に「手当て」を支給してまで、
 この技能を伝承することを大切にしているのだ。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 技術者は、自由な発想で「夢」を語れ。
 「夢」-「現実」=「今、取り組むべき仕事」と考えよ。
 
 「汎用品」をブラックボックスで使うな。
 内製化して取り込むことで、機械がレベルアップできる余地がある。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 火 |   | (炎3つが満点)
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 第1章 シチズンは元々工作機械屋だった
 第2章 シチズン精機設立と軽井沢工場
 第3章 シンコムを売りまくろう
 第4章 会社を変える、工場を変える
 第5章 次の一手は海外にある
 第6章 名実ともに世界ナンバーワンにしたい
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・シチズン工作機械 Cincom
 ・出版社 日刊工業新聞社
 ・アマゾン 『時計屋が育てた世界のベストセラーマシン』
 
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January 11, 2007

この国の魂

Konokuninotamashii
 【今週の一冊】
 ●『この国の魂』
  技術屋が日本をつくる

  著:立花 啓毅(二玄社)
  2006.10 / ¥1,260

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『低迷する日本のモノ作りに必要なのは、作り手の「美学」である。
 
   「美学」とはイコール、人の「器」のことであり、
                   「器」とは「魂」のことである。
 
       この「魂」が今、日本経済を支える技術者に求められている』

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 以前、米経済紙『ビジネスウィーク』に、「日本車は日本人のイメージとそ
 っくりで、おもしろくない」と書かれたことがあるそうです。
 
 それこそ「おもしろくない」記事ですが、レクサスが苦戦し、欧米高級車が
 依然、人気を誇っている現状を見及ぶに、頷かざるを得ない部分もあります。
 
 筆者は、「我々自身が面白みや文化、哲学を持たないからクルマもそうなっ
 てしまう」と断じます。
 
 日本車の中でも名車と謳われる、ユーノス・ロードスターやRX-7のプロジェ
 クトリーダーを歴任した筆者ならではの、辛口「ものづくり」論に耳を傾け
 てみましょう。
 
 
 繊維産業はイギリスの産業革命を機に機械化され、大量生産されるようにな
 ると、イギリスからコストの安いアメリカ東海岸に移りました。
 
 次に西海岸へ、そして日本へ。更に韓国、中国へと移行しました。
 
 家電も同じ運命をたどっているように、商品は完成域に達すると、人件費の
 安い地域へ流れていきます。
 
 これを「商品循環論」といい、この風は否応なく世界中に吹き荒れています。
 
 
 クルマも技術的には完成域に達しており、ヨーロッパでは影の薄いメーカー
 は姿を消し、アメリカではビッグスリーも苦境に立たされています。
 
 では日本のメーカーがこの「商品循環論」の風に吹き消されないためには、
 どうすればよいのか。
 
 今や中国の独壇場となった繊維産業であっても、西陣織や紬など、個性や文
 化的背景のあるものは生き残り、世界から尊敬されています。
 
 この個性や文化こそ、「美学」であり「魂」です。
 
 世界一の品質と生産台数を誇る日本車に足りないもの、それがこの「魂」だ
 と筆者は声高に叫んでいるのです。
 
 
 過去の実績の積み重ねから、コンピュータの解析で試作車の完成度は、初め
 から80%程度にまで到達できるようになりました。
 
 しかし、「ニッパチの法則」と言われるように、残りの2割を高めるには、
 8割の力が必要とされ、現在のクルマは、まさに最後の詰めにエネルギーを
 かけるか否かで決まります。
 
 最後の20%を持ち上げる力こそが、技術屋の「魂」であり、クルマを総合
 的に判断できるセンスなのです。
 
 
 筆者はこの「魂」を、教育論や国家論まで掘り下げて語っているように、も
 のづくりの原点は、小手先ではない、人間性に深く根ざしたものであること
 を気付かせてくれる一冊です。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 デザインとは、「行動原理」に沿ったものでなければならない。
 
 「行動原理」とは、例えば次のようなことだ。
 
 ドアのインナーハンドルを搭乗者により近づけると、使い勝手は悪いが、身
 体をひねってドアを開けようとする。
 
 すると上半身が後ろを向き、自然に後方を確認してからドアを開くことにな
 る。
 
 意識せずとも安全を確認することができるわけだ。
 
 デザインとは、人の動きの中に溶け込んだ造詣でなければならないのだ。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 流行を追うな。大衆に媚びるな。
 人の意見を取り入れすぎると、平均点のつまらないものにしかならない。
 
 器は感動の量に比例する。
 器は愛することの喜びと、悔し涙の回数に比例するのだ。
-----------------------------------
 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 |   | (炎3つが満点)
-----------------------------------
 第1章 モノってなんだろう?
 第2章 魂あるクルマ
 第3章 モノ作りの要諦
 第4章 日本は腑抜けになった
 第5章 オトコとしての価値
 第6章 視点を変えると世界が見える
 第7章 作り手としてのプライドを見せよ
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・マツダ ロードスター
 ・出版社 二玄社
 ・アマゾン 『この国の魂』
 
