June 13, 2007

操縦マニア!

Soujyumania
 【今週の一冊】
 ●『操縦マニア!』

  編:三推社出版部(三推社)
  2006.12 / ¥1,950

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 ◆ 燃える一言 ◆


 『ふつうでは行けない場所で使われたり
                 ユニークな使われ方をする乗り物は、
 
       いろんなアイデアが詰まったオモチャ箱のような機械だった』


-----------------------------------

 某社の車輪の出てこないヒコーキを無事着陸させたパイロットの腕前には驚
 きましたが、その際、テレビで放映されていた飛行機の操縦方法に興味を持
 たれた方も多いでしょう。
 
 本書にはそんな普段とても扱うことのできないような乗り物の構造と操縦方
 法が、図解をふんだんに駆使して紹介されています。
 
 
 例えばジャンボジェットの最新鋭機、エアバスA380は、さぞや複雑な操縦方
 法になっているかと思いきや、まるで「ゲーム」のようにスティック一つで
 指示すれば、細かな制御は不要となっています。
 
 これはFBW(フライ・バイ・ワイヤ)と呼ばれる、パイロットの指示をコ
 ンピュータで処理した結果を電気的に伝えるシステムの賜物です。
 
 むしろパイロットの重要な仕事は、演算のための各種データを入力する手順
 や数字の選び方にあると言えます。
 
 
 更に「特殊」な飛行機といえば、戦闘機です。
 
 F-16などの新しい機体は、こちらもFBWが導入され、パイロットの負担は
 減っているそうですが、本書に取り上げられたF-15は高性能機でありながら、
 その操縦は「パイロットまかせ」です。
 
 前面のパネルに散りばめられた計器で一瞬に判断し、指一本一本に割り当て
 られたスイッチ類を駆使してコントロールし、しかも一般人なら気を失うほ
 どの急加減速を繰り返すのですから、正気の沙汰とは思えません。
 
 
 同じく操縦者のテクニックに大きく依存する究極の乗り物といえば、F1カー
 もその一つです。
 
 わずか5.2秒で停止状態から時速200キロまで加速するモンスターマシンです
 が、操作方法自体はシンプルで、足元にはアクセルとブレーキがあるのみで、
 クラッチ操作はほぼ自動であり、シフトチェンジも手元のスイッチでできま
 す。
 
 操作するスイッチ類も全てステアリングに配置され、中には押すと飲み物が
 出てくる「ドリンクボタン」まであります。
 
 また「パワーステアリング」も付いていますが、これはステアリングを軽く
 するためではなく、コーナリングで一度切ったステアリングが横Gの強い力
 で押し戻されるのを抑えるためのもので、やはり「特殊」な世界です。
 
 
 もう少し日常に近い、変わった乗り物では「DMV(デュアルモードビーク
 ル)なんていかがでしょう。
 
 これは道路でも線路でも走れる、バスと電車が一緒になったような乗り物で、
 線路走行に切り替えるには、導入部で車体を線路に合わせて位置決めし、前
 後にガイド用の鉄輪を出して走行します。
 
 ちょうどこの4月から北海道で試験導入されますので、ニュースなどで目に
 する機会もあることでしょう。
 
 
 そのほか、砕氷船や飛行艇、戦車やスペースシャトルといった特殊な機体か
 ら、タクシーや馬車に至るまで、ありとあらゆる「乗り物」の運転を感じる
 ことができる、「見て」楽しい一冊です。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 重量108トンの本物の電気機関車を、誰でも運転できるところがある。
 
 子供から鉄道ファンまでが楽しめる鉄道のテーマパークである、群馬県にあ
 る「碓氷峠鉄道文化むら」だ。
 
 本物のEF63形電気機関車の運転体験が可能で、運転体験を重ねると、連結体
 験や重連推進運転なども体験できるのだ。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 身近な乗り物も、その構造を理解して運転しているだろうか。
 自転車や自動車の機構を、覗いてみよう。
 
