October 18, 2006

もっと長い橋、もっと丈夫なビル

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 【今週の一冊】
 ●『もっと長い橋、もっと丈夫なビル』
  未知の領域に挑んだ技術者たちの物語

  著:ヘンリー ペトロスキー(朝日新聞社)
  2006.8 / ¥1,470

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『大建造物や大計画の物語は、人々の物語でもあり、
 
   多くは、他の人々が不可能に決まっていると言っていたことを、
   
     反対をものともせず、あくまで実現しようとした人々の物語だ。』

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 「9.11」から、5年が過ぎました。
 
 生々しすぎる当時の映像は、今、テレビで流れることはほとんどありません
 が、我々の脳裏にははっきりと刻み込まれています。
 
 あの攻撃は、世界貿易センターをなぎ倒しただけではなく、巨大建造物の計
 画・設計・建設の「常識」も打ち砕く、破壊力を持っていました。
 
 高層ビルの技術者・建築家、そして使用者の誰もを納得させる答えは、簡単
 にはだせそうにありません。
 
 しかし、より安全な、より丈夫な建造物を目指す建築家の挑戦は、絶えず続
 いていくことでしょう。
 
 本書は、より長い橋、より高い高層建築に挑んだ技術者達の歴史と、今を綴
 っています。
 
 
 「摩天楼(スカイ・スクレーパー)」をは、文字通り「天を擦る建物」とい
 う意味ですが、その高さは70階から80階あたりに制限されていました。
 
 それ以上の高さになると、従来の高層ビルでは、エレベーター用の空間が建
 物全体の25パーセント以上の体積を占めてしまい、賃貸用の空間が減るた
 め、資金の投入に合わなくなってしまうからでした。
 
 実際に、世界貿易センターの二つのタワーは110階ありましたが、床面積
 の30パーセント近くが賃貸スペースからなくなってしまい、民間ではなく
 「公社」によって建設されたのでした。
 
 
 その狭い空間をできるだけ広く、かつ柱の少ないオフィス空間として使用す
 る、そして資材をできるだけ少なく、軽くするためのアイデアが「筒状構造
 原理」です。
 
 これは当時、鋼鉄ビルで世界NO.1だったシカゴのシアーズ・タワーの構造設
 計者、ファズラー・カーンが「最も経済的なビルの構造」として提唱したも
 ので、世界一の記録を塗り替えるビルの基本構造となっています。
 
 間隔の狭い鋼製の骨格が、中心部分と外周のチューブを構成する構造ですが、
 ここに突っ込んだジェット旅客機の燃料が燃え、骨格が軟化したことで「潰
 れた」のが、ビル崩壊の原因と考えられています。
 
 こうして、あれ以来、少なくともアメリカで計画中だった超高層ビルの計画
 は、中断され、再検討されることが多くなってしまったのです。
 
 
 筆者は、摩天楼が再び西洋で立ち上がるのは、最低一世代ほどかかる、と見
 ていますが、その間、元気のいい極東地域では「世界一」は塗り替えられて
 いくことでしょう。
 
 構造と美観、経済性に加えて、「極度の」安全性を求められるようになった、
 21世紀の建築設計。
 
 エンジニアの悩みは、尽きそうもありません。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
  世界最長の吊橋といえば「明石海峡大橋」。
 
 吊り下げられる橋桁の全長は3,911メートルもあり、建設中に起きた阪神大震
 災にも耐え、設計の万全さを証明することになった。
 
 
 しかし、世界にはもっと驚くべき計画が存在する。
 
 「ジブラルタル海峡」を渡す超大型橋梁だ。
 
 地中海の入口を渡って、アフリカとヨーロッパを繋ぐ「大陸間連結橋」。
 
 現在、設置ルートを検討中だが、深さ350メートル以下の水深の海上を、30
 キロほど渡す案が採られている。
 
 実際に事業が姿を見せてくると、技術的にも、資金的にも、そして政治的に
 も不確定要素が拡大している。
 
 果たして、実現できるだろうか。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 同じ橋、同じ建物はない。
 環境・技術・資本・ニーズに応じた選択をするのも、技術者の仕事だ。
 
 沈んで屈するな、浮かんで奢るな。
 逆境だからと言って腐らず、困難を技術と熱意で乗り切れ。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 火 |   | (炎3つが満点)
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 橋―BRIDGES
  (鋼鉄の芸術―芸術家を魅了した橋、芸術家が造った橋
   アメリカの橋さまざま―人々が描いた夢
   ベンジャミン・フランクリン橋―大きな橋を架ける前に
   浮体橋―長い橋を手早く架ける ほか)
 その他もろもろ―AND OTHER THINGS
  (ドルトン・アリーナ―引張りあって立つ建造物
   ビルバオ―地域再生の象徴
   サンチャゴ・カラトラバ―公共空間の造形家
   ファズラー・カーン―アメリカでの挑戦 ほか)
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・出版社 朝日新聞社
 ・アマゾン 『もっと長い橋、もっと丈夫なビル』
 
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August 10, 2006

危険学のすすめ

Kikenngakunosusume
 【今週の一冊】
 ●『危険学のすすめ』
  ドアプロジェクトに学ぶ

  著:畑村 洋太郎 (講談社)
  2006.07 / \1,470

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『死亡事故のようにあってはならない失敗を防ぐには
 
     従来の「失敗学」では不十分で、そこから一段進化させた
 
          「危険学」に必然的に行かざるを得なかったのである』

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 例年、夏休みには水の災害が報じられますが、7月31日に埼玉県で起きた、市
 営プールでの事故は、例年の事故とは大きく異なるものでした。
 
 流水プールの給水口に小学2年生の女の子が「吸い込まれ」、水死ではなく
 頭部を流路の壁に強打したために亡くなったのです。
 
 楽しいはずの夏休みが、「考えられないような不注意」により、悲劇に転じ
 てしまいました。
 
 
 今回の書籍は、今だ記憶に新しい、六本木ヒルズの回転ドアで起きた6歳の
 少年の事故死をきっかけに、「失敗学」の提唱者である畑村教授が立ち上げ
 た「ドアプロジェクト」の記録です。
 
