May 10, 2007

レアメタル・パニック

Raremetalpanic
 【今週の一冊】
 ●『レアメタル・パニック』

  中村 繁夫(光文社)
  2007.1 / ¥1,000

----ものづくりを応援!技術士やまさんの「えんぢに屋本舗」-----

 ◆ 燃える一言 ◆


 『このレアメタル高騰は、25年に1度の大きな波である可能性が高く、
 
     「レアメタル・パニック」はこれから本格化するだろう。
 
          その甚大な影響は「石油ショック」をも超えるだろう』


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 マンホールの蓋や水道の蛇口、果ては公園の滑り台まで、各地で「金属泥棒
 」が頻発しています。
 
 かくまで「珍事」が起きるほど、今、金属材料が異常なほど値上がりしてい
 ます。
 
 その大きな要因が、本書で指摘する「レアメタル」の高騰です。
 
 
 「レアメタル」とは、希少金属のことで、ニッケル、コバルト、タングステ
 ンなど比較的よく知られたものから、インジウム、タンタルなど生産量の極
 めて少ないものまで含み、計31種類あります。
 
 レアメタルは、その名の通り地球上に埋蔵量が少ないもの、もしくは埋蔵量
 は多くても経済的・技術的に純粋なものを取り出すのが難しいため「希少」
 となるものがあります。
 
 そして、今や我々の生活は、「レアメタル」なしには成り立たないのです。
 
 
 例えば液晶テレビの生産工程では、「インジウム」がパネルの透明電極とし
 て使用されます。
 
 リチウムイオン電池にはリチウムやコバルトが、蛍光体にはイットリウムや
 ユーロピウムが原料となります。
 
 そして電子機器や自動車などのモーターに使われる「ネオジム系焼結磁石」
 の原料としてネオジムやサマリウムが用いられ、今後需要が高まる勢いを見
 せています。
 
 つまり最先端の製品が高い性能を発揮するためにはレアメタルは必要不可欠
 であり、そうした製品を多数生産する日本は、世界のレアメタルの25%を消
 費する、世界最大の「レアメタル消費国」なのです。
 
 
 ところが、そのレアメタルの需給バランスが崩れ、市場からなくなっている
 のです。
 
 2003年以降の3年間で、タングステンやバナジウムは約6倍、モリブデンは
 6倍、インジウムに至っては10倍近くまで高騰しています。
 
 この原因は、中国をはじめとする「BRICs」や「Next11」と呼ばれる新興国の
 経済発展にあります。
 
 これまで先進国で分配していたレアメタル資源を、これらの国を含めて分配
 することになり、資源消費マップが大きく塗り替えられているのです。
 
 
 特にこれまでレアメタルの輸出国であった中国が、国内需要の高まりと国家
 戦略により、輸入、更には世界中のレアメタルの「独占」を狙い始めている
 動きに注視せねばなりません。
 
 筆者をはじめ、世界を股にかける「山師」のような商社マンが動かす「レア
 メタル市場」が、日本のものづくりの今後を大きく左右することは間違いな
 さそうです。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 レアメタルが激しい値動きを示す理由として、埋蔵量が少ないことに加えて
 偏在していることが挙げられる。
 
 可採埋蔵量を見ると、ニオブはブラジルに約98%、タンタルは豪州に約93%、
 白金族は南アに約89%、リチウムはチリに約73%とその多くが特定の国に偏
 在している。
 
 また、生産量では、中国が希土類元素(レアアース)で約95%、タングステ
 ンで約83%、アンチモンで約82%を生産し、南アがプラチナで約72%、クロ
 ムで約50%、豪州がタンタルで約67%、チタンで約31%を生産している。
 
 これに対して、日本で操業している鉱山は菱刈金山のみ。
 
 日本は「レアメタル」の争奪戦で、圧倒的不利な状況にあるのだ。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 設計者は安易に「レアメタル」に依存するな。
 数円のVAではカバーできない変動が、レアメタルには付き物だ。
 
 環境技術でレアメタル産出国に貢献せよ。
 中国に偏らず、中央アジア、東南アジアなど広く供給先を確保せよ。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
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 第1章 世界のレアメタルを中国が食い尽くす
 第2章 決して終わらない世界各国の争奪戦
 第3章 世界経済はレアメタルによって作られる
 第4章 なんでもありの商社で世界を駆け巡る
 第5章 独占に次ぐ独占、そして大損のレアメタル商史
 第6章 資源貧国・日本の生きる道
 第7章 探検商社の船出
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・著者 アドバンストマテリアルジャパン
 ・出版社 光文社
 ・アマゾン 『レアメタル・パニック』
 
----ものづくりを応援!技術士やまさんの「えんぢに屋本舗」-----

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November 29, 2006

知られていない 原油価格高騰の謎

Genyukakaku
 【今週の一冊】
 ●『知られていない 原油価格高騰の謎』

  著:芥田 知至(技術評論社)
  2006.04 / ¥1,449

----ものづくりを応援!技術士やまさんの「えんぢに屋本舗」-----

 ◆ 燃える一言 ◆

 『原油から得られるエネルギーやプラスチック製品がなければ、
                現代社会は、まず成り立たないであろう。
 
    そういう意味では、誰もが原油を利用している。
    
      しかし、誰もが原油のことをよく知っているかというと、
                         答えはNOであろう』

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 数年前にはリッター90円でも「高い!」と思っていたのが、今では140円を
 下回ってさえ「安い!」と思ってしまうガソリン価格。
 
 今回の書籍によれば、原油高の影響で、光熱費やガソリン代の上昇により、
 04年に比べて年間26,000円も家計が圧迫されている計算になるそうです。
 
 ものづくりにおいても欠かせない、身近な「石油」ですが、意外と知らない
 実態に迫ってみましょう。
 
 
 そもそも「石油」とは原油、ガソリン、灯油などの総称であり、油田から汲
 み上げた原油を原材料として、精製して得られる製品がガソリンや灯油です。
 
 精製した炭化水素は、炭素量の少ない順に天然ガス・プロパンガス・ガソリ
 ン・灯油・軽油・重油・アスファルトといったおなじみの製品名で呼ばれま
 す。
 
 またガソリンとして製品化される前の中間製品である「ナフサ」は、プラス
 チックや合成繊維などの原料であり、石油化学工業で生み出される製品は、
 もはや無数といってもよいでしょう。
 
