もっと長い橋、もっと丈夫なビル
【今週の一冊】
●『もっと長い橋、もっと丈夫なビル』
未知の領域に挑んだ技術者たちの物語
著:ヘンリー ペトロスキー(朝日新聞社)
2006.8 / ¥1,470
----ものづくりを応援!技術士やまさんの「えんぢに屋本舗」-----
◆ 燃える一言 ◆
『大建造物や大計画の物語は、人々の物語でもあり、
多くは、他の人々が不可能に決まっていると言っていたことを、
反対をものともせず、あくまで実現しようとした人々の物語だ。』
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「9.11」から、5年が過ぎました。
生々しすぎる当時の映像は、今、テレビで流れることはほとんどありません
が、我々の脳裏にははっきりと刻み込まれています。
あの攻撃は、世界貿易センターをなぎ倒しただけではなく、巨大建造物の計
画・設計・建設の「常識」も打ち砕く、破壊力を持っていました。
高層ビルの技術者・建築家、そして使用者の誰もを納得させる答えは、簡単
にはだせそうにありません。
しかし、より安全な、より丈夫な建造物を目指す建築家の挑戦は、絶えず続
いていくことでしょう。
本書は、より長い橋、より高い高層建築に挑んだ技術者達の歴史と、今を綴
っています。
「摩天楼(スカイ・スクレーパー)」をは、文字通り「天を擦る建物」とい
う意味ですが、その高さは70階から80階あたりに制限されていました。
それ以上の高さになると、従来の高層ビルでは、エレベーター用の空間が建
物全体の25パーセント以上の体積を占めてしまい、賃貸用の空間が減るた
め、資金の投入に合わなくなってしまうからでした。
実際に、世界貿易センターの二つのタワーは110階ありましたが、床面積
の30パーセント近くが賃貸スペースからなくなってしまい、民間ではなく
「公社」によって建設されたのでした。
その狭い空間をできるだけ広く、かつ柱の少ないオフィス空間として使用す
る、そして資材をできるだけ少なく、軽くするためのアイデアが「筒状構造
原理」です。
これは当時、鋼鉄ビルで世界NO.1だったシカゴのシアーズ・タワーの構造設
計者、ファズラー・カーンが「最も経済的なビルの構造」として提唱したも
ので、世界一の記録を塗り替えるビルの基本構造となっています。
間隔の狭い鋼製の骨格が、中心部分と外周のチューブを構成する構造ですが、
ここに突っ込んだジェット旅客機の燃料が燃え、骨格が軟化したことで「潰
れた」のが、ビル崩壊の原因と考えられています。
こうして、あれ以来、少なくともアメリカで計画中だった超高層ビルの計画
は、中断され、再検討されることが多くなってしまったのです。
筆者は、摩天楼が再び西洋で立ち上がるのは、最低一世代ほどかかる、と見
ていますが、その間、元気のいい極東地域では「世界一」は塗り替えられて
いくことでしょう。
構造と美観、経済性に加えて、「極度の」安全性を求められるようになった、
21世紀の建築設計。
エンジニアの悩みは、尽きそうもありません。
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◇ カンドコロ! ◇
世界最長の吊橋といえば「明石海峡大橋」。
吊り下げられる橋桁の全長は3,911メートルもあり、建設中に起きた阪神大震
災にも耐え、設計の万全さを証明することになった。
しかし、世界にはもっと驚くべき計画が存在する。
「ジブラルタル海峡」を渡す超大型橋梁だ。
地中海の入口を渡って、アフリカとヨーロッパを繋ぐ「大陸間連結橋」。
現在、設置ルートを検討中だが、深さ350メートル以下の水深の海上を、30
キロほど渡す案が採られている。
実際に事業が姿を見せてくると、技術的にも、資金的にも、そして政治的に
も不確定要素が拡大している。
果たして、実現できるだろうか。
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◆ 熱い行動 ◆
同じ橋、同じ建物はない。
環境・技術・資本・ニーズに応じた選択をするのも、技術者の仕事だ。
沈んで屈するな、浮かんで奢るな。
逆境だからと言って腐らず、困難を技術と熱意で乗り切れ。
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◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 火 | | (炎3つが満点)
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橋―BRIDGES
(鋼鉄の芸術―芸術家を魅了した橋、芸術家が造った橋
アメリカの橋さまざま―人々が描いた夢
ベンジャミン・フランクリン橋―大きな橋を架ける前に
浮体橋―長い橋を手早く架ける ほか)
その他もろもろ―AND OTHER THINGS
(ドルトン・アリーナ―引張りあって立つ建造物
ビルバオ―地域再生の象徴
サンチャゴ・カラトラバ―公共空間の造形家
ファズラー・カーン―アメリカでの挑戦 ほか)
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◆ 関連ページ ◆
・出版社 朝日新聞社
・アマゾン 『もっと長い橋、もっと丈夫なビル』
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