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December 28, 2006

強い工場のしくみ

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 【今週の一冊】
 ●『ものづくりの教科書 強い工場のしくみ』

  編:日経ものづくり(日経BP社)
  2006.10 / ¥2,940

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『日本の工場に求められる役割
 
   ――それは、高付加価値の製品を顧客に素早く供給すること、
   
     さらには海外工場のお手本になる高い生産性で生産することだ。
    
   そして、現在高収益を上げている“強い工場”は、
   
              それを実現する“しくみ”を確立している。』

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 「いざなぎ超え」もついに実現し、今や国内の景気、そしてものづくりの勢
 いは完全に回復しました。
 
 しかし、この波に乗っているだけでは、やがて今後行き詰るのは目に見えて
 います。
 
 グローバル企業との競争、環境や安全など新技術への対応、高年齢化による
 労働力不足・・。
 
 今こそ、工場から徹底的にムダを取り除き、ものづくりを進化させる取り組
 みが必要です。
 
 世界に誇る、日本の強い50の工場の事例から、そのヒントを掴み取りまし
 ょう。
 
 
 まず第1の特集は、やはり「トヨタ生産方式(TPS)」。
 
 これまで自動車組立工程に代表される、BtoC製品に主に適用されてきたTP
 Sが、上流の部品・ユニットなどの半完成品にも広がってきています。
 
 「造り過ぎのムダ」を省くため、「後工程が引き取った分だけ前工程が補充
 するプル生産」が基本となりますが、バッチ処理の工程がある部品には向か
 ないように思われていました。
 
 しかし、「流せるところは流し、流せないところはストア(棚)を設置」が
 最近の時流です。
 
 もちろん、ストアには番地制で決められた場所に決められた数しか置けない
 ようにして、前工程の押し込みを防ぐ仕組みが必要です。
 
 
 第2は「セル生産」。
 
 多品種少量生産に向き、生産量の変動にも強いとされるセル生産についても、
 「急激な増産には対応できない」「部品の在庫が増える」「作業ペースが個
 人任せで管理しにくい」などの問題を解決せねばなりません。
 
 急増する生産を、熟練者と同様にパートや請負作業者がセルで対応するのは
 困難ですから、ピーク時にはベルトコンベアの併用、あるいは変動分をセル
 で対応など、各社工夫を凝らしています。
 
 多品種に対応するため、増える部品在庫を削減するため、セル内に小型の樹
 脂成形機を取り込み、部品を「原料」で保管するアイデアも光ります。
 
 作業者任せとなりがちなペースを制御するためには、ここもコンベア方式の
 併用や、ITを駆使した作業通知システムなど、まだまだ改善の余地があり
 ます。
 
 
 いずれもいずれも、教科書通りやコンサルタントの定番メニューだけではな
 く、自ら考えたコンセプトを、地道に実行し、改善した積み重ねが花開き、
 大きな果実となっています。
 
 月刊誌「日経ものづくり」で折々に登場している事例を納めた本書は、現時
 点で最新の、工場改善のノウハウ集といえるでしょう。

-----------------------------------
 ◇ カンドコロ! ◇
 
 IDECの「アセンブルショップ」は、人間に代わりロボットがセル生産を
 行う組立ラインだ。
 
 長く連続したラインではなく、水平多関節ロボットと垂直多関節ロボットの
 2台を中心とした「組立セル」が基本となっている。
 
 ロボットハンドの先は部品に合わせてチャックが変化するため、複数の保持
 具を環状に搭載でき、手首の回転でそれらを切り替えられる構造だ。
 
 
 従来の人手に頼ったセル生産では、使えるのは作業者の腕2本。
 
 多くの部品を組み立てるためには、何度も部品とレート製品の間を作業者の
 手が往復しなければならない。
 
 一方、アセンブルショップは、複数部品を一気に掴んで一気に組み立てられ
 る。
 
 セル生産の概念を大きく変えるもので「千手観音モデル」と言われている。
 
 
 今後も日本で継続的に生産していける究極の設備を目指し、更に進化は続い
 ている。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 動き続ける企業は、更に先に行く。
 基本と最新事例を学んだら、早速実践だ。
 
 中小企業こそ、ITを駆使せよ。
 これほど安価に、高性能なツールが使えるのを、黙って見過ごすな。
-----------------------------------
 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
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 第1章 これからのニッポンの工場
 第2章 トヨタ生産方式
 第3章 セル生産
 第4章 IT活用
 第5章 自動化
 第6章 生産性向上
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・日経ものづくり
 ・出版社 日経BP
 ・アマゾン 『ものづくりの教科書 強い工場のしくみ』
 
