September 28, 2007

ものづくり経営学

Monodukurikeieigaku
 【今週の一冊】
 ●『ものづくり経営学』
  製造業を超える生産思想

  著:藤本 隆宏、東京大学21世紀COEものづくり経営研究(光文社)
  2007.3 / ¥1,260

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 ◆ 燃える一言 ◆


 『20世紀後半の日本企業が、培い確立した「擦り合わせ製品」における
 
   「ものづくり能力」という貴重な知的資産を、最大限に活かしながら、
   
       その上に、一部の欧米企業が持つ「戦略構築能力」を
     
           積み上げることでこそ、21世紀への展望が開ける』


-----------------------------------

 「ものづくり」とは何か、と問われれば、その答え方は色々ありますが、筆
 者らは『要素技術をつなぎ、顧客に向かう「流れ」を作り、設計情報を盛り
 込んだ人工物によって顧客を満足させる経済活動』と定義します。
 
 つまり、「ものを作る」プロセスのみではなく、設計情報を人工物(製品)
 に乗せて、お客さんまで届けて価値を生む=満足させるまでの「流れ」全体
 を「ものづくり」と呼んでいます。
 
 
 日本の製造業が強みを発揮する「ものづくり」は、自動車に代表される「擦
 り合せのきいた設計情報を、生産現場で丹念にメディア(鋼板など)に転写
 する」擦り合わせ型の製品であるとされています。
 
 対して、パソコンシステに代表される、機能と構造が1対1で対応する「組
 み合わせ型」の製品については、近年は中国が得意としている「ものづくり
 」と言えるでしょう。
 
 このように、地域特性と製品の設計思想が「相性の良い製品」を選ぶことが、
 まずは競争優位を得るために必要ですが、ことはそう単純ではありません。
 
 
 たとえば、DVDレコーダーは、HDDやDVDドライブといったモジュラ
 ー部品の組合せであり、これら中間製品を組み合わせた典型的な「組み合わ
 せ型製品」です。
 
 しかし、階層を下って光ピックアップをみると、レンズ、レーザーダイオー
 ド、フォトディテクターなどの部品をきめ細かな擦り合わせで設計した部品
 といえます。
 
 また元々、DVDレコーダーの開発から量産が始まった時点では擦り合わせ
 型の製品であり、日本企業の独壇場であったのが、時間の経過と共に製品構
 造が「組み合わせ型」へ推移すると共に、シェアの急落が生じたのです。
 
 つまり製品の「階層」と「時間」により「擦り合わせ型」の日本企業の取る
 べき戦略が変化することが分かり、DVDレコーダーならば、キーデバイス
 である光ピックアップなどの部品供給に集中する、などが考えられます。
 
 
 更に、お客に「設計されたもの」を提供することを「広義のものづくり」と
 考えれば、サービス業も同じ尺度で考えることが可能です。
 
 すなわち、イトーヨーカドーなど小売業、郵便、医療、金融商品、あるいは
 製造業とサービス業の中間に当たるソフトウェア業や建築業にも当てはめる
 ことで、取るべき戦略が見えてきます。
 
 「ものづくり経営学」は今まさに立ち上がった試行的段階であり、未整理な
 部分もありますが、現在の「ものづくり」をこってりと俯瞰できる、興味深
 い一冊です。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 DVDレコーダーで日本製品が急速にシェアを落としている現象は、「いつ
 かきた道」だ。
 
 これまでもCD-ROM、CD-R、DVD-ROMなどで、繰り返し起き
 てきたことだ。
 
 デジタル製品は「擦り合わせ」要素がソフトウェアの中に取り込まれており、
 製品が「組み立て型」に推移しやすい傾向にある。
 
 このため、開発のオーバーヘッドを抱えた日本企業は、中国やASEAN各国との
 価格競争に負けてしまうのだ。
 
 これは日本企業特有の現象ではなく、かつてIBMがパソコン市場において
 コンパックやデルの台頭により凋落した姿と全く重なる。
 
 デジタル製品が抱える、共通のジレンマと言えよう。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 「資源がないからなんでも作って売れ」という貿易立国論は戦略に欠ける。
 製品の構造と地域性、時代に対応した「ものづくり戦略」が必要だ。
 
 「うちは特殊だから」とトヨタ方式を敬遠するな。
 「形」をまねるのではなく、「思想」を学べ。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 炎 | (炎3つが満点)
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 ◎ 目 次 ◎
 第1部 ものづくり経営学総論
 第2部 ものづくり経営学各論
 第3部 非製造業のものづくり
 第4部 アジアのものづくり
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・著者 東京大学21世紀COEものづくり経営研究
 ・出版社 光文社
 ・アマゾン 『ものづくり経営学』
 
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June 27, 2007

未来を創る力「ものづくり」のすすめ

Miraiwotukurutikara
 【今週の一冊】
 ●『未来を創る力「ものづくり」のすすめ』

  著:梅原 猛,西沢 潤一,永 六輔,野田 一夫 (講談社)
  2002.12 / ¥1,575

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『人間というのは、あまりしょっちゅう道を踏み間違えては
                          いないわけです。
 
   ちょっと失敗したというようなことが、後になって必ず生きてくる。
   
    人生においては、失敗の体験を次に生かすことが実は大事なのです』

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 ※本記事は07/4/4発行のメルマガの内容です。

 新年度を迎え、新たな社会人として社長や先輩の訓示を受けた方も多くいる
 ことでしょう。
 
 ウン十年前に、かつて「新人」であった方も含め、桜舞い散る新たな門出の
 とき、改めて「ものづくり」の意義を確認する良い機会です。
 
 日本を代表する文化人の方々に、熱く「ものづくり」の素晴らしさを語って
 頂きましょう。
 
 
 全国を旅し、各地の職人と交流が深い永六輔氏は、「計量法反対運動」に乗
 り出したことがあります。
 
 尺貫法からメートル法に改定したこの法律では、定規や升を製造販売するこ
 とに懲役や罰金という「罰則規定」を定めていました。
 
 このため例えば大工道具である「曲尺(かねじゃく)」が職人の手に入らな
 くなったため、永氏は曲尺を堂々と「密造」し、それを各地の警察署に「自
 首」して回る、という運動に乗り出したのです。
 