 使う人が使いやすいことが、機械の安全につながる。
 作りやすさの前に使いやすさを考えた「ものづくり」をせよ。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
-----------------------------------
 1 身近な乗り物(ジェット旅客機、新幹線 ほか)
 2 憧れのハイテクマシン(戦闘機、ヘリコプター ほか)
 3 気になる特種な乗り物(飛行艇、深海探査船 ほか)
 4 ものづくり・作業機械(トラック、油圧ショベル ほか)
 5 自然まかせのアナログ乗り物(馬車、パラグライダー ほか)
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・電気機関車 碓氷峠鉄道文化むら
 ・出版社 三推社
 ・アマゾン 『操縦マニア!』
 
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April 26, 2007

町工場で、本を読む

Machikoujyoudehonwoyomu
 【今週の一冊】
 ●『町工場で、本を読む』

  著:小関 智弘(現代書館)
  2006.11 / ¥2,100

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『時にはそれがどんな機械に使われる部品なのかさえ
                    わからぬようなものであっても、
 
  それをつくっている男なら、ただの鋼のかたまりにすぎなかった素材が、
  
  いま新しい形をもって機械の中から立ち現れてくる姿を見据えていると、
  
      もののほうがこちらに語りかけてくる瞬間を知ることがある。』

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 半世紀に渡り、「旋盤工」として現場に立ち続けながら、ものづくりの現場
 に根を張った作品を上梓する「作家」、小関智弘氏のエッセイであり、書評
 集です。
 
 戦後、工業高校(ただし普通科)を卒業し、たった3人の町工場に飛び込ん
 で、氏の「旋盤工」人生は始まりました。
 
 仕事はきつかったものの、自分の手ではじめて鉄を削ったときには、「感動
 と緊張のあまり、ズボンを濡らしたほど」であったと述懐します。
 
 そんな仕事の合間、文学青年が集まって、毎月一度の読書会を開くようにな
 り、それが40数年後の今日まで続く「生涯の友」となったのです。
 
 この読書会でめぐり合ったという、「ものづくり本」を、いくつか紹介しま
 しょう。
 
 
 刃物の町、三条で鍛冶屋を創業し、日本刀の技術を応用した剃刀を量産した
 岩崎航介の遺稿集『刃物の見方』。
 
 岩崎は、大工道具の名人や、刺身包丁の名人の言葉から、鋼を徹底的に分析
 し、自社で作った剃刀と金属顕微鏡をもって、製鉄所の技師に欠点を指摘し
 ます。
 
 はじめは取り合わなかった大製鉄所も、同じ欠点を大手自動車メーカから指
 摘され、あわてて製法に大改良を加えます。
 
 製鉄所の技師よりも、鋼を打ち、鋼を研ぐ名人たちの方が「鋼を知っていた
 」ことが、平易な言葉で綴られています。
 
 残念ながらこの書籍は絶版だそうで、是非とも再版が望まれます。
 
 
 金属メッキ工場の職工であり、「アララギ」に入会し歌集も編んだ松倉米吉
 は、24歳で夭折しました。
 
  わが握る槌の柄減りて光けり 職工をやめんといくたび思ひし
  
  ふと詠みし歌をおづおづ記す間ぞ 前の男の仕事早かりし
  
  鑢するわが手の下に真鍮粉は 光りきらめき散りたまりけり
 
 旋盤を回している時にとてもいい表現を思いついた経験のある小関氏は、2
 番目の引用歌に、共感を覚えています。
 
 これも「旋盤工・作家」の肩書きを持つ筆者ならではの感覚でしょう。
 
 
 ものづくり書籍にこだわって紹介している やまさん にとって、経験に裏打
 ちされた深さと、労働に対する厳しい眼差しに基づく氏の書評に、感銘を受
 けることしきりの一冊でした。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 写真家 英 伸三氏の写真集に、夜空に浮かぶ満月を思わせる鋼の断面があ
 る。
 