 この事故も、観光名所にまでなっている「日常」の中に、恐ろしい危険性が
 潜んでいたことを白日の下にした事件でした。
 
 こうした「つまらない失敗」が元で人が亡くなるような事故は、経験すべき
 ではない失敗であり、「失敗から学ぶ」という従来の失敗学の考えでは不十
 分でした。
 
 そこで、何かの行動を起こした結果としての失敗ではなく、結果に至る前の
 「現に存在している危険」に焦点を当てた「危険学」が生まれたのです。
 
 
 なぜ、安全が実現できないのか。
 
 それは、安全を実現するための「方法論」に問題がある、と畑村教授は指摘
 します。
 
 従来の責任追及型の調査では、「正しいやり方をしていないから事故が起こ
 った」と結論付けることが多くあるように、今までの安全の考え方は「過去
 にうまくいった手順を繰り返そう」とします。
 
 これがマニュアルやノウハウですが、逆に「安全なやり方」しか知らないこ
 とになり、不測の事態に対応できず、トラブルが起きるのです。
 
 
 例えば、子供が指を切らないように、鉛筆を削るナイフを取り上げてしまえ
 ば、確かに事故は起きませんが、危険を教えない教育を続けている限り、危
 機回避の能力を養うことはできません。
 
 これは子供だけではなく、大人にも言えることであり、予測される危険のあ
 りかを明らかにし、それに柔軟に対応することによって、事故や失敗を防ご
 うとするのが「危険学」なのです。
 
 これは、ものを「つくる」側にも「使う」側にも当てはまることであり、も
 のづくりに携わるエンジニアも身につけねばならない考え方です。
 
 
 流水プールの事故は、冒頭には「考えられない不注意」と書きましたが、「
 危険学」的に考えれば、十分に予想でき、未然に防げた事故だったと言わざ
 るを得ません。
 
 最近のエレベータ事故や給湯器の一酸化炭素中毒、トヨタのリレーロッド破
 損問題など、ひとくくりで語るのは乱暴ですが、いずれも予兆の段階で「危
 険」が予測できたことは共通しています。
 
 同じ過ちを繰り返さぬため、「ドアプロジェクト」と「危険学」に、我々エ
 ンジニアは、特に深く学ばねばなりません。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 回転ドアの事故をきっかけに発足した「ドアプロジェクト」。
 
 その対象は回転ドアにとどまらず、「すべてのドア」であった。
 
 調査の中で、エレベータやスライドの自動ドアの挟み力が、非常に「小さな
 力」であることが分かった。
 
 それは、このようなドアの設計には「10J(ジュール)則」という暗黙知があ
 ることも関係している。
 
 ドアの移動質量のエネルギーが10Jを超えると、人間を負傷させる可能性があ
 るため、それ以下に抑えるのが暗黙の知識となっているのだ。
 
 
 ところが、回転ドアにはその思想が全く伝わっていなかった。
 
 事故の起きた大型自動回転ドアは、エレベータのドアなどとは比べ物になら
 ない挟み力を持つ、「殺人機械」とでも言うべき代物だったのだ。
 
 回転ドアは、人工物として未発達な、「街中にノコノコ進出していいような
 ものではない」というのが、実験結果を目の当たりにした畑村教授の感想だ。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 あり得ることは起こる。
 考えにくいが考えられる不具合こそ、起きたときの被害は甚大だ。
 
 自分で失敗しなくとも、教訓は得られる。
 過去のトラブル、隣の業界の情報に、広く学ぼう。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 炎 | (炎3つが満点)
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 第1章 「失敗学」から「危険学」へ
 第2章 「プロジェクト」発足
 第3章 ドアプロジェクトの手法
 第4章 実験でわかった真相1
 第5章 技術の系譜
 第6章 実験でわかった真相2
 第7章 「勝手連事故調」の勝利
 第8章 その後のドアプロジェクト
 第9章 「危険学」をどう生かすか
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・失敗学会
 ・出版社 講談社
 ・アマゾン 『危険学のすすめ』
 
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July 07, 2006

安全と安心の科学

Anzentoanshinnokagaku
 【今週の一冊】
 ●『安全と安心の科学』

  著:村上 陽一郎(集英社)
  2005.01 / ¥714

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『言い古された決まり文句を使えば「初心忘るべからず」です。
 
   いかなる領域といえども、ものごとがルーティン化し、
      
     安全に推移するのが当然と思われ始めた瞬間に、安全は崩壊する、
     
             ということはどうやら確かなことのようです。』

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 扉が開いたまま上昇したエレベーターに、高校生が挟まれて死亡するという、
 痛ましい事故が起きてしまいました。
 
 ようやくエレベータメーカーが謝罪をしましたが、事故原因については「製
 造側の問題ではなく、保守が悪い」との姿勢は崩しません。
 
 管理会社も「点検マニュアルがなく、最近請け負ったばかり」と、メーカー
 の責任を強調します。
 
 まるで被害者や住民の感情を逆撫でするような対応が、繰り返し報道されて
 います。
 
 
 しかし、全国、全世界のエレベータは、こうしている間にも、毎日、何千万、
 何億もの人命を乗せて動き続けているのですから、急がねばならないのは「
 責任の追及」よりも、「原因の究明」です。
 
 本書で筆者は繰り返し、「事故情報は宝」と言います。
 
 何が、いつ、どこで、どのようにして起こったのか、これを何分の一秒単位
 で、詳細に突き止める。
 
 例えば、そこに人間の誤判断や誤操作(ヒューマン・エラー)があったとし
 ても、それを非難したり、責任を問う前に、確実に起こったことの詳細を把
 握する。
 
 それが、今後同じような事態になったときに、悪い結果を起こさせないよう
 な対策を講じるために、決定的に重要な材料なのです。
 
 
 また、エレベータの設置当初、施工会社が管理を行っていた時の費用は、年
 間360万円でした。
 
 その後、05年に保守業務を委託した管理会社の費用は、およそ半分の170万円
 であり、更に06年度に再度委託先を変更し、年間120万円の管理費用で契約し
 ています。
 