 この悪法はその後改定されるようになりましたが、その間、肝心の職人さん
 達が自ら声を上げ、意見を言うことがありませんでした。
 
 また、職人の仕事は、一人で完結するものではなく、道具を作る人、更にそ
 の道具の材料を作る人が連綿とつながっていますが、その一部が欠けたがた
 めに、絶滅の危機に瀕している「職人技」が多数あります。
 
 こうした経験から、職人が立ち上がり、横のつながりを持つためのネットワ
 ークづくりを提言しています。
 
 
 ダイオードや半導体レーザー、光ファイバーという光通信に欠かせない技術
 を一人で考案し、実用化の糸口を開いた西澤潤一氏は、「独創性」の大切さ
 を叫びます。
 
 トランジスタの発明の際、実験材料も乏しい中で西澤氏が取った方法は、「
 午前中はしゃにむに論文を読め。午後になったら、何が何でもとにかく実験
 を繰り返せ。夜になったら、昼間にかせぎためた実験結果を整理してみる」
 という、とある先生の教えの実践でした。
 
 「なぜだろう」ということをとことん突き詰めていくと、論文の一つひとつ
 に直接の答えはなくとも、「ははん」と思う一節に巡り合い、大きな発見の
 きっかけとなったと言います。
 
 「できないことをできないと証明するのは難しい。根拠なしにできないと言
 うな!失敗など恐れずおやりなさい」と、氏は若き研究者、技術者へメッセ
 ージを送っています。
 
 
 その他、「経営とものづくり」を語る野田一夫氏、そして思想家 梅原猛氏と
 いう日本を代表する文化人による、「ものつくり大学」での講義内容をまと
 めた本書は、新人のみならず、我らエンジニアの襟を正す示唆に富んでいま
 す。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 太平洋の底に沈められ、世界の通信をつなぐ「光ファイバーケーブル」。
 
 1本20μmのガラス繊維を束ねて、プラスチックのようなもので覆って海底
 に沈められているが、実際に通信を始めようとすると「事故」が起きた。
 
 そのケーブルをサメが噛み切ってしまったのだ。
 
 そこでいろいろと調べて、サメが嫌いな材料は何かを試験を繰り返し、よう
 やくサメの嗜好に「合わない」材料を見つけた。
 
 近代的な光通信においても、最後まで問題になったのは、極めて原始的とい
 ってもいい問題だったのだ。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 「職人技」は守らねばならないが、「職人気質」だけでは続かない。
 後進の育成を含めて、ネットワークを構築せよ。
 
 「できる、できる、必ずできる!!」
 ひたすら唱えて、一つ所に命を懸けよ。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
-----------------------------------
 伝えたい職人の技と心意気(永六輔)
 独創性ある人、出でよ(西沢潤一)
 経営というものづくり(野田一夫)
 ものづくりは日本の誇り(梅原猛)
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・ものつくり大学
 ・出版社 講談社
 ・アマゾン 『未来を創る力「ものづくり」のすすめ』
 
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May 24, 2007

ゼムクリップから技術の世界が見える

Zemuclip
 【今週の一冊】
 ●『ゼムクリップから技術の世界が見える』
  アイデアが形になるまで

  著:ヘンリー・ペトロスキー 訳:忠平 美幸(朝日新聞社)
  2003.8 / ¥1,365

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 ◆ 燃える一言 ◆


 『われわれは、自然界や既存の人工物について考えをめぐらせ、
 
   それらをどう作り変えたり改善したりすれば人類に有益な目標を
   
    よりよく達成できるか、という問いに答えを出さなければならない』


-----------------------------------

 今、皆さんの目の前にあるもので、「人工物」にどんなものがあるでしょう
 か?
 
 そもそも、この文章を目にしているのはPCのモニターや携帯電話のはずで、
 間違いなく100%、工学的な製品です。
 
 いや、おそらくは部屋の片隅の観葉植物と「人間」以外は、ほとんど人工的
 なものばかりでしょう。
 
 本書では、ごくごく身近な文具やアルミ缶から始まり、橋や高層建築に至る
 まで、それらを生み出した「工学」的な背景を、描き出しています。
 
 
 おそらく今、机上で最も単純な「製品」の一つが「ゼムクリップ」でしょう。
 
 あまりに単純で、クリップの「取扱説明書」なんて見たこともないような分
 かりきった製品ですが、クリップが「機能」するために必要な「弾性」が明
 確に理解されたのは、さほど昔のことではありません。
 
 ロバート・フックが「張力は力に比例する」という「フックの法則」発見し
 たのは1660年のことであり、クリップのみならず、橋や飛行機の翼、高層ビ
 ルなど、技術者が設計するほとんど全ての構造物に影響しています。
 
 
 この弾性を超えて、長さ10センチ程の針金を3回折り曲げたらクリップは出
 来上がりですが、これで「紙を留める」製品として「完成」した、とは言え
 ません。
 
 おそらく、だれでも取り出そうとしたクリップが絡まったり、クリップの針
 金の先で紙を破った経験はあるでしょう。
 
 こうした「欠点」をあげつらって、「改良した」と言い張るのが「発明」で
 あり、事実、これまでにゼムクリップを批判し、特許を取得した「クリップ
 」は、何百もあります。
 
 針金の先で紙を破る対策としては、針先を丸くつぶす、先をリング状に丸め
 る、針の足をクリップの円弧よりも長くする・・などなど、枚挙に暇があり
 ません。
 
 逆に言えば、最良の「クリップ」の探求が、今もって困難であることは明ら
 かであり、複数の相容れない目的の「妥協案」を提供することが、ものづく
 りであると言えるでしょう。
 
 
 クリップやジッパー、アルミ缶などを通じて語られる材料力学や発明、加工
 機械や環境への影響など、製品と我々エンジニアを取り巻く世界を知る一冊
 です。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 シャープペンシルの芯や、削ったばかりの鉛筆の芯がポキポキ折れることほ
 どイライラするものはない。
 
