ものづくり経営学
【今週の一冊】
●『ものづくり経営学』
製造業を超える生産思想
著:藤本 隆宏、東京大学21世紀COEものづくり経営研究(光文社)
2007.3 / ¥1,260
----ものづくりを応援!技術士やまさんの「えんぢに屋本舗」-----
◆ 燃える一言 ◆
『20世紀後半の日本企業が、培い確立した「擦り合わせ製品」における
「ものづくり能力」という貴重な知的資産を、最大限に活かしながら、
その上に、一部の欧米企業が持つ「戦略構築能力」を
積み上げることでこそ、21世紀への展望が開ける』
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「ものづくり」とは何か、と問われれば、その答え方は色々ありますが、筆
者らは『要素技術をつなぎ、顧客に向かう「流れ」を作り、設計情報を盛り
込んだ人工物によって顧客を満足させる経済活動』と定義します。
つまり、「ものを作る」プロセスのみではなく、設計情報を人工物(製品)
に乗せて、お客さんまで届けて価値を生む=満足させるまでの「流れ」全体
を「ものづくり」と呼んでいます。
日本の製造業が強みを発揮する「ものづくり」は、自動車に代表される「擦
り合せのきいた設計情報を、生産現場で丹念にメディア(鋼板など)に転写
する」擦り合わせ型の製品であるとされています。
対して、パソコンシステに代表される、機能と構造が1対1で対応する「組
み合わせ型」の製品については、近年は中国が得意としている「ものづくり
」と言えるでしょう。
このように、地域特性と製品の設計思想が「相性の良い製品」を選ぶことが、
まずは競争優位を得るために必要ですが、ことはそう単純ではありません。
たとえば、DVDレコーダーは、HDDやDVDドライブといったモジュラ
ー部品の組合せであり、これら中間製品を組み合わせた典型的な「組み合わ
せ型製品」です。
しかし、階層を下って光ピックアップをみると、レンズ、レーザーダイオー
ド、フォトディテクターなどの部品をきめ細かな擦り合わせで設計した部品
といえます。
また元々、DVDレコーダーの開発から量産が始まった時点では擦り合わせ
型の製品であり、日本企業の独壇場であったのが、時間の経過と共に製品構
造が「組み合わせ型」へ推移すると共に、シェアの急落が生じたのです。
つまり製品の「階層」と「時間」により「擦り合わせ型」の日本企業の取る
べき戦略が変化することが分かり、DVDレコーダーならば、キーデバイス
である光ピックアップなどの部品供給に集中する、などが考えられます。
更に、お客に「設計されたもの」を提供することを「広義のものづくり」と
考えれば、サービス業も同じ尺度で考えることが可能です。
すなわち、イトーヨーカドーなど小売業、郵便、医療、金融商品、あるいは
製造業とサービス業の中間に当たるソフトウェア業や建築業にも当てはめる
ことで、取るべき戦略が見えてきます。
「ものづくり経営学」は今まさに立ち上がった試行的段階であり、未整理な
部分もありますが、現在の「ものづくり」をこってりと俯瞰できる、興味深
い一冊です。
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◇ カンドコロ! ◇
DVDレコーダーで日本製品が急速にシェアを落としている現象は、「いつ
かきた道」だ。
これまでもCD-ROM、CD-R、DVD-ROMなどで、繰り返し起き
てきたことだ。
デジタル製品は「擦り合わせ」要素がソフトウェアの中に取り込まれており、
製品が「組み立て型」に推移しやすい傾向にある。
このため、開発のオーバーヘッドを抱えた日本企業は、中国やASEAN各国との
価格競争に負けてしまうのだ。
これは日本企業特有の現象ではなく、かつてIBMがパソコン市場において
コンパックやデルの台頭により凋落した姿と全く重なる。
デジタル製品が抱える、共通のジレンマと言えよう。
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◆ 熱い行動 ◆
「資源がないからなんでも作って売れ」という貿易立国論は戦略に欠ける。
製品の構造と地域性、時代に対応した「ものづくり戦略」が必要だ。
「うちは特殊だから」とトヨタ方式を敬遠するな。
「形」をまねるのではなく、「思想」を学べ。
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◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 炎 | (炎3つが満点)
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◎ 目 次 ◎
第1部 ものづくり経営学総論
第2部 ものづくり経営学各論
第3部 非製造業のものづくり
第4部 アジアのものづくり
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◆ 関連ページ ◆
・著者 東京大学21世紀COEものづくり経営研究
・出版社 光文社
・アマゾン 『ものづくり経営学』
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