 筆者は、「安全が達成された瞬間から、安全の崩壊は始まる」と指摘します。
 
 安全が当たり前のことであればあるほど、なお安全へのインセンティブを、
 自らの中にかき立てなければならないのです。
 
 これは言うは易く、行うのは難いことだからこそ、「安全第一」を標語にと
 どめず、外部の規制や内部監査(ホイッスル・ブローイングを含めて)を有
 効に機能させねばならないでしょう。
 
 
 事故は「思いがけぬとき、思いがけないこと」が起きます。
 
 なれば、事故情報は、人間の想像力を補ってくれる、まさに「宝」です。
 
 この宝物から、「フール・プルーフ(ミスをカバーする)」や「フェイル・
 セーフ(ミスがあっても安全)」の仕組みを前進させねばなりません。
 
 医療事故や原子力の問題などを通して、安全と安心を説く本書から、我々技
 術者が学ぶことは多いでしょう。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 よく事故の説明に「スイスチーズ・モデル」が使われる。
 
 穴の開いたチーズのスライスを何枚も重ねれば、普通は穴が通ってしまうこ
 とはない。
 
 しかし、何かの拍子でそれぞれのスライスの穴の部分が重なってしまうと、
 穴が貫通する。
 
 つまりスライスは、事故防止のための一つ一つの手立てで、一つがすり抜け
 られても、次の一つ、あるいは次の次で食い止められるはずなのに、何かの
 拍子で穴が重なって全部が通ってしまうと、事故が起こる、という喩えだ。
 
 ミス(穴)が少なくすることも大切だが、より重要なシステムでは、防護対
 策を重ねることが有効なことを表している。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 「責任追求」と「原因究明」を切り分けろ。
 事故の隠蔽は、「宝」を失う社会的な損失だ。
 
 安易なVA、設計変更は事故・不良の元。
 「なぜそうしたか」設計の意図を伝承しよう。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
-----------------------------------
 序論 「安全学」の試み
 第1章 交通と安全―事故の「責任追及」と「原因究明」
 第2章 医療と安全―インシデント情報の開示と事故情報
 第3章 原子力と安全―過ちに学ぶ「安全文化」の確立
 第4章 安全の設計―リスクの認知とリスク・マネジメント
 第5章 安全の戦略―ヒューマン・エラーに対する安全戦略
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・著者 村上陽一郎
 ・出版社 集英社
 ・アマゾン 『安全と安心の科学』

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April 17, 2006

工場はなぜ燃えたか?

 【今週の一冊】
 ●『工場はなぜ燃えたか?』
  危機を救うメンテナンスビジネス

  著:丸田 敬(エネルギーフォーラム)
  2005.12 / 1,995
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 ◆ 燃える一言 ◆


  『メンテナンスは、プロダクション(生産)と同じように重要だ。』

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 「2007年問題」という言葉を耳にする機会が増えています。
 
 いわゆる「団塊の世代」が最も多い1947年生まれの方々が、定年を迎えるこ
 とから、日本の現場を支えてきたベテランの流出が問題となっています。
 
 この「技術伝承」はIT業界を始め、多くの現場に当てはまる問題ですが、
 装置産業においては、更に設備の「老朽化」が重なります。
 
 
 「先進国で最も老朽化したプラントが稼動する」と言われるように、石油精
 製・石油化学などの装置産業は、1960年代後半から70年代前半に建設ラッシ
 ュがあり、これら稼動30年超の設備が、無言の悲鳴を上げながら働いている
 のが、わが国の現状です。
 
 そして日本の製造業では、伝統的に「製造」に重きを置き、順調に働いてい
 るプラントにコストをかけずに「効率化」と称して、メンテナンス費用を抑
 える傾向があります。
 
 つまり、装置産業の現場は今、技能伝承・老朽化・効率化という問題に直面
 しているのです。
 
 
 炎上するプラント、空を焦がす黒煙―。
 
 近年頻発したプラント事故は、これらの問題が表面化した事故と考えられま
 すが、本書には印象的なデータが掲載されています。
 
 平成14年以降の産業事故100件のうち、誤動作・誤判断、マニュアル不備など
 の人的要因が、100件中76件を占め、部品の劣化などの設備的要因はわずか18
 件だったのです。
 
 つまり、「産業事故の4分の3がヒューマンエラーが原因」であり、「老朽
 化」の問題よりもずっと深刻である、ということです。
 
 さらに「人員削減などの人員配置に関する問題」=「効率化」が事故原因と
 したケースは皆無であったという調査結果が出ており、人的要因こそが最大
 の問題であることが明確になっています。
 
 
 この問題の解決には、まず「安全確保は経営責任」であることを、トップが
 認識せねばなりません。
 
 これまでは現場のKKD(勘と経験と度胸)で安全が保たれてきましたが、
 上記の3つの問題がある今日、「現場責任」ではなく、トップダウンにより
 「管理者責任」でメンテナンスを実施すべきと筆者は説きます。
 
 現場からの抵抗は当然ありますが、もはや確実に数年のうちに「タイムリミ
 ット」を迎えるのですから、躊躇している暇はないのです。
 
 
 こうした「プラントの危機」は、見方によってはメンテナンス構造改革のチ
 ャンスでもあります。
 
 更には「メンテナンスビジネス」の好機とみて、新たな市場を切り開く、た
 くましい企業群も紹介されています。
 
 「ものづくり」と「メンテナンス」は主従の関係ではなく、PDCAのサイ
 クルにおいて必要不可欠なプロセスであることを、強く認識させられた一冊
 です。
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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 有名な「ハインリッヒの法則」では、1件の重大事故の背景に、29件の軽傷
 事故と300件の「ヒヤリ、ハッと」があるとされる。
 