 カリフォルニアの工学者ドン・クロンキストも手書きレポートを仕上げる間
 に何度もこのイライラに遭遇した。
 
 レポートを書き終えて机の上を見ると、鉛筆の折れた芯先がたくさん転がっ
 ているのを見つけた。
 
 彼の目を引いたのは、その数の多さではなく、「どれもこれも大きさと形が
 ほぼ同じだったことだ」。
 
 そこでこの理由を、彼は「円錐形の片持ち梁」のモデルを作って計算してみ
 た。
 
 すると、なるほど計算した「折れた鉛筆の芯」の大きさは、机の上で見つけ
 た「芯」の大きさにごく近かった。
 
 しかし、彼は破断面が「傾いている」ことは満足のいく説明をしておらず、
 吟味した人々も気に留めていなかった。
 
 それは鉛筆の幅方向に加わる「せん断力」を考慮しなかったことが原因であ
 ったが、解析の前提となるモデルの「仮定」が間違っていたためだ。
 
 同じような怠慢による過誤は、分析に取り組む「方法」がどんなに精巧なコ
 ンピュータ・モデルを使うようになっても、起こりえるのだ。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 机の上の文房具を、どう作っているか考察せよ。
 その構造を、力学的に記述してみよう。
 
 「ゼムクリップ」より作りやすく、使いやすいクリップを考案せよ。
 「鉛筆の折れた芯」の大きさを計算せよ。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 |   | (炎3つが満点)
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 1 ペーパークリップと設計
 2 鉛筆の先と分析
 3 ジッパーと開発
 4 アルミニウム缶と失敗
 5 ファクシミリとネットワーク
 6 飛行機とコンピュータ
 7 水と社会
 8 橋と政治
 9 建物とシステム
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・出版社 朝日新聞社
 ・アマゾン 『ゼムクリップから技術の世界が見える』
 
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February 01, 2007

「ひらめき」の設計図

Hiramekinosekkeizu
 【今週の一冊】
 ●『「ひらめき」の設計図』

  著:久米 是志(小学館)
  2006.6 / ¥1,785

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 ◆ 燃える一言 ◆


 『いくら先を見つめたって、そんなところに未来はない。
 
      未来を見たければ、自分たちの過去を探しなさい。
   
            過去の失敗の泥の中に、未来を開く“鍵”がある』

-----------------------------------

 ホンダの歴史の中で、陰と陽のように語られる製品があります。
 
 「陰」とは、エンジンの冷却を水冷ではなく、空冷式にしてコンパクト化を
 試み、結果として「アイデア一杯、トラブル一杯」と揶揄された小型自動車
 「H1300」。
 
 一方「陽」は、当時、それまでの1/10まで排ガスを清浄化することを義
 務付けた「マスキー法」を、世界で最初にクリアした「CVCCエンジン」。
 
 このいずれもに、設計者として参画し、1人の天才「本田宗一郎」に代わっ
 て、「凡人の集まりを束ねて創造する」方法を創り出したのが、本田技研工
 業3代目社長の、筆者 久米是志氏です。
 
 
 空冷式のH1300のエンジンは、単体ではトラブルなく動作したものの、自動車
 というシステムの中では、許容できない「発熱」が、様々なトラブルを引き
 起こしました。
 
 なぜ、失敗したのか?
 
 それは「集団による創造術」が分からず、「やりもせんで、何がわかる?」
 という宗一郎氏の口ぐせに突き動かされ、猪突猛進した結果でした。
 
 この経験と、軍事的な戦術などから類推し、久米氏は開発を「航海」に例え
 て、一連の方法論を創り出します。
 
 
 まず、「宝物を運ぶ航海に、探す航海を混在させない」。
 
 貴重な宝物をたくさん載せた航海、つまり新製品を開発する航海を安全確実
 にするため、宝物=新技術は、前もって宝探しの航海をして準備しておかね
 ばなりません。
 
 具体的には、研究開発が完了していない技術を、製品開発に持ち込むことを
 禁制としたのです。
 
 
 次に、「段階に分けて航海する」。
 
 最初は宝島のある海域に到達する航路を見つけ(原理の見極め)、次にそこ
 から島や暗礁を抜けて宝島に到達する航路を探し出し(部分の検討)、それ
 が見つかったらその周辺の様子を調査して(周辺関係の調査)、宝島へやっ
 てくる商船隊に「頼りになる海図」を提供するのです。
 
 行き詰ったら一旦引き返し、進路を見定めることが必要です。
 
 
 そして、「航海の指針を作る」。
 
 目的には「将来かくありたい」という「行動」の結果もたらされるはずの理
 想像が表現されることが肝心です。
 
 「何のために」「どのような状態になりたい」のかを明確にし、そのために
 は「どうすべきか」を細部まで落とし込いでいきます。
 
 
 最後に、「航海のチームを作る」。
 
 異質なもの同士が目的実現のために、お互い遠慮なく平等な立場で意見をぶ
 つける「チーム」が必要です。
 
 
 こうした思考の上に造られた、新しい「航海術」の実践が、CVCCエンジ
 ンであり、ホンダの創造的な組織運営の基礎となっています。
 
 その他、最近の「失敗学」にも通じる示唆にも富み、ものづくりに関して非
 常にたくさんの「気付き」を与えてくれました。
 
 尊敬する上司から借りて一気に読みましたが、手元に置きたくてすぐ買い求
 めた、2006年「イチ押し」の一冊でした。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 筆者が続発する市場での不具合を教訓に、自らの経験から作り出し実行して
 きた「クレーム解決のための5原則」がある。
 
 1.事実の把握
  「知られていなかった事実」を「確実なものとして知られている事実」と
  して認識する作業。
  
  先入観のある推論を入り込ませず、何が、いつ、どこで、どのような現象
  を起こしたのか、関わり合いがあるであろう情報を集められるだけ集める
  ことが重要だ。
 
 2.原因の解明
  過去の経験や知識に基づいた推理によって、現象が起きた理由を見つける
  必要はない。
  
  どのような「もの」がどのような使用条件で、どのような「不具合現象」
  を起こしているのかという問いに、収集された事実の中から、それぞれに
  ついて何が共通であるかを抽出することだ。
  