 
 さて、原油の生産地、といえば中東、というイメージがありますが、中東国家
 が中心のOPEC(石油輸出国機構)の生産量は、世界の40%程度に過ぎず、最大
 の産油国サウジアラビアに次ぐ生産国はロシア、そして米国です。
 
 かつてはOPECのシェアは50%を超え、原油価格の決定権を持ち、その決定によ
 って価格が吊り上げられたのが第1次、第2次石油危機でした。
 
 しかし、その後非OPEC諸国の生産量が増えたことから、現在の原油価格は、市
 場メカニズムで決まるようになっています。
 
 
 では、今回の原油価格高騰は、一体なぜ起きたのでしょうか。
 
 原油は価格の上下によって、使用量を極端に多くも少なくもできない「必需
 品」であり、また簡単に増産・減産できるものでもありません。
 
 また、現時点では世界の原油在庫量(=供給-需要)は増加しており、供給
 が極端に不足しているわけでもありません。
 
 価格上昇の原因は、足元の原油需給ではなく、「近い将来に需給が逼迫する
 かもしれない」という不安が大きくなったことにあると考えられます。
 
 
 供給側から言うと、特にOPECで油田の開発があまり進んでおらず、埋蔵量が
 十分あっても供給量が伸びていないことが挙げられます。
 
 また、せっかく原油の供給があっても、米国の製油所が老朽化し、フル生産
 しても能力が不足していることから、石油製品の値段が上がってしまうこと
 も原因です。
 
 そして需要は新興国を中心に伸び続けており、日本を含めた先進国の代替燃
 料へのシフトが十分進んでいないことも、今後の原油不足懸念となっていま
 す。
 
 
 今後はむしろ、「原油の枯渇」ではなく、「地球温暖化」という環境問題が、
 原油使用量、そして原油価格を左右する因子となると、筆者は指摘します。
 
 1円でも安いガソリンスタンドを探しつつ、この「液体」を取り巻く複雑な
 環境から、世界の今と未来が見えてきます。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 石油は何から生まれたのだろうか。
 
 大昔の堆積物に含まれる生物起源の有機物が、移動・集積してガス層や油層
 を形成した、とする「有機説」が有名で、世界の主流の説である。
 
 これに対して、「無機起源説」もある。
 
 これは、宇宙で地球が形成されたときの成分にメタンガスが大量に含まれて
 おり、地球の内部にはそのときのメタンガスが閉じ込められている、という
 発想が元にある。
 
 メタンガスが地球内部の高い圧力の下で、石油に変化してその一部が地表近
 くに染み出してきている、というのが無機起源説だ。
 
 最近になって、無機説を支持するようなタイプの油田が発見されたり、すで
 に開発された油田の埋蔵量の回復が観察されたりしていることから、無機説
 も完全には否定できないといわれている。
 
 無機起源説の立場からは、現在の可採埋蔵よりも膨大なものになる可能性が
 ある。
 
 しかし、たとえ無機起源説が正しく、埋蔵量が多くても、人類がそれを使い
 続けることは、環境問題の面からできなくなったといえる。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 省エネルギーに終わりはない。
 原油・素材高騰の今こそ、省資源化のチャンスだ。
 
 「ものづくり」は物理法則でできるが、「価格」は人がつくる。
 エンジニアも、社会学・経済学に関心を持て。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
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 第1章 急騰した原油価格
 第2章 原油を生産する国
 第3章 原油の輸入国
 第4章 原油市場
 第5章 世界景気失速懸念とオイルマネーの奔流
 第6章 将来の原油価格は上がる?下がる?
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・著者 芥田 知至「原油レポート」
 ・出版社 技術評論社
 ・アマゾン 『知られていない 原油価格高騰の謎』
 
----ものづくりを応援!技術士やまさんの「えんぢに屋本舗」-----

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June 01, 2006

目からウロコ 自動車リサイクルでみんなが得する本

 【今週の一冊】
 ●『目からウロコ 自動車リサイクルでみんなが得する本』
  廃車は100%よみがえる

  著:森 剛(ごま書房)
  2004.10 / ¥1,365
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 ◆ 燃える一言 ◆

 『現状を知り、危機感を持っているものが、
                 いまやらなくてはならないことなのだ。

    だれかがやらねばならない。

      だとしたら、私は喜んで、パイオニアとしての苦しみなど
                        引き受けようと思う。』

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 昨年から完全施行となった「自動車リサイクル法」。
 
 車検時などにリサイクル料金をすでに納めた方も多いことでしょう。
 
 これは廃車のリサイクル率を、2005年1月1日には85%、2015年
 には95%を自動車メーカーが行なうことを定めています。
 
 ところが、すでにリサイクル率100%を実現している「中古車屋」がある
 のです!
 
 それが、本書の著者、森氏が経営する「オートセンターモリ」です。
 
 
 日本では年間500万台もの自動車が廃棄され、その大半がシュレッダーダスト
 という、細かく砕かれた廃棄ゴミとなって埋め立てられています。
 
 その際、車に使われていた不凍液やオイルが適切に処理されず、垂れ流しと
 なり、自然環境を汚染していることが少なくありません。
 
 この現状を食い止め、きれいな地球を取り戻す―こうした使命感に突き動か
 され、森氏は「自動車の100%リサイクル事業」という「正売」を始めた
 のです。
 
 
 リサイクルの流れは、独自に構築したシステムにより、まず中古車の年式や
 傷の程度から、商品としての価値を評価します。
 
 そこで自動車、あるいは部品が販売できるかを判断し、どこにも売れず、し
 かも素材にすれば合計○○円で売れる、と判断したら、車を会社に持ち込み
 ます。
 
 そしてコンピュータの指示に基づいて、部品を「手作業で」外していくので
 す。
 
 解体は一人屋台方式(セル方式)で、処理終了まではたった1時間!
 