 「災害ゼロ」から「危険ゼロ」へと発想を転換するためには、「ヒヤリ、ハ
 ッと」した時の対策も重要である。
 
 
 IDECの開発した「3ポジションイネーブルスイッチ」は、ハンディタイ
 プのスイッチだが、軽く握った時だけ、スイッチがオンになる。
 
 スイッチを手放したときはもちろん、強く握ったときにもスイッチがオフに
 なる。
 
 これは人間が、「ヒヤリ、ハッと」した時の反応が、強く握るか手放すかの
 どちらかであることから、軽く握った時だけスイッチがオンになるように設
 計されている。
 
 「ヒヤリ、ハッと」した時に、どのような反応をしてもラインは停止するた
 め、事故は回避されるのだ。
 
───────────────────────────────────
 ◆ 熱い行動 ◆
 人はミスを犯し、設備は壊れるものだ。
 そのミスを、誰がどのような方法で防止するかを考えよ。
 
 「メンテナンス」=「修理・修繕」では不十分だ。
 壊れる前に予防する、一歩進んだ「メンテナンス」に取り組もう。
-----------------------------------
 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
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 第1章 今、求められるメンテナンス構造改革
 第2章 工場はなぜ燃えたか?
 第3章 メンテナンスビジネス最前線
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・IDEC(株)3ポジションイネーブルスイッチ
 ・出版社 エネルギーフォーラム
 ・アマゾン 『工場はなぜ燃えたか?』

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December 26, 2005

重大事故の舞台裏

jyudaijiko_butaiura
 【今週の一冊】
 ●『重大事故の舞台裏』
  技術で解明する真の原因

  編:日経ものづくり(日経BP社)
   2005.10 / ¥2,520

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『一人ひとりが安全を意識し、地道な活動を続ける。
 
            安全な社会を築くにはこれしかないと思います。』

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 連日報道される、耐震構造の偽造問題は、建築業界のみならず、技術者の安
 全に対する姿勢が問われています。
 
 もし、偽装が明るみに出ず、災害が起こってしまったならばどうなるか―
 
 本書に掲載された数々の事例は、技術者がかつて経験してきた、苦い教訓の
 数々です。
 
 
 昨年話題となった、三菱ふそう(事故当時は三菱自動車)の脱輪事故は、そ
 もそも何が「技術的に」問題だったのでしょうか。
 
 脱輪が発生したのは「ハブ」と呼ばれる車軸とホイールを接続する鋳造部品
 で、円筒部にフランジを組み合わせた構造になっています。
 
 1992年に起こった事故は、B型と呼ばれるハブのフランジ部が破断して発生
 しましたが、そもそも通常想定される走行条件で、すでにこのハブには疲労
 限を超える応力が発生していたのでした。
 
 
 ところが三菱自動車はこれらのハブのリコールを行わないために、都合の良
 いデータを強引に持ち込んで、整備不良がきっかけであるかのようなストー
 リーを作り上げます。
 
 そして対策としてD型ハブを開発するものの、コスト増加を招く他の部品の
 変更を恐れ、フランジ形状のみで対策を行います。
 
 しかし、納期に追われ十分な検証ができないまま採用されたため、かえって
 D型ハブで事故が続発します。
 
 このD型では、定積の大型トレーラーが交差点を左折する、というありふれ
 た状況でも、ハブには降伏点を越える応力がかかる、脆弱な設計だったので
 す。
 
 
 この技術的問題を認知しながら、リコールを恐れた三菱自動車内では、ユー
 ザーに責任を押し付けるために、破損原因を関係のない「摩耗」に求め、設
 計者には嘘を強要します。
 
 コスト削減のため、ギリギリで効率と安全を追及し、安全性を犠牲にしたた
 めに設計変更が必要となっても、本当の理由は伏せられたのです。
 
 そしてついにリコールとなりますが、その対策品とされたF型でも、新たな
 基準に照らし合わせると強度不足となることが分かり、ハブ以外の部品の設
 計変更も伴う、追加のリコールを余儀なくされます。
 
 
 隠蔽の片棒を担いだエンジニアの責任は重大ですが、ハブ単独の設計変更と
 したF型採用に対しては「コストや納期を考えれば当時の対応は止むを得な
 い」と考える技術者が多数あることも、本書には記されています。
 
 現在、議論の的となっている建築業界において、コストと安全性の兼ね合い
 がどのように考えられていたのか、今後の調査を待たねばなりませんが、責
 任の押し付け合いやバッシングからは、技術的、そして倫理的な課題が明確
 になりません。
 
 本書の重大災害事例や、報道の設計問題の背景を、冷静に、そして自らの立
 場に置き換えて、他山の石とすることが、我々技術者の務めなのです。
 ----------------------------------
 ◇ カンドコロ! ◇
 
 従来の三菱自動車では、疲労限を決めるのに、S-N(応力-繰り返し数)線図
 だけを用いた、「マイナー則」を用いていた。
 
 しかしマイナー則では、疲労限未満の応力がどれほどかかっても、亀裂は発
 生しないと仮定している。
 
 しかしこのマイナー則では、実態に合わなかった。
 
 そこで、同社では、修正マイナー側を用いることとした。
 
 これは、S-N線図と、実車試験の応力分布を併用し、疲労限未満の応力の影響
 も考慮することとした。
 
 ただし、修正マイナー則は鋼材の強度検証には有効だが、組織の均一性に欠
 ける鋳鉄に効果があるかは、未知数であるとの指摘があることにも、気をつ
 けねばならない。

───────────────────────────────────
 ◆ 熱い行動 ◆
 個人の良心と組織の論理が対立したとき、あなたは何を拠り所とするか。
 技術者の規範を明瞭にせねばならない。
 
 重大か、軽微かにかかわらず、トラブルを隠さず、教訓とせよ。

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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 炎 | (炎3つが満点)
-----------------------------------
 序章 リコール隠しの舞台裏
 第1章 自動車
 第2章 鉄道
 第3章 宇宙
 第4章 建築
 第5章 原子力
 第6章 プラント
 終章 重大事故を乗り越えて

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September 07, 2005

ビルはなぜ建っているか なぜ壊れるか

biruhanazetatteiru
 【今週の一冊】
 ●『ビルはなぜ建っているか なぜ壊れるか』
 現代人のための建築構造入門

  著:望月 重(文藝春秋)
   2003.8 / ¥735

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 ◆ 燃える一言 ◆
 『建物を見るとき、美しい形態かどうか、と同時に、
       安全な構造かどうかを、見分けることが大切です。
            これこそ建物の本当に知的な見方だと思います。』
-----------------------------------
 9月1日は、関東大震災が発生した「防災の日」。
 9月11日は、4年前、ニューヨークでワールドトレードセンターへの航空
 機テロが発生した日。
 そして今、大型台風14号が上陸し、全国で家屋の倒壊や浸水被害が続発し
 ています。
 