 3.適切な対策
  原因が解明されれば、そこで見出された因果関係が働かないようにするた
  めの「適切な対策」を作り出せる。
  
 4.再発の監視
  「適切と考えられた対策」が実行された後で、実際の市場で同じような不
  具合が再発しないことを確かめる。
  
 5.源流へのフィードバック
  新しい製品開発をする技術者に、具体的事例に基づいた情報を与え、再発
  を防止するための検証の関門の供給などをフィードバックする。

───────────────────────────────────
 ◆ 熱い行動 ◆
 「やってみもせんで、何がわかる!」
 やって(行動)みて(結果を検討)、気付くことが「創造」だ。
 
 不具合は「そんなことが起こるとは思わなかった」ものだ。
 後付けの理由ではなく、そこに至る「主観的」プロセスを追え。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 炎 | (炎3つが満点)
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 第1章 創造ということ
 第2章 嵐の中の航海
 第3章 霧の中の航海
 第4章 風を探る航海
 第5章 創造の構図
 対談 久米是志×夢枕獏―創造の舞台裏・異種格闘技的対論
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・本田技研工業
 ・出版社 小学館
 ・アマゾン 『「ひらめき」の設計図』
 
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June 27, 2006

ものづくり革命

Monodukurikakumei
 【今週の一冊】
 ●『ものづくり革命』
  パーソナル・ファブリケーションの夜明け

  著:ニール・ガーシェンフェルド 訳:糸川 洋
  (ソフトバンククリエイティブ)
  2006.02 / ¥1,890

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『この革命は間違いなく起きる。
 
       なぜ確信を持ってそう言えるのかといえば、それが
 
                 「現在に関する予言」であるからだ。』

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 「Web2.0」という言葉が示すがごとく、インターネット上の環境がここ数年
 で変化してきています。
 
 こうして一個人である やまさん が、気軽にメルマガを発行し、ブログをア
 ップしているのも、その一端ですね。
 
 しかし、この変化はあくまでデジタルの、バーチャル空間での変化だとばか
 り思っていましたが、ものづくりという物質の世界にも、新たな「うねり」
 が生まれているのです。
 
 
 著者は、パーソナルコンピュータ(PC)ならぬ、パーソナルファブリケー
 タ(PF)という、世間一般の人がアクセス可能な「機械を作る機械」を提
 唱し、壮大な実験を世界規模で行っています。
 
 ここでいうPFは、三次元の構造物を作り出すだけではなく、ロジック、セ
 ンサー、作動部、表示など、機能するシステムをつくるのに必要な全ての要
 素を統合することを指します。
 
 つまり、欲しいものを探し回ったり注文するのではなく、欲しいものの仕様
 を自分で書いて、設計図と原材料をPFに放り込んで「自分のため」の製品
 を作り出すことになるのです。
 
 
 これを筆者は「ファブラボ」と称し、MITの生徒から始めて、インドの田
 舎、コスタリカ、ノルウェイ北部、ボストンの低所得者居住地、ガーナ等に
 設置し、実験を行います。
 
 すると、インドの村では牛乳の安全性や農機具のエンジン効率を計る測定器
 開発にラボが使われ、ノルウェイの羊飼い達は、動き回る動物のデータ収集
 用の無線ネットワークと無線タグを開発し、ガーナの人達は太陽光を動力と
 する機械を作ることに使ったのです。
 
 この事実は、コンピュータのアクセスに関する「デジタルデバイド」よりも、
 ものづくりのツールへのアクセスに関するデバイドこそ、深刻であることを
 物語っています。
 
 
 こうして工業生産の手段が簡単に入手できるようになり、設計を無償で共有
 できるようになれば、ハードウェアもソフトウェアと同じ進化の道をたどる
 ことでしょう。
 
 今、かつては商用サービスに限られていた高品質の印刷が、インクジェット
 プリンタによって、スピードでは劣っても品質とアクセスしやすさを求める
 家庭用プリンタという市場が生まれました。
 
 パーソナルファブリケーションのツールは、大量生産ではなく、個人の用途
 のために使われ、「製造者」と「消費者」が切れ目なく繋がる連続体となる
 可能性を秘めています。
 
 世界中で起こり始めている、そして実際に起きた「ファブラボ」の事例は、
 来るべき「ものづくり革命」という、第3の波を感じさせる刺激的な記録で
 す。

-----------------------------------
 ◇ カンドコロ! ◇
 
 ファブラボの有力なツールとして「ラピッドプロトタイピング」と呼ばれる
 三次元プリンタがある。
 
 高分子樹脂の入ったタンクにレーザー光線を照射して硬化させる方法や、イ
 ンクジェットプリンタから液状の接着剤の粒子を噴射してパウダーに吹き付
 けて固めるプロセスなどがある。
 
 しかし、作り出すものの中身が空っぽだ。
 
 何かを作ったら、用途に応じた機能を果たす部品をそこに付け加える必要が
 ある。
 
 例えばモータやLED、その配線や回路基盤を埋め込まねばならない。
 
 
 ラピッドプロトタイピングの最終的な目標は、構造材料だけでなく、機能材
 料を使って、完全に機能するシステムをプリントすることだ。
 
 導電性を持ったパウダーやプラスチックを使って配線材をプリントすること
 は可能だし、論理回路を組み込めるプリント可能な半導体もある。
 
 磁性材料を使えばモータを作れるし、化学物質を組み合わせたものでエネル
 ギーを蓄えることもできる。
 
 こうした材料が含まれたプリント可能なインクは、研究室レベルでは既に開
 発されており、実験にも成功している。
 
 それら全てをプリンタに統合することが、何でも作れる一つの機械を作ると
 いう目標への近道だ。
 
───────────────────────────────────
 ◆ 熱い行動 ◆
 ビットと原子の境界を突き破れ。
 新たな時代の萌芽を見逃すな。
 
 計画・設計・製造・試験・消費・再生を分断するな。
 「おもちゃ」と「製品」の垣根は、案外低い。
-----------------------------------
 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 炎 | (炎3つが満点)
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 ものづくりとは(ほぼあらゆる物をつくる)
 過去(ハードウェア)
 現在(鳥と自転車 減算的技法 ほか)
 未来(歓喜)
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・ファブラボ MIT The Center for Bits and Atoms
 ・出版社 ソフトバンククリエイティブ
 ・アマゾン 『ものづくり革命』