 しかも、従来はニブラという破砕機で破砕した後、取り外す部品は50品目以
 下であったのに対し、200品目もの部品を解体、いや再生部品として「生産」
 しているのです。
 
 丁寧に部品を外したあとのボディは純度の高い鉄くずとなり、やがて鉄の原
 材料として完全にリサイクルされるのです。
 
 
 不用になったものを浄化したり、新たに蘇らせる「静脈」産業は、循環型社
 会実現に必要でありながら、未だ模索状態です。
 
 森氏が事業を軌道に乗せるまでの苦労は一方ならぬものでしたが、中古車業
 を通して、自動車を「ゆりかごから墓場まで・・・そして墓地から蘇らせる」
 ことを“使命”とした信念が、大きな潮流となっていることを感じます。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 車のシートは、硬質ウレタンを土台としており、10年使ってもほとんどヘタ
 リがこないほど耐久性が高い。
 
 また、人が長時間座ることを前提とし、疲れないよう人間工学的に研究され
 て作られている。
 
 しかも普通のソファには絶対ついていないヘッドレストまで着いている。
 
 このような優れた性能を備えたシートを捨ててしまってはもったいないと、
 応接セットとして活用することを、森氏は思い立った。
 
 まずシートの汚れを取り、サンドペーパーで丁寧に磨き、ニス塗りをする。
 
 この後、大工や木工所の協力で、仕上げていく。
 
 こうして、運転席や助手席のシートからは一人掛けの椅子が、後部座席から
 は二人掛け、三人掛けのソファができる。
 
 あるみにシアターでは、全座席を自動車シートで作り、好評だという。
 
 自動車部品を、カーグッズ以外へのリサイクルも考える視点が、今後廃棄車
 両の利用価値を高めていくことになるのである。
 
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 ◆ 熱い行動 ◆
 リサイクルはボランティアではなく、事業だ。
 カイゼン・5Sを徹底し、ムダとりで効率は上げられる。
 
 信念は、人を動かし、会社を動かし、国を動かす。
 熱い使命感が、困難を克服する原動力だ。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 |   | (炎3つが満点)
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 プロローグ 日本を、地球を甦らせるビジネスとは…
  ―私が自分の人生を、自動車再生に賭けたわけ
 第1章 ただの商売ではない、「正売」だ
  ―人権と環境を結びつける
 第2章 世界に誇る、自動車解体・再生の技術革命
  ―技術と理念が結びついたとき
 第3章 人が好き、車が好き
  ―だから、いろいろな思い出のつまった車を「廃車」にしない
 第4章 「やっぱりモリは違う!」その一言のために
  ―お客様は神様、そして社員は宝
 エピローグ 夢は、「世界再生」に向けて羽ばたく
  ―「静脈」が機能すれば、地球も人間も元気になる
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・オートセンターモリ
 ・出版社 ごま書房
 ・アマゾン 『目からウロコ 自動車リサイクルでみんなが得する本』

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March 30, 2006

自然に学ぶものづくり

Shizennnimanabu
 【今週の一冊】
 ●『自然に学ぶものづくり』
  生物を観る、知る、創る未来に向けて

  著:赤池 学(東洋経済新報社)
  2005.12 / ¥1,680

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 ◆ 燃える一言 ◆

『自然界では、機械も使わずに最低限の力で、
                   自発的にものがつくられています。
                   
   できるだけ単純な仕組みを使って、材料となるものにどのような環境を
     与えれば、必要な構造や機能を自発的に生み出すことができるか。
     
     地球という場の中で、自然にできたものに学ぶ意義は、
                  そこにあるのではないでしょうか。』

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 タイからの帰国の機内の中から、今回はお送りします。
 
 タイの特産品といえば、「タイ・シルク」。
 
 色鮮やかで手触りのよりスカーフが、お土産としてたくさん並べられていま
 した。
 
 
 さて、シルクは蚕が繭として生み出すものですが、思えばわずか体長8セン
 チほどの体から「生産」されるプロセスは、とても人間には真似できません。
 
 シルクはセリシンとフィブロインという2種類のタンパク質からなり、中心
 のフィブロインを4層のセリシンが囲む5層構造です。
 
 しかも各セリシンは熱による溶解性がそれぞれ異なっており、フィブロイン
 の保護、潤滑剤、繊維の固定、繭の構造材という役割を担っています。
 
 小さな体から、常温常圧で、身の回りの酸素、窒素、水素、炭素といった軽
 元素のみで長さ1,500メートルもの長さの絹糸が生み出される、「ハイテク・
 シルク工場」が蚕なのです。
 
 
 この絹タンパクを、繊維ではなく純度の高いタンパク質素材としての利用が
 研究されています。
 
 肌に優しく、生体適合性が高いシルクの性質を活かし、化粧品やコンタクト
 レンズ、人工皮膚などへの応用開発が進んでいます。
 
 更には蚕のゲノムが解読されており、蚕以外の他の生物からも、似た遺伝子
 情報を解明することで、利用価値のあるタンパク質が作り出せるかもしれな
 いのです。
 
 
 こうした自然の持つ潜在的な力を活用し、またその構造や機能を模倣し、そ
 して資源やエネルギーを循環的に活かすものづくりが、本書には紹介されて
 います。
 
 里山で自然と共存し、紙や木や土を生かしたものづくりの歴史を持つ日本こ
 そ、いまなお豊かな自然に囲まれた東南アジアはもちろん、世界に向けて、
 「自然に学ぶものづくり」を発信すべきでしょう。
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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 セルロースは、木をはじめとする植物繊維の骨格となる成分であり、環境に
 適合する天然高分子として活用されている。
 
 これまでは、木材をパルプとし、更に微細な繊維状にして取り出したセルロ
 ースをもとに材料を開発してきた、いわば「トップダウン方式」だ。
 
 これは植物がエネルギーを使って組み立てた構造を、さらにエネルギーを使
 って崩すことになり、効率が悪い方法だ。
 
 今後重要になるのは、生合成されたセルロースを、種々のサイズ・構造を持
 つ構造体に形成する「ボトムアップ方式」であり、生態系は常にボトムアッ
 プ方式だ。
 
 このようなボトムアップ方式の材料設計が可能な系が、酢酸菌などのバクテ
 リアが産生するセルロースゲルだ。
 
 なんとこのゲルは、あのデザートとしてブームになった「ナタデココ」なの
 だ。
 
 このバクテリアセルロースゲルを利用して、ヘッドホーンの振動板などに用
 いるの強度の高いフィルムが得られ、また液晶ディスプレイなどの無機ガラ
 スに代わる、軽量の高性能ガラスとしての利用が期待されている。
 