 丸いシャフトを金属帯鋸で切断し終えた瞬間を取ったものだろうが、工場の
 男が気付かない美しい姿を撮っている。
 
 これを写真家ではなく、旋盤工の眼で語ると、何の変哲もない断面にも言葉
 が隠れている。
 
 丸い断面にほぼ水平に走る鋸歯の切断層のほかに、丸い円の左右に向き合う
 ようにいくつかの半円のぼかし模様が浮いて見える。
 
 さらに切断層とは垂直に走る細かい鋭い線が5本ある。
 
 この半円や垂直の線を、現場の男たちは「ユウレイ模様」とか「ユウレイ線
 」と呼び、鋸歯の切れ味の目安にしている。
 
 鋸歯の左右に曲げた歯の「アサリ」が描くのが半月模様であり、垂直の線は
 切断を終えて回転を止めた鋸歯が上に戻るときに残したアサリ歯の引っ掻き
 傷だ。
 
 つまり、鋸歯のアサリの模様が浮いて出ぬようなら、もう切れあいは悪いと
 いうことであり、鋸歯を好感したほうが良い、という目安になる。
 
 なぜかは知らず現れるこの現象に、「ユウレイ」と名づける現場の男たちの
 ユーモアが溢れている。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 「暗黙知」を明文化しようとしても、匂いや音は伝わらない。
 現場のおっちゃんの言葉を聞き、五感を動員せよ。
 
 町工場で、本を読もう。
 リズミカルな切削音は、最高のBGMだ。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
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 1 錆色の町・めぐまれた友
 2 「旋盤工・作家」駆け出しのころ
 3 名作に描かれた技術・技能
 4 読書とともに
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・著者 小関 智弘
 ・出版社 現代書館
 ・アマゾン 『町工場で、本を読む』
 
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December 27, 2006

大工道具の日本史

Daikudougu
 【今週の一冊】
 ●『大工道具の日本史』

  著:渡邉 晶(吉川弘文館)
  2004.11 / ¥1,785

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 ◆ 燃える一言 ◆


 『手道具の刃先を通して伝わってくる、個性ある木材繊維の多様性を
 
     知ることは、木の建築を生産するうえで、
     
              最も基本に据えるべき経験ではないだろうか』


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 日ごろは金属や樹脂の加工に追われている やまさん ですが、今回は「木」
 の加工、大工道具の歴史を取り上げてみましょう。
 
 人類が木材の加工に用いた最初の道具は、言わずもがな、石器であり、今日
 の道具の区分で言えば、「斧」と「鑿(のみ)」です。
 
 縄文時代の約6000年前から、4000年前にかけて、平地形式や高床式の建築が
 これらの道具によって作られました。
 
 
 弥生時代には斧と鑿の材質が、石から鉄に移り変わり、生産性が飛躍的に向
 上します。
 
 実験によると、径20センチメートルの松を石斧で伐ると12分かかったところ
 が、鉄斧では3分で伐採できたそうですから、この生産性は、以後19世紀に
 至るまでほとんど変化がなかった程の飛躍だったのです。
 
 
 そして、6世紀後半に伝来した、仏教建築をつくる主要な道具として、鉄斧
 と鉄鑿のほかに、鋸とカンナ(槍鉋)が加わり、早くも基本的な道具の編成
 が確立したのです。
 
 これらの道具が揃ったことで、中世にかけて接合法(継ぎ手)も進歩を遂げ、
 現在にも残る仏教建築のように、材料を節約しつつ強固な接合方法が編み出
 されていったのです。
 
 
 木材加工道具のもう一つのトピックは、中世の14世紀から15世紀にかけて、
 素材加工において使われた「オガ」です。
 
 それまでは斧や鑿と楔を使って、原木を割って角材を作っていたのに対し、
 二人一組で使う大型製材鋸(オガ)を使う製材へと、技術革新が進み、幅広
 な薄板材や正確な角材を作り出すことが可能となりました。
 
 また、この時期、カンナも剣状の刃を押して使う槍鉋と、現在のようにカン
 ナ身を溝に押し込んで使う「鉋(つきがんな)」に分化し、加工精度が上が
 っていったのです。
 
 
 近世の18世紀後半から19世紀始めにかけては、鋸・鑿・鉋の加工精度は更に
 高まり、生産効率を上げるために作業姿勢が「座位」から「立位」へと移行
 していきます。
 
 ちなみに、こうして生産性が上昇する一方で、大工の実質賃金は、15世紀か
 ら19世紀までで、約4分の1にまで減少してしまい、19世紀前半の大工は、
 エンゲル係数(食費の割合)が70と、食べるのがやっと、という状況でした。
 効率アップと賃金カット。
 このころから「技術者」は、厳しい仕事をしていたようです・・。
 