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March 30, 2006

自然に学ぶものづくり

Shizennnimanabu
 【今週の一冊】
 ●『自然に学ぶものづくり』
  生物を観る、知る、創る未来に向けて

  著:赤池 学(東洋経済新報社)
  2005.12 / ¥1,680

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 ◆ 燃える一言 ◆

『自然界では、機械も使わずに最低限の力で、
                   自発的にものがつくられています。
                   
   できるだけ単純な仕組みを使って、材料となるものにどのような環境を
     与えれば、必要な構造や機能を自発的に生み出すことができるか。
     
     地球という場の中で、自然にできたものに学ぶ意義は、
                  そこにあるのではないでしょうか。』

-----------------------------------
 タイからの帰国の機内の中から、今回はお送りします。
 
 タイの特産品といえば、「タイ・シルク」。
 
 色鮮やかで手触りのよりスカーフが、お土産としてたくさん並べられていま
 した。
 
 
 さて、シルクは蚕が繭として生み出すものですが、思えばわずか体長8セン
 チほどの体から「生産」されるプロセスは、とても人間には真似できません。
 
 シルクはセリシンとフィブロインという2種類のタンパク質からなり、中心
 のフィブロインを4層のセリシンが囲む5層構造です。
 
 しかも各セリシンは熱による溶解性がそれぞれ異なっており、フィブロイン
 の保護、潤滑剤、繊維の固定、繭の構造材という役割を担っています。
 
 小さな体から、常温常圧で、身の回りの酸素、窒素、水素、炭素といった軽
 元素のみで長さ1,500メートルもの長さの絹糸が生み出される、「ハイテク・
 シルク工場」が蚕なのです。
 
 
 この絹タンパクを、繊維ではなく純度の高いタンパク質素材としての利用が
 研究されています。
 
 肌に優しく、生体適合性が高いシルクの性質を活かし、化粧品やコンタクト
 レンズ、人工皮膚などへの応用開発が進んでいます。
 
 更には蚕のゲノムが解読されており、蚕以外の他の生物からも、似た遺伝子
 情報を解明することで、利用価値のあるタンパク質が作り出せるかもしれな
 いのです。
 
 
 こうした自然の持つ潜在的な力を活用し、またその構造や機能を模倣し、そ
 して資源やエネルギーを循環的に活かすものづくりが、本書には紹介されて
 います。
 
 里山で自然と共存し、紙や木や土を生かしたものづくりの歴史を持つ日本こ
 そ、いまなお豊かな自然に囲まれた東南アジアはもちろん、世界に向けて、
 「自然に学ぶものづくり」を発信すべきでしょう。
 ----------------------------------
 ◇ カンドコロ! ◇
 
 セルロースは、木をはじめとする植物繊維の骨格となる成分であり、環境に
 適合する天然高分子として活用されている。
 
 これまでは、木材をパルプとし、更に微細な繊維状にして取り出したセルロ
 ースをもとに材料を開発してきた、いわば「トップダウン方式」だ。
 
 これは植物がエネルギーを使って組み立てた構造を、さらにエネルギーを使
 って崩すことになり、効率が悪い方法だ。
 
 今後重要になるのは、生合成されたセルロースを、種々のサイズ・構造を持
 つ構造体に形成する「ボトムアップ方式」であり、生態系は常にボトムアッ
 プ方式だ。
 
 このようなボトムアップ方式の材料設計が可能な系が、酢酸菌などのバクテ
 リアが産生するセルロースゲルだ。
 
 なんとこのゲルは、あのデザートとしてブームになった「ナタデココ」なの
 だ。
 
 このバクテリアセルロースゲルを利用して、ヘッドホーンの振動板などに用
 いるの強度の高いフィルムが得られ、また液晶ディスプレイなどの無機ガラ
 スに代わる、軽量の高性能ガラスとしての利用が期待されている。
 
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 ◆ 熱い行動 ◆
 出力したもののリサイクルの前に、入力を抜本的に見直そう。
 動植物の、身の丈にあった入出力に学ばねばならない。
 
 「虫けら」と、侮ることなかれ。
 数億年前から生き延びた彼らを、人類はまだ解明していない。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 |   | (炎3つが満点)
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 序章 今なぜ、自然に学ぶものづくりなのか
 第1章 「人間力」―生物を観る、知る、創る未来に向けて
 第2章 「植物力」―自然を活かすバイオマスビジネス
 第3章 「昆虫力」―インセクトテクノロジーの台頭
 第4章 「微生物力」―自然に学ぶライフサイエンスの未来
 第5章 「地球力」―命を育む地球生態系に学ぶ
 第6章 「再び人間力」―自然に学ぶ子どもたちを生み出すために
 終章 自然に学ぶものづくり、日本から世界への発信
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・著者 赤池 学
 ・出版社 東洋経済新報社
 ・アマゾン 『自然に学ぶものづくり』

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March 08, 2006

トヨタ生産方式

toyotaseisannhoushiki
 【今週の一冊】
 ●『トヨタ生産方式』
  脱規模の経営をめざして

  著:大野 耐一(ダイヤモンド社)
  1978.05 / ¥1,470

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『なお、一部の人たちのこの方式を曲解しての批判に対しては、
                  弁明・釈明は一切しておりません。

       世の中のことはすべて歴史が立証すると確信するからです。』

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 「ものづくり」に関する書籍の中で、これだけは外せない、というものがい
 くつかありますが、本書はその筆頭ともいえます。
 
 30年近く前に刊行されながら、なんと先日、ついに第100刷まで到達した、ロ
 ングセラーです。
 
 それもこれも、トヨタ生産方式の生みの親、大野耐一氏がその「思想」をま
 とめた貴重な一冊であり、冒頭の言葉が示すがごとく、NO.1企業トヨタの源
 流だからです。
 
 
 トヨタ生産方式の2本の柱は「ジャスト・イン・タイム」と「自働化」。
 
 ではその関係は?
 