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 ◆ 熱い行動 ◆
 出力したもののリサイクルの前に、入力を抜本的に見直そう。
 動植物の、身の丈にあった入出力に学ばねばならない。
 
 「虫けら」と、侮ることなかれ。
 数億年前から生き延びた彼らを、人類はまだ解明していない。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 |   | (炎3つが満点)
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 序章 今なぜ、自然に学ぶものづくりなのか
 第1章 「人間力」―生物を観る、知る、創る未来に向けて
 第2章 「植物力」―自然を活かすバイオマスビジネス
 第3章 「昆虫力」―インセクトテクノロジーの台頭
 第4章 「微生物力」―自然に学ぶライフサイエンスの未来
 第5章 「地球力」―命を育む地球生態系に学ぶ
 第6章 「再び人間力」―自然に学ぶ子どもたちを生み出すために
 終章 自然に学ぶものづくり、日本から世界への発信
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・著者 赤池 学
 ・出版社 東洋経済新報社
 ・アマゾン 『自然に学ぶものづくり』

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August 31, 2005

環業革命

kangyoukakumei
 【今週の一冊】
 ●『環業革命』

  著:山根 一真(講談社)
   2005.5 / ¥1,995

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 ◆ 燃える一言 ◆
 『人類は、20世紀の大工業時代の礎となる17~19世紀前半の「産業革命」
   によって壮大な文明を構築したが、それが破綻の兆しを見せ始めた今、
      私たちは次の「産業革命」を興す決意をするときなのである。』
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 日本のものづくりに携わる創造的な技術者との対談「メタルカラーの時代」
 を14年にわたり連載している著者が、「環境を基軸とした新しい産業革命」
 =「環業革命」を提唱しています。
 
 豊富な自らの体験と取材を基に、これまで人類の犯してきた「過去」、我々
 が直面している「現在」、そして今後突きつけられる「未来」を描き出して
 います。
 
 
 「水に流す」という言葉が示すごとく、川や海には廃棄物の浄化作用があり
 ますが、自然界では処理しきれない、あるいは浄化できない「モノごみ」が
 大量に廃棄されています。
 
 しかし、人々の意識は、縄文人が貝塚に食べかすを捨てていた時代と変わら
 ず、垂れ流した汚染物質により、水俣病に代表される「公害」として、「ゴ
 ミが人を殺す」結果となりました。
 
 また、筆者は熱海の沖合いの1,200mの海底で、光も届かぬ暗黒の世界の中に、
 UCCコーヒーやバドワイザーの空き缶が、まるで宴会の後のように散乱し
 ている光景に唖然とします。
 
 もはや、我々は「捨てる」ことは赦されておらず、自らの手で「戻す」以外
 に選択はないのです。
 
 
 人間が産業革命以後、大量に捨ててきた「ゴミ」があります。
 
 「ガスごみ」とも言える、工場や車の排気ガスであり、二酸化炭素です。
 
 地球温暖化と温室効果ガスの因果関係は、未だ決定的な証明はなされていま
 せんが、将来証明されるまで放置していては「時すでに遅し」となるのは目
 に見えています。
 
 
 化石燃料という「IN」を使いたいだけ使い、二酸化炭素という「OUT」
 を捨てるだけ捨ててきた入口と出口を共に閉じ、その中で資源やエネルギー
 を循環させて、かつ豊かさと便利さを実現することは、まさに「革命」とい
 えるほどの大転換を要します。
 
 果たしてそれはできるのでしょうか?
 
 そのヒントがいくつか示されていますが、北九州市の例を挙げましょう。
 
 
 20世紀初頭、八幡製鉄所を中心に一大工業都市を形成した北九州は、「七色
 の煙」を市歌で歌い上げるほど、工場の煙を繁栄の象徴としていました。
 
 1960年代には気管支ぜんそく患者が増大し、廃液の充満した湾は大腸菌すら
 生息できない「死の海」と化したのです。
 
 80年代に入り、「エコタウン」の構想により、公害克服から廃棄物処理、そ
 して資源の効率的な再利用まで含めた総合環境コンビナートへと転換を始め
 ます。
 
 その中の使用済み自動車のリサイクル工場では、自動車の製造ラインを廃車
 が「逆流」し、部品を順次はずして最後には高品位の鉄として高炉に戻せる
 ほどの「見事なもの壊し」が実現しています。
 
 こうして青空と清浄な海を取り戻した北九州は、視察者が引きも切らない、
 循環型社会構築の世界の手本と生まれ変わったのです。
 
 
 人類始まって以来、化石燃料による「炭素の火」を大量消費することを豊か
 さとしてきた歴史をひっくり返す壮大な試みが始まっています。
 
 それは「炭素の火」を使う以上に高性能、低価格でなければなりません。
 
 日本のものづくりに、これまで以上の大きなイノベーションが求められてい
 るのです。
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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 火葬場の煙、つまり遺体からもダイオキシンは出ている。
 
 人体には塩という形で塩素が含まれており、燃焼温度が低く不完全燃焼する
 と生成される。
 
 最近はより高温で燃焼できる炉への改修が進んでいるようだ。
 
 人間の身体を火葬すれば、「土に還る」と言うが、実際は大半は大気に放出
 されており、「空に還る」のである。
 
 人間という形で固定されていた炭素が大気へ放出され、植物が吸収し、動物
 が摂取する。
 
 私という「炭素」も、地球の「カーボンニュートラル」という輪の一部に過
 ぎない。
 
 その輪を破綻させる化石燃料による二酸化炭素の増加は、もう、止めねばな
 らない。

───────────────────────────────────
 ◆ 熱い行動 ◆
 今日の異常と昨日の異常に大きな差がないから、異常に慣れていないか。
 遅れれば遅れるほどツケが大きくなることは、公害で学んだはずだ。
 