 こうしてみると、自然、あるいは人為的な災害に対する「安全な建物」につ
 いて、深く考えさせられます。
 
 建物の安全性を決める、最も重要な要素が、建物の骨格=「構造」です。
 
 日常生活では、概観のユニークさや使い勝手に目が奪われますが、自然の猛
 威を実感しているこんなときこそ、「構造」について学んでみましょう。
 
 
 建物は、「重さとの戦い」といえます。
 
 まず建物の自重(固定荷重)であり、建物に載っている人間や家具の重さ(
 積載荷重)があり、雪の降る地域では屋根の雪の重さ(積雪荷重)がありま
 す。
 
 また、先に述べた風荷重、地震荷重もありますし、地下では土の圧力(土圧)
 や地下水による水圧もかかります。
 
 しかも、荷重の方向(鉛直か水平か)、荷重の時間(固定荷重のように長期
 か、地震のように短期か)、変化の有無(動荷重と静荷重)などが複雑に絡
 み合っています。
 
 建築関係法令で規定されているのは設計の最小値に過ぎず、それぞれの建物
 に応じてこれら荷重を見積もるところから、構造設計は始まります。
 
 
 昔はよく「山の手では土蔵がつぶれる」といわれましたが、これは地盤と、
 堅い土蔵の固有周期が近いために「共振」したことが原因であり、地震被害
 を大きくします。
 
 超高層建築は大丈夫なのか?と心配になりますが、たとえば30階程度で高
 さ100mの鉄骨造の建物ならば、固有周期は3秒程度で、山の手の地盤の
 固有周期0.4秒とは大きく離れており、まず大丈夫。 
 
 
 そして、構造設計を実現するために不可欠なのが材料技術であり、構造と材
 料は一体となって日進月歩しています。
 
 中でも高層建築の実現は、鋼材の材質向上に負うところが大きいことは間違
 いありません。
 
 しかし、阪神大震災では厚さ10cmものH形やロ字型の鋼の柱が破断してしま
 ったり、日本製の鋼材が使われたワールドトレードセンターの柱が火災によ
 り軟化し、ビルが崩壊するという惨事も起きました。
 
 「安全」の基準をどこにとるかは甚だ難しい問題であり、事故が起きてから
 後追いで規定ができているのが、建築の歴史でもあるのです。
 
 
 「建築家」と呼ばれる人に対して「構造技術者」は「縁の下の力持ち」的な
 ところがあり、事故が起きたとき以外は注目されません。
 
 しかし、筆者は「真の設計者は構造設計者」と胸を張るように、人命と財産
 を支える「骨格」の設計と、建築家が連携してこそ、美と実を備えた建築が
 可能となります。
 
 材料力学の基礎から、特徴的な構造の実例紹介まで、幅広く学べる「骨太」
 な一冊です。
 ----------------------------------
 ◇ カンドコロ! ◇
 
 地震計が普及する20世紀半ばまで、地震の震度を知る指標として用いられて
 いたものがある。
 
 それが何と「お墓」なのだ。
 
 墓石の高さをH、転倒したほうの辺の長さをB、墓石の重さをWとし、地震
 の力をPとする。
 
 地震が強いほど重い墓石が倒れるので、P=kWとなり、kは震度を表す。
 (気象庁の震度とは異なる)
 
 地震で墓石が倒れるとき、地震の力のモーメントが墓石の重さによるモーメ
 ントより大きいと考えると、PH>WB。
 
 P=kWを代入すればkWH>WB ∴k>B/H
 
 つまり、地震後の墓石のうち、転倒している墓石の転倒したほうの辺の長さ
 を、墓の高さで割った値の最大値が、地震の震度を表している。
 
 墓地なら日本全国にあるから、これでおおよその震度が簡単に求められる。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 「材料力学」「工業材料」を、できるだけ具体的な事例で学ぼう。
 
 家を建てる前に、構造の基礎を学んでから、「構造設計者」と話をしよう。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
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 第1章 建物を「骨」まで知ろう
 第2章 建物、それは重さとの戦い
 第3章 構造材料さまざま、よしあし
 第4章 なんでだろう?部材の力学
 第5章 基礎―土の中は分からない?
 第6章 見てみよう、正しく美しい建物
 第7章 めざすは地震災害の克服

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May 05, 2005

科学技術はなぜ失敗するのか

kagakugijyutu_sippai
 【今週の一冊】
 ●『科学技術はなぜ失敗するのか』

  著:中野不二男(中央公論新社)
   2004.11 / ¥800

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 ◆ 燃える一言 ◆
 『日々起きている事件や事故には、
            かならず一歩踏み込んだ背景があると私は思う。
  科学・技術がからんでいる場合には、
                そこにこそ本質があるといってもよい。』
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 連日、尼崎脱線事故の報道が繰り返されています。
 
 過密な運行ダイヤ、オーバーランの遅れを取り戻すための速度超過、旧型の
 ATS(列車自動停止装置)の速度オーバー未対応、等々。
 
 メディアは次々と情報を流しますが、我々はこの悲惨な現実から、何を学ぶ
 べきなのでしょうか。
 
 最近のニュースを、科学や技術の側面から眺めた本書を開いてみました。
 
 
 03年には原子炉の炉心隔壁などにクラックが検出されながら、隠蔽してい
 たニュースが何度となく取り上げられました。
 
 これは、原発の建設規格が、経年劣化やばらつきを考慮せず、建設時の新品
 状態でなければならないと定めており、この「建前」を守るために記録が書
 き換えられていたのです。
 
 過去を振りかえると、第2次世界大戦の日本の主力戦闘機、零戦は、アメリ
 カの戦闘機と比して、攻撃力と旋回性能を優先し、防御能力を犠牲とした「
 攻撃は最大の防御なり」を体現したような機体でした。
 