 大野氏は、これを野球にたとえて、前者をチームプレー、後者を個人技を高
 めることに当たると説明します。
 
 
 「ジャスト・イン・タイム」によって、生産現場の各工程に当たる、グラウ
 ンドの各選手は、必要なボールをタイミングよくキャッチし、連係プレーで
 ランナーを刺します。
 
 全工程がシステマチックに見事なチーム・プレーを展開するのです。
 
 生産現場の管理・監督者は、野球の監督・コーチに当たります。
 
 強力な野球チームが、どんな事態にも対応できる連係プレーを展開するよう
 に、「ジャスト・イン・タイム」を身につけた生産現場は機能するのです。
 
 
 一方の「自働化」は、重大なムダであるつくり過ぎを排除し、不良品の生産
 を防止する役割を果たします。
 
 そのために平生から各選手の能力=「標準作業」を認識し、これに当てはま
 らない異常事態、つまり選手の能力が発揮されないときには、特訓によって
 その選手本来の姿に戻してやります。
 
 こうして「自働化」によって「目で見る管理」が行き届き、生産現場すなわ
 ちチームの各選手の弱点が浮き彫りにされ、直ちに選手の強化策を講じるこ
 とができるのです。
 
 
 ちょうどWBC真っ盛りですが、強い野球チームは必ずチーム・プレーよし、
 個人技よしであるように、「ジャスト・イン・タイム」と「自働化」の両立
 が、強い現場を生むトヨタ生産方式の真髄です。
 
 
 これら全ては、「原価を下げる」というニーズから生み出されたものであり、
 しかも単なる願望ではなく、自分をぎりぎりの線に追い込んで、掴み取った
 ニーズです。
 
 カンバンや上辺をまねて、おいしいとこ取りしようという浅薄な「ニーズ」
 では、到底理解できない境地です。
 
 「トヨタ生産方式は、考え方を根本から改める、意識革命である」との至言
 を痛感する本書は、ニッポンのものづくり人ならば、必読・必携の書である
 と断言します。
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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 「フォード・システム」と「トヨタ生産方式」。
 
 片やロットを大きく、段取り替えを少なくする方式であり、片やロットを小
 さく(1個流し)、段取り替えをすみやかに行う方法だ。
 
 全く対照的な生産方式だが、意外なことに、大野氏はヘンリー・フォード1
 世に敬服して止まない。
 
 例えば、フォード1世は、「標準」に関して、「相手が国であっても、企業
 トップであっても、どのような上司であっても、上から与えられるものでは
 なく、『標準』を設定するのは生産現場の当事者がせよ」と述べている。
 
 また、「産業の終着点は、人々が頭脳を必要としない、標準化され、自動化
 された世界ではない。その終着点は、人によって頭脳を働かす機械が豊富に
 存在する世界である」とも書き残している。
 
 これらを通して、大野氏は、「ヘンリー・フォード1世がいま生きていたら、
 トヨタ生産方式と同じことをやったに違いない」と言い切る。
 
 フォードの後継者達は、必ずしも彼の意図した生産の流れを作らず、間違っ
 て解釈していたのだ。
 
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 ◆ 熱い行動 ◆
 「トヨタ生産方式」はツールではない。マインドだ。
 しかも生みの親が数10年かけて浸透させたことを、知らねばならない。
 
 「データ」以上に、「現物」を見よ。
 「原因」ではなく、「真因」を追究せよ。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 炎 | (炎3つが満点)
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 第1章 ニーズからの出発
 第2章 トヨタ生産方式の展開
 第3章 トヨタ生産方式の系譜
 第4章 フォード・システムの真意
 第5章 低成長時代を生き抜く
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・著者 大野耐一先生の言葉
 ・出版社 ダイヤモンド社
 ・アマゾン 『トヨタ生産方式』

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January 05, 2006

物の見方 考え方

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 【今週の一冊】
 ●『物の見方 考え方』

  著:松下幸之助(実業之日本社)
   2001.03 / ¥1,575

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『われわれの前には、無限の仕事が課せられているのである。
 
    人間として宿命的に、そういう使命を果たすべき立場に、
         われわれはおかれているという自覚を持ちたいと思う。』

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 光のどけき新春に、心新たに一年の計を律する方も多いことでしょう。
 
 温故知新、ここは一つ、幸之助翁に「ものづくり」の初心を尋ねてみましょ
 う。
 
 
 われわれが「ものづくり」をするのは、何のためでしょう?
 
 自分が食べていくため?給料をたくさん得るため?
 
 もちろん待遇も必要ですが、もっと大きな「ものづくり」の使命があると、
 彼は言います。
 
 それは「いろいろの物をつくって社会の多くの人たちの経済生活を、日一日
 と向上させていく」ことです。
 
 
 それを実現する理念を、水道水に例えます。
 
 幸之助氏の若かりし頃、大阪天王寺の場末の町の共同水道で、荷車を引いて
 きた人が喉の渇きを癒しているのを見ます。
 
 水道は飲めるように加工するのに料金を払っているのだから、ただではない
 が、無断で飲んでいても誰もとがめない。
 
 それは、いかに大切なものであっても、ひとしく大量にある水は、ただに等
 しいからであると気がつきます。
 
 
 人間にとって、冷蔵庫や、衣料、その他あらゆるものは、水のように必要な
 ものに違いない。
 
 それらが水道の水のように、何でも欲しいだけ、ただのごとくあれば、この
 世に「貧」も、「貧」から生まれる犯罪もなくなるのでないか。
 
 そうすると、私(松下幸之助)の使命は、水道の水のように、電気器具をつ
 くることであり、そこに自分の「ものづくり」の使命があると知るのです。
 
 
 これは当然、簡単なことではありませんが、究極の目的です。
 
 日本だけではなく、全世界の共通の力で物資をだんだん安くしていき、満ち
 足りた世の中にしていく。
 
 現に水道水が、そうなっているように。
 
 これが、幸之助氏の「水道哲学」です。
 
 
 そう考えれば、勇気が出てくるではないですか。
 
 金儲けとか、個人の成功とかは、(もちろんそれも感情的にはうれしいこと
 だけど)尊い使命を果たすことと比べれば、問題にならない。
 
 心魂を打ち込んでやるという正義感と希望が生まれてくるのです。
 
 
 そのため我らエンジニアができることは――。
 
 冒頭の言のように、「無限の仕事」が広がっています。
 
 さあ、志を高く、今年も熱き「ものづくり」に燃え上がりましょう!
 