 良い未来を描く「ファンタジー」を持ち、実現しよう。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
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 第1章 環業革命のレッスンワン
 第2章 さよならアメリカ文明
 第3章 地球の温かな危機
 第4章 欲望の炭素世紀
 第5章 殺傷ゴミの経歴
 第6章 「モノ壊し」と「モノ戻し」
 第7章 「狩光採風」の生活

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July 27, 2005

地球環境が目でみてわかる科学実験

chikyukankyo
 【今週の一冊】
 ●『地球環境が目でみてわかる科学実験』

  著:川村康文(築地書館)
   2004.7 / ¥1,470

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 ◆ 燃える一言 ◆
 『地球環境問題、エネルギー問題を知って、これらの問題解決に
                     私たちの叡智を傾けましょう。
    叡智を傾けるためには、ただ単に知っているだけではいけません。
              それらを科学的に理解することが大切です。』
-----------------------------------
 昨晩から台風7号が上陸し、大雨をもたらしています。
 
 思い出されるのは、昨年の「週間」台風の猛威です。
 
 まさに「異常気象を実感」したように思いましたが、あくまで感覚的なもの
 で、どこまで因果関係が分かっているかは、甚だ不明確です。
 
 私たちは、地球環境の変化について、どこまで理解しているでしょうか。
 
 実際に自ら実験して、環境問題とその対策について、楽しく学べる本を紹介
 します。
 
 
 当たり前のように「二酸化炭素の排出で地球が温暖化する」と言いますが、
 さて、そのメカニズムは?
 
 太陽からのエネルギーは、電磁波として地球に降り注ぎ、その大部分は可視
 光線で、二酸化炭素は素通りします。
 
 電磁波のエネルギーは地表に到達すると減少し、その分波長が長くなった赤
 外線として宇宙空間に放出されます。
 
 ところが二酸化炭素をはじめとする「温室効果ガス」は、赤外線を吸収し、
 その名のごとく温室のように大気を保温するのです。
 
 つまり、温室効果ガスの増加により、気温が上昇するのです。
 
 
 本書では、二酸化炭素の温室効果を、ペットボトルに封入した空気との比較
 で調べる実験の方法が示されています。
 
 できるだけ正確に測定するためには、手作りであっても試料が熱源からの影
 響を均等に受けるような工夫が必要であり、複数の道具立てが解説されてい
 ます。
 
 
 一方、ディーゼル車の排気ガスに含まれる浮遊粒子状物質(PM)が健康被害
 の原因として注目されていますが、PMのような微粒子(エアロゾル)は、
 物質によって冷却効果を示すものと、温暖化効果を持つものがあります。
 
 海水が蒸発して生じる塩化物結晶のエアロゾルは、白色系ですので光を反射
 し、冷却効果がありますが、ディーゼル車や工場排気のススは、当然黒色系
 の温暖化効果を示す物質です。
 
 これも、二酸化炭素と同様の実験装置で、白いチョークの粉を入れた場合と、
 炭素粉を入れた場合で実際に実験してみると、納得できるでしょう。
 
 
 こうして、環境が実に簡単に変化しやすいものだということを知った上で、
 対策として挙げられる「風力発電」「太陽光発電」「燃料電池」などを、教
 材を買ってくるのではなく、実地に作ってみることを、次のステップとして
 示しています。
 
 効率のよい風力発電として「サボニウス型風車」(これ、私は初めて知りま
 した!)が挙げられ、また燃料電池をお茶やコーヒーで作る方法が示される
 など、なかなか捻りが効いています。
 
 夏休みの自由研究で、子供と一緒に、ものづくりとエコを学ぶ良いテキスト
 になるでしょう。
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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 身近にある太陽電池は、大半が半導体のアモルファスシリコンで、とても手
 作りできるものではない。
 
 また、実は製造過程で大量のエネルギーを要し、有毒な元素を含むため廃棄
 の問題もある。
 
 そこで注目されるのが、「光合成型太陽電池」と呼ばれる色素増感太陽電池。
 
 主原料は、化粧品にも使われる「二酸化チタン」、紫キャベツなどの天然色
 素、うがい薬にも入っている「ヨウ素溶液」など、安価で安全なものだ。
 
 そして、小学生でも科学実験で作れる手軽さ!
 
 効率や安定性などの課題はあるが、注目される技術であり、実際に自分で太
 陽電池を「作った」経験は、科学への関心を高めるはずだ。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 原理原則が分からねば、「地球を大切に」の掛け声だけで地球は救えない。
 何が起こっていて、何ができるかを実地に知ろう。
 
 子供と一緒に、夏休みの宿題をやろう!
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
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 ◎ 目 次 ◎
 Part1 環境問題ってどんなこと?
  1 地球温暖化
  2 酸性雨
  3 大気汚染
  4 エアロゾルによる地球温暖化・冷却化
  5 オゾン層の破壊と紫外線
 Part2 環境にやさしいエネルギー
  6 電気エネルギーといろいろな発電
  7 太陽電池
  8 風力発電
  9 燃料電池
  10 省エネルギー
 Part3 これからの地球を考える
  11 環境家計簿
  12 京都議定書

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June 15, 2005

カタツムリが、おしえてくれる!

katatumuri
 【今週の一冊】
 ●『カタツムリが、おしえてくれる!』
  自然のすごさに学ぶ、究極のモノづくり

  著:赤池 学, 金谷 年展(ダイヤモンド社)
   2004.4 / ¥1,680

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 ◆ 燃える一言 ◆
 『自然はわれわれの知性にとっては限りなく驚嘆すべきことを、

                最高の容易さと単純さとでつくっている』
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 明日は我が家の地域の「資源ごみ」の日です。
 
 溜まりに溜まった空き缶やペットボトル、壊れた電話や梱包材などを(今度
 こそ)一気に片付けようと、ウチの奥さんも張り切っています。
 
 こうして分別回収して再資源化することは良いことですが、化石エネルギー
 を大量消費していることは紛れもない事実です。
 
 果たしてこの生活、この技術で、人類は「持続可能」なのでしょうか?
 