 
 そして、近代、19世紀末から20世紀前半にかけて、木の建築を作る技術は、
 加工の精度において最高の水準に達し、一人前の建築大工が使う標準道具は、
 約180点を数えるまでに、多様に分化したのです。
 
 現在は、電動工具が建築現場に入り込み、これらの道具も使われないものが
 現れてきています。
 
 しかし、わずか数十年の電動工具の歴史の前に、先人が木のぬくもりを大切
 に築いてきた「道具」の変遷を知ることは、木工建築には欠かせないのでは
 ないでしょうか。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 17世紀始めの古典建築書『匠明』の中に、建築専門工人の指導者が見につけ
 る能力や技術に関して、「五意達者にして、昼夜不怠(おこたらず)」とい
 う記述がある。
 
 「五意」とは、「式尺の墨かね」「算合」「手仕事」「絵用」「彫物」のこ
 とを指す。
 
 ・「式尺」は、設計上の基準である木割
 ・「墨かね」は、部材に対する墨付けの技術
 ・「算合」は、積算
 ・「手仕事」は、道具を使いこなす技術
 ・「絵用」と「彫物」は、建築装飾の下絵を描き、それを彫り上げる技術
 
 をそれぞれ表現している。
 
 「式尺」「墨かね」「算合」は数理的能力、「絵用」は芸術的能力、「手仕
 事」「彫物」は手をはじめとする身体能力を必要としていることが分かる。
 
 「五意」が文字として明文化されたのは近世であるが、建築専門工人が出現
 した当初から、工人のリーダーには高い能力・技術が求められていたのだ。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 道具に歴史あり。
 数千年前の技術者に敬意を表し、淘汰・洗練された道具の理屈を知ろう。
 
 電動化・自動化で「五意」を忘れるな。
 切れ味、手触りを忘れたものづくりは、必ず衰えていく。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 火 |   | (炎3つが満点)
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 手道具の歴史と人類の未来―プロローグ
 木の建築をつくる技術と道具
 大工道具の誕生―旧石器から縄文時代
 鉄器の導入と大工道具の発展―弥生・古墳時代
 渡来した新しい建築技術―古代・中世
 大工たちの近世
 多様化する大工道具と技術
 大工道具の一万年―エピローグ
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・著者所属 竹中大工道具館
 ・出版社 吉川弘文館
 ・アマゾン 『大工道具の日本史』
 
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September 12, 2006

戦艦大和復元プロジェクト

Senkanyamato_hukugen
 【今週の一冊】
 ●『戦艦大和復元プロジェクト』

  著:戸高 一成(角川書店)
  2005.04 / ¥760

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『大和が世界一といわれる理由は、
            そのスケールが世界一だったというだけではない。
 
     現実にあれほどの艦を造れたことこそが世界一なのではないか。』

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 終戦記念日を迎え、何かと「太平洋戦争」を考えさせられるニュースが飛び
 交っています。
 
 昨年、広島県呉市にオープンした歴史科学館「大和ミュージアム」には、先
 の戦争の象徴ともいえる「戦艦大和」が、1/10スケールで復元された模型が
 展示されています。
 
 本書は、この「大和復元」にまつわるエピソードが、実際の大和に関する考
 証と共にまとめられています。
 
 
 一口に「1/10スケール」と言いますが、何しろ大和そのものが世界一の巨艦
 ですから、実に全長26メートル、総重量30トンにも及ぶ「船」なのです。
 
 実際に、船体は造船所で製造されて進水式も行い、「ミュージアム」建造後
 では屋内に入れられないため、建物の建造中に重機で搬入されました。
 
 
 また、1/10ということは、実際で1センチのものは、模型では1ミリになり、
 確実に工作対象になってしまいます。
 
 つまり、1/10で大和を再現するためには、実物の大和を1センチ単位で解析
 できるだけの資料が必要になる、ということなのです。
 
 ところが残された図面は決して多くはなく、関係者が復元した図や写真でも
 分からない箇所が多々あり、実物の再現は困難を極めます。
 
 そこで、沖縄戦で海底に沈んだ実物の大和を撮影した、海底調査のビデオを
 詳細にチェックし、2,000枚もの画像をキャプチャして資料を補い、これまで
 明らかにされていなかった大和の姿を復元していったのです。
 