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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 本当に役に立つ人は、「仕事に熱心な人」、「熱のある人」。
 
 幸之助氏がいろいろな人を見てきた中での実感だ。
 
 例えば、二階に昇りたい、何とかして昇りたい、という熱のある人はハシゴ
 を考える。
 
 昇りたいなあ、くらいの人ならハシゴまで考えない。
 
 その人の才能が優れているからハシゴを考えるということもあるが、やはり
 熱意である。
 
 人間の才能や知識も、熱意があって初めて生きてくる。
 
 だからといって、家庭の妻や子を忘れろというのではない。
 
 そういう仕事に熱意のある人は、家庭生活の設計にも熱が入る人だ。
 
 そして、多くの人から喜ばれている。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 あなたは何のために働いているか。
 何のために「ものづくり」をするのか。
 あなたの「使命」は何だろうか。
 
 この問いかけに、答えなければならない。

-----------------------------------
 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
-----------------------------------
 会社経営のカンどころ/責任の持ち方/金だけが目的で仕事はできぬ/
 事業に失敗したらどうする!?/長期勤続のちから/伸びる会社・伸びる社員
 /難局を切り抜ける条件/事志に反す/私の軍師・加藤大観/
 私のアメリカ土産/ものの見方考え方/商売の道/役に立つ人間/
 「のれん」の精神/オランダに学ぶ/心の持ち方/私の学校教育論/
 お金のかからぬアメリカ/経営についての考え方/
 日本の経営者、アメリカの経営者/功ある人には禄を与える/
 人多くして人なし/「運」について考える

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December 28, 2005

日本のもの造り哲学

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 【今週の一冊】
 ●『日本のもの造り哲学』

  著:藤本 隆宏(日本経済新聞社)
   2004.06 / ¥1,680

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 ◆ 燃える一言 ◆


   『ちょっとやそっとではぶれない、もの造り現場発の戦略論。』


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 海外出張に行っていたこともあり、「日本のものづくり」について考え直す
 機会となる書籍を最近特に紹介してきましたが、今回紹介の一冊は、まさに
 その「決定版」とも言えます。
 
 やまさんもつい、「最近、日本のものづくりが勢いを取り戻した」という書
 き方をしていしまいますが、それは収益力と競争力を混同した、後追い的な
 説明になっていないでしょうか。
 
 また、「日本の…」とまとめてしまうこと自体、ものづくり現場の実力を見
 誤り、視点がぶれてしまいます。
 
 筆者は長年の産業分析から、重厚な「ものづくり現場発の戦略論」を展開し
 ています。
 
 
 以前に紹介した「能力構築競争」 にもあるように、「ものづくりの組織能力
 」を「設計情報を上手に作り、製品として転写し、流す能力」と考えます。
 
 そして、設計情報が顧客に届くまでを追いかけることで、製品機能を部品に
 振り分ける設計思想=「アーキテクチャ」により、既存の産業分類にこだわ
 らない分析を試みます。
 
 その代表が、製品機能が部品と1対1に対応するパソコンのような「組合せ
 型(モジュラー型)」の製品と、機能と部品の関係が複雑に絡んだ自動車の
 ような「擦り合わせ型(インテグラル型)」という分類です。
 
 
 戦後の日本は「人が足りない、モノが足りない、お金が足りない、という中
 で競争し成長せざるを得なかった」ために、現場組織のチームワークでムダ
 を最小化し、設計情報を高精度・高密度で転写する「統合型ものづくり」を
 鍛えました。
 
 これが「擦り合わせ型アーキテクチャ」の製品と相性が良かったことが、自
 動車産業を始めとする、日本のものづくり現場の競争力の源泉であったと説
 きます。
 
 
 一方、「構想力」のアメリカが知識集約的なモジュラー製品を得意とし、「
 動員力」の中国が労働集約的なモジュラー製品と相性が良く、これら「モジ
 ュラー大国」に挟まれた日本が取るべき戦略を挙げます。
 
 特に中国は、日本の擦り合わせ製品を、擬似的にモジュラー化(コピー品)
 としてしまうスピードと低価格化の強みを持ちます。
 
 そこで例えば、日本はエンジンのみを「パワード・バイ・ホンダ」としてコ
 ンポーネントで売り込む、といった、アーキテクチャに応じた戦略も考えら
 れるのです。
 
 
 そして、せっかくの組織能力や現場のものづくり能力を「収益」に結びつけ
 るためには、「アーキテクチャの位置取り」がポイントとなります。
 
 自動車部品メーカのように、自分も顧客も擦り合わせという位置取りは、組
 織能力を鍛える「道場」としては最高ですが、決して楽に儲かりません。
 
 この位置は「擦り合わせ過剰」であり、「現場は強いが会社は儲からない」
 状態に陥ります。
 
 そこで、インテルのMPUのように「インテグラルな部品をモジュラーとして売
 り込む」、あるいは「モジュラーな製品をインテグラルに使わせる」といっ
 た、境界上のビジネスに高収益のチャンスがあるのです。
 
 
 こうして、高度数万メートルから日本を俯瞰するような経済論でもなく、高
 度1.5mの現場目線そのものでもない、工場の天井裏から現場を覗く「高度10
 mの世界」から見た「ものづくり論」は、骨太で地に足の着いた内容です。
 
 産業に関わらず、ものづくりに関わる方ならば、自身の立場と進むべき道を
 考える、大きな刺激となる、冬休みお勧めの一冊です。
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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 フロントランナー企業は、一番強い向かい風を受けている。
 