 
 その一つの回答として、「ネイチャーテック」という概念が提案されており、
 実践している企業として、トイレなどで有名なINAX社が採り上げられて
 います。
 
 「ネイチャーテック」の一つ目の定義は、「持続可能な自然素材を活用して、
 従来の人工素材を上回る性能を実現させた技術で、かつ、ライフサイクルで
 著しい環境負荷の低減を可能にしたもの」です。
 
 
 例として挙げられた、「エコカラット」と呼ばれるタイルは、ナノレベルの
 微細な空孔を持つため、抜群の吸放湿性と有害物質や悪臭成分の吸収力を持
 った、優れた内装材料です。
  
 いわゆる「ナノテク」と呼ばれる技術が、莫大なエネルギーを使用するのに
 対し、厳選した天然の土を、従来のタイルよりも低温で焼き上げた「焼き物」
 ですから、「自然素材」「従来を上回る性能」「環境負荷の低減」の三拍子
 揃った、スーパータイルなのです。
 
 しかも、この開発が、日本家屋の蔵の「土壁」を徹底的に分析・調査し、そ
 の機能をタイルとして再現しようとしたところから生まれた技術であったこ
 とに驚かされます。
 
 
 もう一つの「ネイチャーテック」の定義は、生物や自然の持つ機能に学び、
 模倣する技術です。
 
 タイトルにもあるように、カタツムリの殻は、どうしていつも汚れずにツヤ
 ツヤ光っているのでしょう?
 
 カタツムリの殻は、材料的に「撥水性」(水をはじきやすい)があり、表面
 に形成されたシリカの細かい凹凸によって、油汚れを落としやすい性質も有
 していることが分かり、水周り製品には欠かせない「防汚性」の優れたお手
 本だったのです。
 
 このカタツムリにヒントを得て、INAXは実際に外壁、キッチンシンク、
 そしてトイレの防汚技術として応用、製品化しています。
 
 
 これまでの「ものづくり」は、石油から精製された「ベンゼン」や、精錬さ
 れた「炭素鋼」に、高温高圧をかけて「力任せに」創り出す技術が主体です。
 
 しかし、人間は37度の体温で、高度な化学反応を起こし、クモは石油繊維よ
 り軽く、鋼鉄より強い糸を紡ぎ出し、地中のマグマは岩石を「蒸し焼き」に
 して溶かしています。
 
 いずれも、人工的なものづくりよりも、ずっとエントロピーの低い、エネル
 ギーや資源の無駄がない変化です。
 
 自然の美しさに感動し、体験し、学び、模倣する。
 
 これまでの技術とは異なるアプローチの「ネイチャーテック」という視点が、
 21世紀のものづくりには必要です。
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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 「人間」という自然の一部に学ぶためには、人の感覚的な評価を測定するこ
 とが必要だ。
 
 人の感性を数値化することを、官能評価という。
 
 INAXでは、人の感覚と、物理量との相関を指標としている。
 
 例えば、「すべりやすさ」の評価。
 
 縦軸に、「すべりやすい」「すべりにくい」という実際に人が歩いたときの
 感覚をとる。
 
 横軸に、モデルで実験した「すべり抵抗係数」をとる。
 
 この関係をグラフ化すると、曲線が現れて、相関があることが分かる。
 
 これさえあれば、「すべり抵抗係数○~△」のタイルを開発しよう、と決め
 ることができる。
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 ◆ 熱い行動 ◆
 あなたの技術の、ライフサイクルを通じた環境負荷はどれほどだろうか。
 「ネイチャーテック」でブレイクスルーはできないか。
 
 子供と一緒に、「ムシキング」ではなく、本物の「ムシ」を観察しよう。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
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 ◎ 目 次 ◎
 序章 新たな、モノづくりのパラダイム ネイチャーテック
 第1章 土に学び、土を活かす
 第2章 水に学び、水を活かす
 第3章 生き物に学び、生き物を活かす
 第4章 人に学び、人を活かす
 第5章 歴史に学び、歴史を活かす
 終章 科学者よ、技術者よ、そして経営者よ、ネイチャーテックのドアを開
    け!

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February 16, 2005

日本発次世代エネルギー

jisedaienagy
 【今週の一冊】
 ●『日本発次世代エネルギー』
  挑戦する技術者たち

  著:多湖 敬彦(学習研究社)
   2002.11 / ¥1,785

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 ◆ 燃える一言 ◆
 『エネルギーは資源と技術があって初めて、エネルギーとなる。
    日本は次世代エネルギー技術、そして次世代エネルギー利用の
                   モデルを輸出することができる。』
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 地球温暖化防止のために、温暖化効果ガスの排出削減を先進国に義務付ける
 「京都議定書」が、本日発効されます。
 
 日本は、2008~12年に1990年比で6%、03年比では14%もの削減が必要で
 あり、各種報道ではその実現性に疑問を呈し、対策として「環境税」や「排
 出権取引」が、かまびすしく語られています。
 
 しかし、いくら空気を取引しようとも、地球規模の問題の総量としては解決
 にならず、根本的には技術による省エネルギー、脱化石エネルギーが必要と
 なります。
 
 今、注目すべき「次世代エネルギー」とは何でしょうか。
 
 まず挙げられるのは「燃料電池」でしょう。
 
 「水素と酸素の反応により電気を取り出し、水しか排出しない」のが謳い文
 句の燃料電池こそ、次世代エネルギーの旗手と目されていますが、「商品」
 としての実用性には、まだまだ課題が山積しています。
 
 「発電できる給湯器」としての定置型の分散電源も、ホンダやトヨタがレン
 タルする燃料電池車も、「出来のいい小学生」に例えられています。
 
 そのココロは、「将来どうなるかは分からないが、期待はできる。」
 
 今は、欠点を挙げつらわずに、温かく見守ってほしい、というところでしょ
 うか。
 
 資源に乏しい日本において、再生可能な自然エネルギーとして注目されてい
 るのが「太陽光発電」「風力発電」、そして「バイオマス」です。
 
 中でも「バイオマス」は、いろいろな利用形態があり、最も原始的な「薪」
 も含まれます(効率も悪くCO2も出ますが)。
 
 もちろん、現在、模索されているのは自然に悪影響を与えない、再生可能な
 エネルギーを得る方法であり、森林の間伐材を燃料としたマイクロガスター
 ビンや、牛や鶏の畜産廃棄物のメタン醗酵による発電などが実用化されてい
 ます。
 