 
 特に模型の工作レベルを決めたのが木甲板です。
 
 当初、造船メーカーではベニヤ板に墨で筋を線引きしようとしましたが、本
 物にこだわる筆者の熱意により、最終的には海軍工廠で実際に働いていた棟
 梁が昔ながらの方法で造ることにしました。
 
 それは、15ミリほどの角材を、端から一本一本、継ぎ目が揃うように貼って
 いく、伝統工芸のような「作品」となったのです。
 
 この木甲板に合わせるように、鉄製の甲板には滑り止め用の細長い鉄板を再
 現するため、数千枚の小さな板を、一枚一枚、手で張っていくという、気の
 遠くなる作業までなされたのです。
 (しかも、完成したら見えなくなるような場所まで!)
 
 
 模型の大和に情熱を込めるほど、本物の大和を知ることで、当時の技術や社
 会、大和を造らねばならなかった国際状況までも知らされたと筆者は語りま
 す。
 
 どんな技術も、それを実際に運用するのは人間であり、使い方によってすば
 らしい結果を得ることもできるが、一歩間違えば悲惨な結果を招く。
 
 戦艦大和は、技術のすばらしさを伝えると同時に、技術の持つ悲劇的な歴史
 も教えてくれます。
 
 大和ミュージアム、行ってみたいですね。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 設計する能力と、造る能力は異なる。
 
 当時、アメリカやイギリス、ドイツでも50センチ砲戦艦など、設計はできた
 が、造れなかった。
 
 なぜなら、製造施設から造らねばならないからだ。
 
 ところが、呉工廠は、明治時代にすでに大和が入るだけのドックを造り、ま
 た46センチ砲を造れるだけの施設があった。
 
 
 また、技術者の水準も高かった。
 
 工員が休憩時間に暇つぶしに、鉄板の切りくずを加工して遊ぶ。
 
 桜の形の穴を鉄板にヤスリで開け、それから棒を桜の形に作る。
 
 工廠省から視察にきたものが見つけて入れさせてみると、するっと入ってピ
 タッと止まる。
 
 雑巾でぬぐうと継ぎ目が見えなくなったという。
 
 
 この設備、技術力からくる自信が、大和建造、そして開戦へと舵が切られて
 いく一因となったといえるだろう。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 「ウソモノ」では、熱意は伝わらない。
 「ホンモノ」に極限まで似せた「ニセモノ」を狙え。
 
 科学・技術に善悪はない。
 技術を使う人間の責任を教えた教科書が「戦艦大和」だ。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 |   | (炎3つが満点)
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 第1章 大和を造ろう!
 第2章 造るのは模型ではない、十分の一の大和だ
 第3章 大和研究に懸ける
 第4章 戦艦大和が遺したもの
 第5章 生き続ける大和
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・大和ミュージアム
 ・出版社 角川書店
 ・アマゾン 『戦艦大和復元プロジェクト』
 
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August 02, 2006

ジャパン・インパクト

Japan_inpact
 【今週の一冊】
 ●『ジャパン・インパクト』
  伝統の技が未来を開く

  著:NHK「ジャパンインパクト」プロジェクト(日本放送出版協会)
  2003.02 / \1,575

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 ◆ 燃える一言 ◆


 『千年を超えて磨き上げた技には、千年の未来をひらく可能性が
                        あるのかもしれません。
 
   伝統技術―、その中には、今だ汲みつくしていない技、
              学びつくしていない知恵が眠っているのです』


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 日本の刃物の切れ味、漆器や磁器の類いまれな美しさ、洋紙では決して得ら
 れない和紙の強さ・しなやかさ。
 