 では、日本のフロントランナー「トヨタ」が問題としていることは何か。
 
 
 第一は、コスト管理の見直し。
 
 これまでは生産性や歩留まりといった「原単位」に注目していたが、今後は
 賃金や設備単価といった「レート」を含めた原価管理が重要だ。
 
 第二は、生産変動や少量生産に強い生産システムの再構築。
 
 第三は、「トヨタ・ウェイ」の海外拠点への浸透。
 
 第四は、不透明な値引き体質から脱却し、国内販売を改善すること。
 
 第五は、「イライラさせない」車作りに加えた「ワクワクする」車作り。
 
 第六は、燃料電池やITSといった、自動車のアーキテクチャ変動への対応。
 
 第七は、「強い」だけではない、顧客や従業員、社会から「尊敬される企業
 」を目指すこと。
 
 
 これらの課題が、いずれ他の会社に問題になる可能性があることは明らかだ。
 
 問題そのものも当然だが、問題を発見し対策を打つプロセスそのものにも、
 深く学ばねばならない。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 自社のものづくりの「アーキテクチャ」を明らかにしよう。
 
 ものづくりの能力構築に終わりはない。
 体力を鍛えるとともに、頭も鍛えて「現場と本社」を両立させよう。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 炎 | (炎3つが満点)
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 第1章 迷走した日本のもの造り論
 第2章 「強い工場・強い本社」への道
 第3章 もの造りの組織能力―トヨタを例として
 第4章 相性のよいアーキテクチャで勝負せよ
 第5章 アーキテクチャの産業地政学
 第6章 中国との戦略的つきあい方
 第7章 もの造りの力を利益に結びつけよ
 第8章 もの造り日本の進路

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December 07, 2005

日米・技術覇権の攻防

nithibei_gijyutuhaken
 【今週の一冊】
 ●『日米・技術覇権の攻防』
  IT時代の主役はだれか

  著:森谷 正規(PHP新書)
   2000.02 / ¥693

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『21世紀の技術進展を広く展望することによって、産業列国の中で
   日本が米国と競って強い技術力を発揮していく新たな方向が見える。
   
  それは、大量消費を超えて、環境、エネルギー、都市、情報、人間、自然
   などの多分野において、全方位に日本の技術開発を展開していくことだ』

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 日本のものづくりの力、技術力・開発力は、今、強いのでしょうか。
 
 これに答えるのは容易ではありませんが、本書では、過去を振り返った時間
 軸上、また他国、特にアメリカとの比較による空間軸上の位置付けを探るこ
 とを試みています。
 
 
 日本とアメリカのものづくりには、「大量生産」を指向する共通点がありま
 すが、一方で、「革新」を目指すアメリカと、「応用」に強い日本と、性格
 をはっきり異にする面があります。
 
 筆者はこれを、「開拓者の米国」と「一所懸命の日本」の差であると説明し
 ます。
 
 
 アメリカでは、建国した庶民が、自らの生活や仕事のために必要に迫られ、
 欧州にはなかった、大量生産システムという革新的な手法を創り上げました。
 
 その象徴が、20世紀前半のT型フォードのライン生産システムです。
 
 第2次大戦の後、トランジスタやナイロン、ジェット旅客機といった革新技
 術というフロンティアを開拓した後は、宇宙開発・軍事技術にアメリカは突
 き進みます。
 
 アポロ計画には最盛期、20万人ものパワーを動員しましたが、その結果在来
 技術には人も金も投入されず、そして60年代以降、革新的な技術は生まれな
 くなったのです。
 
 
 その後の技術進展は、LSIや超LSI、またCCDや液晶といった、応用開発が中心
 となり、粘り強く、コツコツと性能を上げてコストを下げる開発努力のため
 に、一所に懸命となる日本企業の躍進が始まります。
 
 狭い国土で同じ業界にひしめき合って切磋琢磨する日本企業のあまりのスピ
 ードと努力に、開拓のチャンスが得られなくなると、逆に保守的となる米国
 人は驚き、呆れました。
 
 
 ところが80年代になると、大量生産が成熟してしまい、今度は日本企業が技
 術力を揮える場がなくなってしまいます。
 
 そこで今度は、情報技術という未開の大陸を発見した米国人は、持ち前の開
 拓者精神を発揮し、ベンチャー企業による躍進で、再び日本を追い抜いたの
 です。
 
 
 最近になって、また再び日本が攻勢を取り戻しつつありますが、こうして見
 ると、今後日本の行く末として、取るべき道をここでは3つ挙げられていま
 す。
 
 まず第一は、「20世紀の後始末」。
 
 つまり、環境破壊に代表される、大量消費社会のツケをきちんと払って、教
 育や医療を含めた、社会問題の解決の道です。
 
 第二は、高度情報化であり、20世紀末に起こったうねりが、さらに加速して
 いくことは間違いありません。
 
 そして三番目が、がんの治療や砂漠の緑化といった、人間や生物を含めた、
 自然に関する技術の進展です。
 
 
 これらの新たな方向で、「一所懸命」に技術を高度化することが、これから
 の日本の「ものづくり」の強みとなるのです。
 
 長い不況を脱し、現場に力強さが戻った今こそ、かつてのバブルのように己
 を見失わないために、行く末を見定めた地に足のついた「ものづくり」の実
 践が、肝要なのです。!
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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 70~80年代に開花した日本の技術の典型が、CCDだ。
 
 画素が数百、数千の段階から始めて、万になって画像らしきものが撮れるよ
 うになり、10万を超えてビデオカメラに使えるレベルに到達した。
 
 一方で、歩留まりを上げるのに懸命の努力をしてコストを下げて、大衆製品
 であるビデオカメラに採用できるようになったのだ。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 「フロンティア」達に煽られて、「一所懸命」を忘れていないか。
 
 昨日、今日に囚われて、わが身を見失っていないか。
 遥かな時空の中の自己を知り、明日を創造せよ。

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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 |   | (炎3つが満点)
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 第1章 高度成長で米国に追いつく―50~60年代
 第2章 米国に追いついて技術強国になる―70~80年代
 第3章 情報技術で米国に再び抜かれた―90年代
 第4章 二十一世紀の技術進展
 第5章 産業列国事情を読む
 第6章 日本の技術力を発揮する新分野
 第7章 技術力を発揮する方向と戦略

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