 バイオマスが、石油や原子力に取って代わるエネルギー源となるのは困難で
 すが、廃棄物の利用による循環型社会を形成する上で、大いに意味がありま
 す。
 
 面白い技術としては、スターリングエンジンによるコージェネレーションが
 紹介されています。
 
 ガソリンエンジンなどの「内燃機関」に対し、燃料を選ばない「外燃機関」
 のスターリングエンジンは、理論的には熱効率が高く、「夢の」エンジンと
 言われます。
 
 ただ、あくまで「夢」であり、教科書だけの理想論…と思っていたのですが
 、実はひっそりと(?)海外では生産され、日本にも輸入されているそうで
 す。
 
 マイクロガスタービンや燃料電池が不得意な、排熱や温度の低い熱源を利用
 したコージェネレーションでの活用が期待されます。
 
 「メタンハイドレード」「海洋温度差発電」「トリウム熔融塩炉」などの、
 珍しい技術も紹介されていますが、いずれもコスト・信頼性・規制等、問題
 が多いことがよくわかります。
 
 しかし、こうして手をこまぬいている間にも、事態は進行していきます。
 
 20世紀までの「大量生産、大量消費、大量廃棄」から舵を切り、地球規模で
 歯止めをかけようとする「京都議定書」を反故とせぬよう、今こそニッポン
 のエンジニアが歯を食いしばらねばならないのです。
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 ◆ 熱い行動 ◆
 既得権や常識にとらわれていては、「14%削減」は実現できない。
 
 子孫に誇れる「次世代エネルギー」利用のモデルを、我々が作ろう。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 |   | (炎3つが満点)
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 ◎ 目 次 ◎
 はじめに 日本は「次世代エネルギー」を輸出する
 第1部 石油か天然ガスか
  第1章 「燃料電池革命」が持つ意味
  第2章 天然ガス時代は来るか―パイプラインとメタンハイドレート
 第2部 台頭するソフトエネルギー
  第3章 資源としての環境熱
   ―スターリングエンジン・廃熱発電・海洋温度差発電
  第4章 眠れる資源、バイオマス
 第3部 新たな原子力技術を求めて
  第5章 もう一つの原発―プルトニウムをいかにして消滅させるか
  第6章 常温核融合は死んだか
  終章 「廃炉の時代」の選択
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 ● ひとこと ●
 先週に引き続き、歯医者へ通っています。
 
 実はかれこれ10年ぶりくらいに治療しているのですが、近頃の設備はなか
 なか見応えがあります。
 
 顔の周りをぐるっと回ってレントゲンを取る装置と、その写真の分かりやす
 さには感動すら覚えました。
 (私が知らなかっただけで、昔からあったのでしょうか?)
 
 そのままでは見えないものを、展開してみる、というのは、計測や加工では
 有効な方法ですね。

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January 12, 2005

動き出す「逆モノづくり」

 【今週の一冊】
 ●『リサイクルプラントが主役! 動き出す「逆モノづくり」』
  作って、戻して、生かすテクノロジー

  著:門脇 仁(日刊工業新聞社)
   2003.3 / ¥1,575
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 ◆ 燃える一言 ◆
 『近い将来、「資源循環はモノづくりの王なるかな」
                 という時代がくるかもしれない。
        資源の再生は、ことほどさように産業の再生をもたらす。』
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 今年1月1日より、「自動車リサイクル法」が施行されました。
 
 資源循環に向けた取り組みを規定した、2000年制定の「循環型社会形成推進
 基本法」の大きな柱が「リサイクルの推進」と「廃棄物の適正処理」であり
 、これを個々の物品等へ展開した法律の一つです。
 
 自動車リサイクル法も、すでに施行されている「家電リサイクル法」も、「
 使った人が費用負担、売った人が引き取る、作った人がリサイクル」という
 分担になっており、廃棄の際に費用を納めた方も多いでしょう。
 
 タイトルにもある「逆ものづくり」と聞くと、これら「リサイクル」をイメ
 ージしますが、語源である「インバース・マニュファクチャリング」とは、
 順工程(製造→使用→廃棄)と逆工程(回収→再生)を統合する事を意味し
 ます。
 
 つまり「戻す」だけではなく、「作る、使う、戻す、生かす」ライフサイク
 ル全体に渡り、生産者が環境負荷の少ない資源ループを作ることなのです。
 
 しかし、商品価値としてのサイクルがどんどん加速される現在、5~10年
 先の廃棄品の行く末まで見込むのは、容易なことではありません。
 
 例えば、富士ゼロックスでは、コピー機の部品に「ワンモアライフ」という
 手法を導入しています。
 
 統計や機械の分解調査により、部品それぞれの寿命を予測し、リース先での
 使用年月との差が更に「ワンライフ」あれば、その部品はリサイクルパーツ
 として使えることになります。
 
 通常、品質保証といえばワンライフに止まるものですが、部品ごとの寿命の
 正確な判断と、回収した製品をあたかも「原料」のように供給する情報シス
 テムにより、逆工程を組立工程に取り込んでいます。
 
 また、「環境経営では儲からない」と言われますが、企業である限り、利益
 がなければ継続的な取り組みはできません。
 
 ゼロ・エミッション(廃棄物ゼロ)を掲げたINAXの榎戸工場の例では、一旦
 廃棄物の処理コストが増大したものの、靴の裏の泥を回収して原料に戻すよ
 うな地道な取り組みにより、処理費用を上回る原料コスト削減が可能となっ
 ています。
 
 あるいは業界内、地域で回収ルートや再資源化ルートを共有することでコス
 トを削減することが有効であり、家電や自動車メーカの「競争」と「協調」
 が機能し始めています。
 
 資源を持たず、廃棄物の処理場も残り少ない日本にとって、3R(排出抑制
 :Reduce、再使用:Reuse、再利用:Recycle)は避けて通ることができませ
 ん。
 
 真に「循環型社会」を実現するためには、一事業所、一企業だけでサイクル
 を構成することは不可能ですが、かといって体制が出来上がるのを待ってい
 ては、環境負荷は増大するばかり。
 
 なればと、規制に先んじて10年先を見越した対応を始めた企業・団体は、
 環境経営という「名」と、コストダウンや環境ソリューションの提供という
 「実」を手にしています。
 