 まさに「ニッポンのものづくり」を代表する、こうした伝統の技術には、無
 言にして雄弁な魅力があります。
 
 それは、ただ自然が与えてくれたものではなく、気の遠くなる時間と世代を
 経て、人が発見し、育て、磨き上げてきたものです。
 
 そして今日、これら日本の固有技術が、最先端テクノロジーの革新に、大き
 な影響を与えていることを、本書は教えてくれています。
 
 
 「漆黒」と表現されるように、「漆(うるし)」の黒は、カーボンブラック
 を入れて黒くする塗料とは、全く異なる魅力をたたえます。
 
 漆の木の樹液は「ウルシオール」という油分に水が溶け込んだものであり、
 これが「酵素」の働きで硬化するという、独特の「乾燥」工程を経ます。
 
 しかもこの酵素は、湿気がある限り、何千年も働き続け、硬い塗膜を守る「
 生き物」なのです。
 
 
 一方、現代の合成塗料の化学物質は、シックハウス症候群を引き起こすなど、
 人体・環境に害悪をもたらしています。
 
 漆は、炭素・酸素・水素だけから成る、天然の「やさしい」塗料であり、し
 かも硬化に熱などの外力を必要としない、省エネにもつながる材料なのです。
 
 今では貴重になった天然漆に代わる、人工漆が目下、研究されています。
 
 
 クルマのクラッチの摩擦板は、大きなトルクの伝達と耐久性という厳しい環
 境で使用される材料ですが、ここに「和紙」の技術で作られた「機能紙」が
 用いられています。
 
 潤滑油をしみこませ、摩擦熱を素早く逃がし、薄くて耐久性がある材料とし
 て、「洋紙」にはない「和紙」の特徴が活かされています。
 
 更に、ステンレスを繊維化してカーボン繊維の間に入れて漉いた紙は、電磁
 波シールド材として、電子機器の保護材料に用いられています。
 
 また、セラミックを使って作った「紙」は、耐久性に優れた電線の被覆材に
 使われるなど、従来の「紙」のイメージとは大きく飛躍した材料へと変貌し
 ているのです
 
 
 現代の先端科学をもってしても、解明し切れていない伝統技術の可能性。
 
 その可能性を、最新の材料技術などと融合させることが、世界に衝撃を与え
 る、ものづくりの「ジャパン・インパクト」となるのです。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 日本刀の形が整った硬さと耐久性を高め、切れ味を良くするためにするのが
 「焼き入れ」だ。
 
 鋼の性質に従って、ある温度までに熱した材料を、水に入れ、急速に冷やす
 操作である。
 
 鋼の温度をどこまで上げるかは、刃物の仕上がりを大きく左右する。
 
 同じ鋼でも、温度によって結晶の構造がまったく異なるからだ。
 
 
 摂氏650℃くらいの低い温度で焼き入れすると、刃物としては柔らか過ぎ、
 簡単に曲がってしまう。
 
 770℃くらいにすると、刃物としてちょうどいい硬さに仕上がっていて、ほぼ
 適切な焼き入れ温度である。
 
 温度が950℃を超えた場合、鋼はさらに硬くなるけれど、もろく弱くなってい
 る。
 
 焼き入れ温度としてやや高い、温度が1,000℃を超えて焼き入れすると鋼は極
 端にもろくなってしまう。
 もう、刃物としては使えない。
 
 こうしたことから、この鋼の適正な焼き入れ温度は、750℃から780℃という
 ことが分かる。
 
 職人は、これらの焼き入れ温度を全て火の色で見分けてしまうのだ。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 「伝統」とは、カイゼンの歴史だ。
 現在の結果から、プロセスを紐解こう。
 
 伝統の技を、センシングしよう。
 再現可能な技術として、再構築すれば廃れない。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 |   | (炎3つが満点)
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 第1章 漆をモデルに新塗料を開発
 第2章 和紙づくりの技が生んだハイテク
 第3章 電子産業を支える金箔技術
 第4章 磁器が宇宙開発の素材に
 第5章 日本刀の技術が生んだハイテク包丁
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・出版社 NHK出版
 ・アマゾン 『ジャパンインパクト』

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June 26, 2006

ロウソクと蛍光灯

Rousoku_keikoutou
 【今週の一冊】
 ●『ロウソクと蛍光灯』
  照明の発達からさぐる快適性

  著:乾 正雄(祥伝社)
  2006.04 / ¥777

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 ◆ 燃える一言 ◆

 『照明は明るければすむというほど簡単なものではない。
 
      乗り心地、住み心地をもっと一般的にいえば居心地だろうが、
      
          そういうものが照明にはなによりも大事なのである。』

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 「現代の発明品の中で、あなたが最もありがたいと思うものは何ですか」と
 尋ねられたら、何と答えるでしょう。
 
 自動車?電話?テレビ?
 
