重大事故の舞台裏
【今週の一冊】
●『重大事故の舞台裏』
技術で解明する真の原因
編:日経ものづくり(日経BP社)
2005.10 / ¥2,520
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◆ 燃える一言 ◆
『一人ひとりが安全を意識し、地道な活動を続ける。
安全な社会を築くにはこれしかないと思います。』
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連日報道される、耐震構造の偽造問題は、建築業界のみならず、技術者の安
全に対する姿勢が問われています。
もし、偽装が明るみに出ず、災害が起こってしまったならばどうなるか―
本書に掲載された数々の事例は、技術者がかつて経験してきた、苦い教訓の
数々です。
昨年話題となった、三菱ふそう(事故当時は三菱自動車)の脱輪事故は、そ
もそも何が「技術的に」問題だったのでしょうか。
脱輪が発生したのは「ハブ」と呼ばれる車軸とホイールを接続する鋳造部品
で、円筒部にフランジを組み合わせた構造になっています。
1992年に起こった事故は、B型と呼ばれるハブのフランジ部が破断して発生
しましたが、そもそも通常想定される走行条件で、すでにこのハブには疲労
限を超える応力が発生していたのでした。
ところが三菱自動車はこれらのハブのリコールを行わないために、都合の良
いデータを強引に持ち込んで、整備不良がきっかけであるかのようなストー
リーを作り上げます。
そして対策としてD型ハブを開発するものの、コスト増加を招く他の部品の
変更を恐れ、フランジ形状のみで対策を行います。
しかし、納期に追われ十分な検証ができないまま採用されたため、かえって
D型ハブで事故が続発します。
このD型では、定積の大型トレーラーが交差点を左折する、というありふれ
た状況でも、ハブには降伏点を越える応力がかかる、脆弱な設計だったので
す。
この技術的問題を認知しながら、リコールを恐れた三菱自動車内では、ユー
ザーに責任を押し付けるために、破損原因を関係のない「摩耗」に求め、設
計者には嘘を強要します。
コスト削減のため、ギリギリで効率と安全を追及し、安全性を犠牲にしたた
めに設計変更が必要となっても、本当の理由は伏せられたのです。
そしてついにリコールとなりますが、その対策品とされたF型でも、新たな
基準に照らし合わせると強度不足となることが分かり、ハブ以外の部品の設
計変更も伴う、追加のリコールを余儀なくされます。
隠蔽の片棒を担いだエンジニアの責任は重大ですが、ハブ単独の設計変更と
したF型採用に対しては「コストや納期を考えれば当時の対応は止むを得な
い」と考える技術者が多数あることも、本書には記されています。
現在、議論の的となっている建築業界において、コストと安全性の兼ね合い
がどのように考えられていたのか、今後の調査を待たねばなりませんが、責
任の押し付け合いやバッシングからは、技術的、そして倫理的な課題が明確
になりません。
本書の重大災害事例や、報道の設計問題の背景を、冷静に、そして自らの立
場に置き換えて、他山の石とすることが、我々技術者の務めなのです。
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◇ カンドコロ! ◇
従来の三菱自動車では、疲労限を決めるのに、S-N(応力-繰り返し数)線図
だけを用いた、「マイナー則」を用いていた。
しかしマイナー則では、疲労限未満の応力がどれほどかかっても、亀裂は発
生しないと仮定している。
しかしこのマイナー則では、実態に合わなかった。
そこで、同社では、修正マイナー側を用いることとした。
これは、S-N線図と、実車試験の応力分布を併用し、疲労限未満の応力の影響
も考慮することとした。
ただし、修正マイナー則は鋼材の強度検証には有効だが、組織の均一性に欠
ける鋳鉄に効果があるかは、未知数であるとの指摘があることにも、気をつ
けねばならない。
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◆ 熱い行動 ◆
個人の良心と組織の論理が対立したとき、あなたは何を拠り所とするか。
技術者の規範を明瞭にせねばならない。
重大か、軽微かにかかわらず、トラブルを隠さず、教訓とせよ。
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◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 炎 | (炎3つが満点)
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序章 リコール隠しの舞台裏
第1章 自動車
第2章 鉄道
第3章 宇宙
第4章 建築
第5章 原子力
第6章 プラント
終章 重大事故を乗り越えて
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