 「逆ものづくり」の背景と現状を、本書の前半にまとめられた資源循環の制
 度や技術、後半の事例をテキストとして学び、「小さな事からコツコツと」
 まず、始めませんか。
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 ◆ 熱い行動 ◆
 もっと、使う材料・エネルギーを減らせないか。
 もっと、廃棄物・不良を減らせないか。
 もっと、再使用・再利用できないか。
 
 自分の一日(生活と仕事)を、見直そう。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
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 ◎ 目 次 ◎
 プロローグ 工場で生まれた資源循環システムそれが「逆モノづくり」
 第1章 循環型社会をリードする製造業
 第2章 確立される制度上のプラットフォーム
 第3章 逆モノづくりの製品戦略
 第4章 どこから来てどこへ行くのか、環境負荷
 第5章 「眠れる資源」を再生せよ
 第6章 逆工程をサプライチェーンに直結
 第7章 「鉛フリー」と「不良率ゼロ」へのステップ
 第8章 実証ラインは「気づき」の宝庫
 第9章 徹底した環境行動が実益を生む
 第10章 モノづくりの火を消すな
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 ◎ お知らせ ◎
 技術士・技術士補と、技術士を目指す受験者のネットワーク「Net-P.E.Jp」
 では、平成17年度 技術士二次試験受験者や受験を検討している方に向け
 て、下記の予定で合格ポイント講座を開催いたします。
 
 ・開催日時:平成17年2月19日(土)10:00~17:00
      (講座終了後、懇親会を開催)
 ・開催場所:神戸センタープラザ西館6F(JR三宮駅すぐ)
 ・参加費 :2000円(飲み物、資料など)
 ・申込み先: http://www.formzu.jp/formgen.cgi?ID=c8388157
 ・詳細は… http://www.kikaipe.com/point.html
 
 私も講師をさせて頂きますので、技術士二次試験受験を考えている方は、是
 非お申込ください。
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 ● ひとこと ●
 今月、愛車を車検に出します。
 
 早速、1万円ほどの「リサイクル料」を納めて、自動車リサイクル法を体験
 することになります…。

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January 05, 2005

徹底予測2005

tetteiyosoku2005
 【今週の一冊】
 ●『日経ビジネス総力編集 徹底予測2005』

  日経ビジネス アソシエ増刊号(日経BP社)
   2004.12 / ¥650

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 ◆ 燃える一言 ◆
 『成長持続は単なる継続を意味するものではない。
  不断の革新がなければ売上や利益の持続的な成長は手に入れられない。』
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 年始に当たり、今年の「ものづくり」の動向を予測してみましょう。
 
 表紙には「日本経済、大転換点へ。」の文字が躍ります。
 04年、日本経済は長いトンネルを抜け出し、復活の歩みを始めました。
 
 今年のキーワードは「復活から持続へ」。
 本書では主要な業種の動向や、昨年のアンケート結果からみる未来予想を展
 開しています。
 
 この中で、製造業において重要な視点を3つ挙げるとすると、以下が読み取
 れます。
 
 (1)資源・エネルギーの供給不足
 
  鉄鋼材料の不足により、自動車メーカのラインが停止し、銅やアルミニウ
  ムも需給が逼迫しています。
  
  原油価格も右肩上がりに上昇しており、イラクの情勢不安などもあり、今
  年も高値で推移するという予測もあります。
  
 (2)“消費地”中国
 
  これまで、世界の工場であった中国が、市場としての存在感を急激に強め
  ています。
  
  資源やエネルギーも、中国ががぶ飲みしており、すでに発電所の容量は日
  本を越え、2020年には更に倍以上になると見込まれています。
  
  国内需要が減少する中、重電メーカはこぞって中国へ進出する模様です。
  
 (3)不断の「革新」
 
  DVD、薄型テレビに代表されるデジタル家電は、04年後半には既に過当
  競争の様相を呈しており、価格下落による勝敗が現れています。
  
  デジタルカメラや携帯電話も市場が成熟し、技術革新の踊り場に来ていま
  す。
  
  また、京都議定書が発行され、これまで以上に省エネルギー・低燃費な製
  品と、製造工程やリサイクル方法が必要です。
 
 これら3項目は互いにリンクしており、経営者はもちろん、現場の技術者に
 とって避けては通れない課題でしょう。
 
 一方、興味深い記事として、青色LED特許に関する「中村裁判」の背後に
 「技術者の士気低下」がある、というレポートが掲載されています。
 
 この5年で士気が低下していると約6割の技術者が感じ、会社への不満や不
 信感が満ちており、このまま看過すれば、「技術立国ニッポン」は画餅に終
 わります。
 
 しかし、成果に対する報酬だけをエンジニアが求めているのはなく、それ以
 上に「専門性を生かせる」「技術戦略の先見性がある」場合には、士気が高
 まるという集計もあります。
 
 「大転換」の時代だからこそ、そのターニングポイントの鍵を握るのは、我
 ら現場の「えんぢに屋」です。
 
 眼差しを高く上げ、変化を先取りし、自らの智恵と行動で、「ものづくり」
 を通して世界を明るく、元気にしようではありませんか!
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 ◆ 熱い行動 ◆
 「エネルギー」「中国」「技術革新」それぞれ自分の業務に求められる対応
 を思いつく限り挙げてみよう。
 
 今年の目標を机の前と手帳に大書して、行動計画を立てよう。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 |   | (炎3つが満点)
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 ◎ 目 次 ◎
 ・賢者と読み解く2005年の日本と世界「復活から持続へ」
 ・主要30業種 激戦の焦点
 ・厳選22問 3分で未来が読めるQ&A
 ・日経ビジネス独自のランキングデータ集
 ・日本の今と明日を知る必須キーワード20題
 ・戦後史略年表&主要経済データ
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 ● ひとこと ●
 短い正月休暇を終え、仕事始めを迎えた方も多いことと思います。
 
 せっかくの年初め、まっさらな気持ちで今年の目標を家族や同僚に宣言して
 はいかがでしょうか。
 
 私も、毎週「燃える100冊」をお届けすること、そしてブログをメルマガ以
 外に必ず更新する事を、まずは宣言いたします!
 
 今年も、どうぞよろしくお願い致しますm(__)m

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