 「攻撃は最大の防御」とはいっても、それは心構え、建前であり、戦闘状態
 では被弾という「失敗」の確率がゼロになることはありえません。
 
 
 日本人は、「失敗率0パーセント」にこだわりすぎる、と筆者は説きます。
 
 “安全神話”という言葉自体が、情緒的な期待であることを忘れてはなりま
 せん。
 
 「失敗率0パーセント」は建前、希望的観測であり、実社会に持ち込むべき
 ではなく、私たちは「成功率0パーセント」から始めるべきです。
 
 そして、失敗の研究を重ねて、成功率0パーセントから100パーセントの
 どの地点に到達したかを正確に評価してこそ、向上するのです。
 
 
 03年2月1日にスペースシャトル「コロンビア号」は、大気圏突入時の事
 故により、7名の乗員が犠牲となりました。
 
 直後に事故調査委員会が設置されましたが、空中分解した機体部品は、カル
 フォルニア州から、ネバタ、ユタ州にかけての空域から落下し、回収は思う
 ように進まず、事故原因の究明は困難を極めます。
 
 しかし地道に分析が進められ、その都度調査の進捗は公表されるに連れ、事
 故の経緯が明らかになってきました。
 
 事故後しばらくは、燃料タンクから脱落した断熱材が、機体下面の耐熱タイ
 ルに衝突したことが原因と推測されましたが、丹念な調査と顕正の結果、燃
 料タンク取り付け部の断熱材が左翼付根に衝突した際に生じた亀裂が要因と
 の見方に変わりました。
 
 こうして最終報告が出たのは事故の半年後、8月26日のことでした。
 
 
 この調査の間は、再発防止のための原因究明に重点が置かれ、「責任追及」
 が先行するようなことはありませんでした。
 
 原因が明確になっていない段階では、責任の所在も明確ではなく、責任追及
 に過剰な重点を置くことは、むしろ原因究明の障害とさえなります。
 
 
 二度と再び、致命的な過ちを繰り返さないために、まずは感情的に過ぎた報
 道に流されす、冷静に、正確に調査し、公表することが不可欠です。
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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 昨年起きた、美浜原発の蒸気漏れ事故は、冷却配管のオリフィス(絞り)の
 下流に生じたキャビテーションが、管の壁を削ったために生じた。
 
 高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏洩事故は、配管に“直角”に刺し込
 まれた温度計に、カルマン渦が発生し、振動でさや管が疲労破壊したために
 起きた。
 
 いずれも大きな問題になったが、それは「原子力」特有の現象ではない。
 
 技術屋ならば、設計に際し当然想定せねばならない条件だ。
 
 「原子力」だから問題にするのではなく、技術の本質に問題があることを見
 抜かねばならない。
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 ◆ 熱い行動 ◆
 感情論や責任追及の前に、事実の究明が優先だ。
 真実が明らかになれば、自ずと責任は明確になる。
 
 「成功率0パーセント」から、対策を積み上げよう。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 火 |   | (炎3つが満点)
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 ◎ 目 次 ◎
 第1部 「科学技術立国」は幻想である
 第2部 超大国アメリカの産業戦略
 第3部 国際舞台での科学技術外交
 第4部 日本の科学技術ビジョンを問う

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April 06, 2005

失敗に学ぶものづくり

sippainimanabu
 【今週の一冊】
 ●『失敗に学ぶものづくり』

  著:畑村 洋太郎(講談社)
   2003.10 / ¥1,890

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 ◆ 燃える一言 ◆
 『ネガティブな人は、失敗から逃げ出しながら自分をダメにしていきます。
       その一方で、ポジティブな人は、失敗を克服しながら
             自分自身をつくりあげていくことができます。』
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 またしても、三菱ふそうのリコール隠しが発覚しました。
 
 昨年9月に行ったリコール対象車が修理後に、再び火災などの不具合を生じ
 ていたにもかかわらず、半年間も公表していなかったのです。
 
 「問題を隠蔽する体質との決別」を誓った同社が、なぜ「失敗に学ぶ」こと
 ができないのでしょうか。
 
 本書は、「失敗学」の提唱者、畑村先生が材料や建築、土木などの専門家が
 語る過去の失敗と、その失敗からの学び方を編纂したものです。
 
 
 数多くの事例を読み進むと知らされるのは、ものづくりの歴史は「失敗の積
 み重ねとその克服」であるという痛ましい事実です。
 
 鉄道の安全技術として、ATS(自動列車停止装置)と呼ばれる、列車が赤
 信号で停止しなかったときのバックアップシステムが整備されていますが、
 これは国鉄時代からの数多くの列車事故の教訓で発展してきました。
 
 始めは車内警報装置から始まりましたが、その警報を運転士が無視したため
 に160名の死者を出す大惨事が起き(1962年)、自動停止装置付きのATSが
 開発されました。
 
 
 当初のシステムでは、警報が鳴って確認スイッチを押さなければ停止する、
 というもので、格段に安全性は向上しましたが、それでもATSの電源を切
 ったり、確認スイッチを押しても止まらなかったりと、列車の衝突事故はな
 くなりませんでした。
 
 その後もATSは改善を重ねますが、その度毎に盲点を突く事故が発生して
 います。
 
 一方で、安全対策を過信するあまり、運転中に携帯電話を架ける運転士が出
 てきてしまい、ヒューマンエラーの温床になる危険性も指摘されています。
 
 失敗を活かすためには、「この安全装置が設けられた理由は何か」「どんな
 システムなのか」を、知識と経験で受け継ぎ、逆に「どんな失敗がありえる
 か」を予想し対処する方向へ推し進めなければなりません。
 
 
 またエンジニアが失敗に向き合うときには、「自然現象化」を厳に慎むべき
 です。
 
 つまり「なぜ失敗したか?」という原因を話すときに、「私にはできなかっ
 た」と失敗を認めるべきところを、「私」を抜いて、「それは無理だった」
 と、まるで自然現象で起きたかのような説明をしてしまいがちです。
 
 人間が介在したものづくりにおいて、全ては人間に起因するものであり、そ
 れを最初から無理だったかのように片付けてしまうと、問題解決の策を建設
 的に導くことができません。
 