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December 13, 2006

トヨタの口ぐせ

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 【今週の一冊】
 ●『トヨタの口ぐせ』

  OJTソリューションズ (中経出版)
  2006.9 / ¥1,365

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『製造現場にいるわれわれは商売人じゃないのです。
 
         安く仕入れることが仕事ではありません。
 
                  安くものをつくることが仕事です。』

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 「習慣」には、力があります。
 
 生活習慣病、なんていうのは、まさに悪い習慣が蓄積された、恐ろしい結果
 ですよね。
 
 良きにつけ、悪しきにつけ、身についた習慣はなかなか離れるものではあり
 ませんから、積み重ねた結果は、大きな差が生まれてくるものです。
 
 世界No.1を伺うトヨタの「言葉の習慣」=「口ぐせ」は、ほんの一言で
 はあっても、おらが会社との大きな差を生む「分岐点」かもしれません。
 
 
 例えば、冒頭の言葉は、「一円でも安く、ものができんか」という口ぐせに
 ついて加えられたコメント。
 
 トヨタと言えば原価低減が有名ですが、それは「材料を一円でも安く仕入れ
 ろ」という意味ではありません。
 
 むしろ、カイゼンの着眼点として「材料のグレードアップをして寿命を延命
 できないか」という項目が明記されているほどであり、材料費高騰でヒーヒ
 ーいって買い叩く姿勢とは一線を画します。
 
 ちょっとした知恵を加えることで、つくり方によってコストを下げるのがト
 ヨタ流であり、一方では壊れた設備を自分たちで徹底的に直し、再利用する
 ことなどで原価低減を進めているのです。
 
 
 現地・現物・現実を大切にせよ、という意味の「三現主義」は、色々なとこ
 ろで聞きますが、それを表す「口ぐせ」に、「者に聞くな、物に聞け」があ
 ります。
 
 現場の班長が作業者からトラブルの報告を受け、それを監督者に報告すると、
 トヨタの監督者は「本当にそうか?」と聞きます。
 
 そこで「たぶん・・・でしょう」という曖昧な言葉が出てくると、すぐに現
 場に行き、実際に現場が異なっていると「自分で見ろ!」と大目玉を食らう
 ことになるのです。
 
 
 そして「三現主義」を身につかせるために言われる口ぐせが「マルを描いて
 立っていろ!」
 
 班長を指導するときに、監督者は工場内に直径1メートルほどの「マル」を
 描き、「ここに立っていろ!」と言うのです。
 
 30分ほど立って現場をじっとみていると、動いていると見えない、作業の
 ムダやムリが見えてくるのです。
 
 こうしたものの見方を、トヨタでは端的な言葉で脈々と伝えているのです。
 
 
 「トヨタ生産方式」「カンバン方式」では分からない、トヨタの強さの源泉
 は、実はこうした言葉が自然と出てくる「習慣」にこそあると気付かされる
 一冊でしょう。

-----------------------------------
 ◇ カンドコロ! ◇
 
 2S(整理・整頓)とか、5S(+清掃・清潔・躾)も、現場の基本として
 言われるが、分かりにくい。
 
 トヨタの口ぐせはこうだ。
 
 
 『1週間ものが動かんかったら捨てろ』
 
 
 「整理」とは、現場でいるものといらないものを区別し、いらないものはす
 ぐに廃棄すること。
 
 「整頓」とは、いるものとして残したものを、必要なときに必要なだけをす
 ぐに取り出せるようにすること。
 具体的には、所・番地を定めて並べることである。
 
 端的な言葉で表すことで、ハッキリとしたイメージと、何をすべきかが伝わ
 る「口ぐせ」だ。

───────────────────────────────────
 ◆ 熱い行動 ◆
 本質は細部に宿る。
 たかが口ぐせと侮るな。口ぐせになるほど実践している恐ろしさを知れ。
 
 現場を変えたければ、「口ぐせ」を作れ。
 口ぐせになるほど繰り返し言い続ければ、必ず変わる。
-----------------------------------
 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
-----------------------------------
 第1章 「リーダー」を育てるトヨタの口ぐせ
  (おまえ、あそこ行ったか俺は行ってきたぞ/者に聞くな、物に聞け ほか)
 第2章 「できる人」を育てるトヨタの口ぐせ
  (あなたは、誰から給料をもらうの?/何もしないより何かやって失敗した
  ほうがいい ほか)
 第3章 「コミュニケーション」をよくするトヨタの口ぐせ
  (陸上のバトンリレーのようにやりなさい/横展しよう ほか)
 第4章 「問題」を解決するトヨタの口ぐせ
  (マルを描いて立ってろ/モグラがよく出るところからまず手をつけなさい
   ほか)
 第5章 「会社」をよくするトヨタの口ぐせ
  (売れるスピードより速くつくらない/一円でも安く、ものができんか
   ほか)
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・著者 OJTソリューションズ
 ・出版社 中経出版
 ・アマゾン 『トヨタの口ぐせ』
 
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