 20世紀前半に活躍した作家の菊池寛は、「電灯」と答えています。
 
 本読みと原稿書きが生業の作家らしい答えといえますが、なるほどと思わせ
 ます。
 
 
 恩恵を受けながら、ありがたみを意識しない理由の一つとして、筆者は照明
 の発達が早すぎたことを挙げます。
 
 室内環境(明るさ、温かさ、風、音など)を制御する機器の中で、飛び抜け
 て早くから工業化されたのが「照明」です。
 
 太古は照明といえば、太陽と炎であり、特に中世においては「ロウソク」と
 「オイル」が主要な照明光源でした。
 
 産業革命以前は、製法や芯の異なる洋ロウソクと和ロウソク、また豚の油か
 菜種油かの違いはあるものの、文化交流がなかったにもかかわらず、西欧と
 日本の照明がほぼ同程度に進んでいたのは興味深いものがあります。
 
 
 そして産業革命以後、照明の歴史は飛躍的に成長していきます。
 
 オイルランプ、ガス灯、アーク灯、電球、ネオンランプ、蛍光灯と、有能な
 発明発見者らによって、次々と新しい照明が生み出されていきました。
 
 今となっては照明は、「電気」の学問にもほとんど登場しない、先端技術と
 は反対の、超成熟技術となってしまったのです。
 
 
 その間、人工照明の発達の歴史は、ルクス(照度)を高める歴史であり、20
 世紀の始め以来、各国の照明学会が推奨する照度が、いずれの国もほぼ10年
 で倍になるような傾向をとっていることからも分かります。
 
 しかし生物としての人間の眼は、100年やそこらで何ら変わるものではありま
 せんから、推奨照度がそこまで大きく変わるのはおかしなものですが、これ
 も照明器具の発達がもたらした変化といえるでしょう。
 
 もしこの傾向が続くのであれば21世紀半ばには20万ルクスという、太陽の直
 射日光の倍くらいの照度が「推奨」ということになりますが、もちろんそん
 なことにはならず、省エネの影響もあって、1970年ごろで頭打ちとなります。
 
 こうして機能からすれば十分となった照明は、都市や建築に組み込まれ、照
 度よりも快適性を求められるようになります。
 
 そうして行き着いた先が、実は行き過ぎた明るさではなく、ロウソクや暖炉
 のような温かみのある、分散された多灯に「後戻り」している傾向を、筆者
 は指摘しています。
 
 あまりに何気なく扱っている照明の歴史から、人間が求める「快適さ」とは
 なにかを探求する一冊といえるでしょう。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 和風建築の採光は、すべて光が「下から上へ」のベクトルを持っている。
 
 屋根は軒を深く出し、日光や空の光の室内への直接の入射を阻む。
 
 犬走りと言われるタタキや、踏み石、沓脱ぎ石は、一種の反射板であろう。
 
 廊下は、白木でなくても艶があるから、はっきり反射板である。
 
 建物の周囲にまく白い石にも似た効果がある。
 
 「新しいほどよい」といわれる新しい畳の反射率は白に近い。
 
 
 広い開口部は床面までいっぱいに開いており、上記の各種反射板からの間接
 光が上方へ向かう。
 
 その光は、畳から直ちに、あるいはさまざまな色のふすま紙、砂壁などを経
 て、天井や床の間の暗部に行き着く。
 
 昔の天井は案外高く、作りによっては光の行き届かない部分もでき、上部ほ
 ど暗い。
 
 つまり、和室の光環境は、自然界の天と地をひっくり返したようなものなの
 だ。
 
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 ◆ 熱い行動 ◆
 「あたりまえ」にまで成熟した製品は、洗練されている。
 発展の歴史を紐解き、その本質を知ろう。
 
 技術の変化で機能が急上昇しているものは、発展途上だ。
 数値化できない「快適さ」は、温故知新にある。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 |   | (炎3つが満点)
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 第1章 太古から産業革命以前までの人間生活と照明
 第2章 寒くて暗い国に起きた産業革命と光源の発達
 第3章 照明採光技法の発達
 第4章 近代以後のビル様式の流れと照明の変遷
 第5章 照明の後戻り
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・著者 乾 正雄
 ・出版社 祥伝社
 ・アマゾン 『ロウソクと蛍光灯』