 
 我々は、今後も失敗を繰り返すことでしょう。
 
 そこで大切なのは、「絶対に失敗を起こさないこと」ではなく、「致命的な
 失敗を起こさない」ことです。
 
 失敗を隠しごまかすのではなく、過去や他分野の事例にも真摯に向き合い、
 「他山の石」として広く失敗知識を共有することが、失敗を活かし、軽減す
 る有効な手段なのです。
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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 「応力腐食割れ」は、引張応力があって、特殊な材料と環境下でしか起きな
 い。
 
 材料を適切にすれば避けられる問題だが、歴史的にも、現在も起きている。
 
 原因は複雑だが、その一つは、加速試験の過信だ。
 
 原子炉など、40年の使用条件を確認するために、使用条件よりも高温な状態
 で疲労試験を行い、評価期間を短くする。
 
 温度が10度上がれば反応速度は倍になることを利用して、例えば50度上げれ
 ば32分の1の試験時間で評価できることになる。
 
 しかし、加速試験はあくまで予測だ。
 
 実際に使用している条件とは異なるのであり、「絶対に壊れない」と考える
 ところに、失敗の原因が潜んでいる。
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 ◆ 熱い行動 ◆
 小さな失敗ほど、「私が失敗した」ことを早く宣言しよう。
 その体験を周囲と共有し、他に起こしそうな失敗もまとめて対処しよう。
 
 自社の誰も見ていない「過去トラブル事例集」を引っ張り出して、斜め読み
 してみよう。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 |   | (炎3つが満点)
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 ◎ 目 次 ◎
 第1章 材料分野―破壊事故に学ぶ
 第2章 土木分野―事故にはいろいろ背景がある
 第3章 建築分野―起こりうる事態をどこまで想定するか
 第4章 大量輸送分野―鉄道の安全は衝突事故の繰り返しによって高まった
 第5章 システム分野―ゼロから新システムを構築する
 第6章 エンジニアの失敗と成長
 第7章 大工の失敗と成長

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March 16, 2005

製造現場から見たリコールの内側

seizougenbarecall
 【今週の一冊】
 ●『製造現場から見たリコールの内側』
  日本のクルマは安全か?

  著:五代 領(日本実業出版社)
   2005.1 / ¥1,365

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 ◆ 燃える一言 ◆
 『自信と誇り、自分が作った車を前にすれば、
   「これに乗る人には事故がなく走って欲しい」、そして
     「より多くの人に楽しんで乗ってもらいたい」と願うのは当然だ。
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 トレーラの前輪が脱落し、死傷者が出た事故に端を発して、三菱ふそうのリ
 コール隠しが、昨年明るみに出ました。
 
 分社前の2000年に、内部告発によって発覚した、組織的なリコール隠しと共
 に、三菱自動車の信頼は地に落ちました。
 
 他の国内自動車メーカが売上を伸ばしている中で、その影響の大きさはあま
 りにも際立っています。
 
 
 自動車業界にとって、まさに死活問題といえる「リコール制度」とは、「欠
 陥車による事故を未然に防止し、自動車ユーザー等を保護する事」を目的と
 したもので、不具合の原因が設計や製作過程にある場合には、メーカが無料
 で回収修理する事を定めた制度です。
 
 一方で、「改善対策」や「自主回収」といわれるものは、「基準不適合状態
 ではない」が、安全上などで問題がある場合に、メーカが自主的に不具合の
 届出をして修理するものです。
 
 この、リコールか自主回収かは、あくまで製造したメーカに判断をゆだねら
 れており、自動車個々の使用条件が異なった上でのクレームに対応するため
 に、多分にグレーゾーン的な要素が入っているのが実情なのです。
 
 そのためか、三菱自動車のリコール隠しが発覚した後、昨年のリコール件数
 は過去最高を記録しました。
 
 
 では、リコールが多発する原因はどこにあるのでしょうか?
 
 品質の不具合は、設計そのものに起因する「設計品質」と、図面通りの製造
 できているかという「製造品質」とがあり、リコールに至る不具合は、設計
 における不具合が明らかに多い傾向があります。
 
 この背景として、頻繁なモデルチェンジによる開発期間の短縮化が、設計・
 試作段階での評価の甘さを生んでいることを指摘しています。
 
 
 時間の欠乏と多くの要求、コンピュータ上の仮想部品による評価。
 
 多忙のあまり現物からの距離が遠くなっている設計者。
 
 しかし、与えられた環境で最善を尽くすしかない。
 
 過労とストレスで疲弊した、設計現場の生々しい様子は、余りに痛々しく、
 テレビで華やかに流れる新車のCMや、好調を喧伝するメーカーの業績とは
 懸け離れた、一方の現実なのです。
 
 
 しかし、仕事が厳しければ厳しいほど、自分が設計した車は世界中の誰にも
 負けないという思いがあります。
 
 自らが作った車への自信と誇りから湧き上がる、この車を購入する見も知ら
 ぬユーザーへの善意こそが、自動車の安全と品質を支えているのです。
 
 
 自動車業界の中に身を置く私としては、あまりにも身近で、日頃痛感してい
 る部分も多々あり、身につまされます。
 
 単にギョーカイの裏側を覗き見するのではなく、企画から製造に至る開発の
 流れや、最新の安全対策技術なども盛り込まれており、タイトルから想像し
 た後ろ向きな感じはしません。
 
 むしろ、現状の問題点を直視した上で、果敢に高品質と低コスト、短納期の
 実現に挑戦するための、貴重な警鐘と受け取りました。
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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 メルセデスベンツのテールストップランプは、段付きの形状になっている。
 
 光の均一性と、成形コストの低減のため、平滑に作るのが一般的だ。
 
 なぜ、余計なコストをかけてまで、ベンツではあえて段を付けるのか。
 
 それは、泥や雪が付着した場合、平滑な面は全て覆われて、光が見えなくな
 る恐れがあるが、段付きならば、窪んだ部分からは光が漏れ、後続車が視認
 できるからだ。
 
 この安全性のために、段付きを採用している国内メーカーは無い。
 
 欧州車に学ぶべき点は、まだありそうだ。
───────────────────────────────────
 ◆ 熱い行動 ◆
 「なんか気持ち悪い」「嫌らしい」と感じたならば、できるだけ騒ぎを大き
 くして早めに不良の芽を摘もう。
 
 「電子制御による安全」と「過度の機械依存」の背反をどう克服するか。
 新たな領域に踏み出した「安全」の解を、常に考えよう。
-----------------------------------
 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 |   | (炎3つが満点)
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 ◎ 目 次 ◎
 1章 リコールの正体
    -日本車の品質はどこまで信頼できるか
 2章 知られざる自動車開発の実体
    -クルマは以下に真面目に作られているか
 3章 世界一を誇る日本車の品質
    -厳しいユーザーと気候条件が育むもの
 4章 自動車の安全を脅かすのは誰か?
    -クルマの快適さがはらむ危険性

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January 26, 2005

マツダはなぜ、よみがえったのか?

mazdahanaze
 【今週の一冊】
 ●『マツダはなぜ、よみがえったのか?』
  ものづくり企業がブランドを再生するとき

  著:宮本 喜一(日経BP社)
   2004.11 / ¥1,575

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 ◆ 燃える一言 ◆
 『現場は自分たちの技術を信じ、モノづくりに妥協をしなかった。
      経営陣は自分たちの方針を信じ、経営に妥協をしなかった。
           それでも、両者は物別れに終わることはなかった。』
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 ルノー傘下に入った日産は、カルロス・ゴーンの「リバイバルプラン」によ
 り、劇的な復活を遂げました。
 
 その様子は、『エンジン屋たちのDNA』(中経出版)を通して、「燃える
 100冊」No.1
でもご紹介しました。
 
 一方、日産よりも3年早く、外資フォードに経営を握られたマツダには、具
 体的な再生プランも、大鉈を振るう経営者も、外からは見えませんでした。
 
 いえ、当時は「再生プラン」が描けないほど、マツダは病んでいたのです。

 雪だるま式に膨れ上がった赤字、闇雲に増やした販売チャンネル、魅力の薄
 い車種ラインナップ。
 
 マツダブランドが消え、フォードの単なる日本の生産拠点に成り下がる危険
 さえありました。
 
 当然、少量生産のスポーツカー「RX-7」と、他の車種に使えず燃費の悪い、
 同車に積まれたロータリーエンジンの開発には、「待った」がかかります。
 
 しかし、RX-7とロータリーに憧れてマツダに入社したエンジニアは、より高
 性能な、より完璧な、より純粋なロータリーエンジン搭載の2ドアスポーツ
 カーの開発を目標にし、一歩も引きません。
 
 「実車を作って経営者を乗せて納得させる」という直球勝負で挑みますが、
 トップの判断は、「4ドア4シーターのスポーツカーを作れ」でした。
 
 無理難題には違いありませんが、マツダ再生を賭ける「売れる」車にするた
 めに、絶対避けては通れない条件です。
 
 この難問を、技術者たちが、自分たちが克服すべき課題として、積極的に取
 り組む決意を固めた瞬間、世界に類のない、4ドアスポーツカー「RX-8」の
 開発が、そしてマツダの復活劇が始まったのです。
 
 ロータリーの弱点をサイド給排気で克服し、観音開きの4ドアの剛性不足を
 独創的な骨格で支え、重量増加をボンネットやドアのアルミ化で抑える。
 
 4人乗りとは思えない流麗な、そしてアスリートのようにスマートなフォル
 ムを身にまとい、新生マツダのブランドイメージである「スポーツ」を象徴
 する1台が誕生しました。
 
 発売後、販売店に押し寄せたのは、これまでのスポーツカー「マニア」では
 なく、「これなら買い物にも使えるから…」と、奥さんを説き伏せた子連れ
 のお父さんであり、「ファミリーカー」としての「スポーツカー」という、
 新しいライフスタイルを創造したのです。
 
 「ものづくり」に長けていたマツダが危機に瀕し、そして這い上がることが
 できたのは、「ものづくり」の技術と、それをビジネスに変える経営とが、
 がっぷり四つに組み、「ものがたり」へと昇華したからです。
 
 荒唐無稽とも思える目標を経営陣が掲げ、現場はその目標を超えようと智恵
 を絞り、目標以上のものを創り出す。そのスパイラルがマツダを復活へと導
 きました。
 
 RX-8を始め、主力車をフル生産状態だった宇品工場で、昨年12月15日に出火
 し、操業停止に追い込まれた衝撃は、好調マツダに冷や水を浴びせてしまい
 ました。
 
 更なる再生を念じてエールを送ると共に、経営と技術の成功に、現場の体制
 が追いついていたのか、徹底した検証を望みます。
───────────────────────────────────
 ◆ 熱い行動 ◆
 「うちの売りは何か」「我が社のDNAとは」と、技術者が話し合おう。
 そのイメージと、経営の目標が一致しているか、検証しよう。
 
 安易な妥協で、「ものづくり」をしていないか。
 妥協から「ものがたり」は生まれない。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 炎 | (炎3つが満点)
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 ◎ 目 次 ◎
 はじめに ~なぜ、マツダの復活をとりあげるのか?
 第1章 RX-8開発物語
  ~フォードの「無理難題」にマツダの現場が「答え」を出した
 
 マツダは、いかにして堕ち、いかにして再生したのか?
 第2章 一本目のトンネル とにかく火を消せ
 第3章 二本目のトンネル マツダブランドを再構築せよ
 第4章 三本目のトンネル フォードが導いたマツダの経営改革
 
 第5章 マツダの成長はマツダ自身の手で行う
  ~井巻久一マツダ社長インタビュー
 おわりに ~モノづくり企業のブランド戦略とは
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 ● ひとこと ●
 帰り際、すれ違ったRX-8のカッコ良さに、思わず振り返りました。
 
 さてさて、もちっとお安めの我が愛車も、車検から帰ってきました。
 しっかりリサイクル料金も納めましたが、キャンペーン中とかで、念願のETC
 をおまけでつけてもらいました。
 
 ノンストップで通過するヨロコビを感じに、ドライブしましょうか。

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