----ものづくりを応援!技術士やまさんの「えんぢに屋本舗」-----

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May 10, 2006

修理

Syuuri
 【今週の一冊】
 ●『修理』
  仏像からパイプオルガンまで

  著:足立 紀尚(ポプラ社)
  2004.05 / ¥1,575

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 ◆ 燃える一言 ◆


         『 大事に使えばちゃんと壊れる 』

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 盛者必滅、諸行無常・・。
 
 いえ、今週の本は「平家物語」ではありませんよ。
 
 「ものづくり」といえば、素材から製品をつくることに目が向きますが、ど
 んなに丁寧に作ったものでも、形あるものは必ず壊れます。
 
 最近はPSEマークのない中古家電の販売ですったもんだがあったように、
 なにかとリサイクルが注目されるようになりましたが、高度成長期は「使い
 捨てこそ豊かさ」と思われてきました。
 
 しかし元来、「もったいない」の国、日本では、壊れたならば「修理」が当
 たり前でした。
 
 
 例えば、「古文書」と言われる巻物や掛け軸は、文書そのものが書かれた和
 紙(本紙)の裏には、補強と装飾のための「裏紙」が複数枚貼り付けられて
 います。
 
 時間の経過と共に変色したり破れた裏紙を定期的に交換することで、その貴
 重な「本紙」を保存しているのです。
 
 では、どうやって「修理」するのでしょう?
 
 
 古文書の接着には麩糊という小麦粉のデンプンを水で溶いたものが使われて
 おり、水をかければ簡単に剥がれるようになっています。
 
 水をかけてしばらく置くと、裏打ちの紙が浮くので、その上にガラスを載せ
 てから、ひっくり返します。
 
 そしてタイミングよくガラスを外せば、裏打ちされていた紙だけがきれいに
 張り付いてきます。
 
 そうして裏打ち紙を1枚ずつ丁寧に外していくのです。
 
 
 本紙そのものはただの1枚きりの薄い和紙ですから、何百年の雨露や湿気で
 ところどころ欠損しているものもあります。
 
 そんな場合はピンセットと紙ナイフで、同質の紙で裏当てを細かく施すので
 す。
 
 国宝級の現物が一つしかない、そして破れやすく絶対に失敗のきかない紙片
 となれば、神経の使い方は想像を絶します。
 
 そして再び裏打ちをするときには、化学接着剤は一切使わず、やはり麩糊を
 用います。
 
 それが「次」、つまり数百年後にも間違いなく修理が行える、最上の方法だ
 からです。
 
 
 こうした伝統の技から、靴やメガネのような日用品、またカメラやジッポー
 のようなレアものまで、「修理」の現場はいずれもオートメーションとは程
 遠い、人間くさい現場ばかりです。
 
 だからこそ、愛用してくれる人のため、丹念に仕上げる「ものづくり」の本
 質が、「修理」の職人たちには息づいているのではないでしょうか。

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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 300年も前の「漆器」でも、修理はできる。
 
 よい漆仕上げは、木地の上から直接塗るのではなく、必ず下布が張ってある。
 
 漆を吸わせた薄布の上から、何重にも重ね塗りがしてあるのだ。
 
 修復をするときには、この下布を外してから割れた什器を漆で貼り付け、こ
 の上から漆を塗り重ねて仕上げる。
 
 塗り重ねる、と一口で言うが、木に漆を吸わせる、砂と漆を混ぜて塗るなど、
 何十という工程を経ねばならない。
 
 「うちで仕上げた漆は新品、修理を問わず、30年間はダメになったといって
  うちに持ってこられると困るんです。
 
  そのくらいの気概で日々の仕事に取り組んでいます」
 
 修理職人の一方ならぬこだわりだ。
 
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 ◆ 熱い行動 ◆
 直し方を知ることは、作り方を知ることだ。
 丁寧に壊して、丁寧に直してみよう。
 
 使い捨ての時代は終わった。
 直し方を考えた作り方で、製品のライフサイクルに責任を持とう。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 |   | (炎3つが満点)
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 第1章 実用品―大事に使えばちゃんと壊れる
    (書籍 メガネ ほか)
 第2章 伝統の技―時間を超えて生きている
    (刀剣の研ぎ直し 仏像 ほか)
 第3章 みんなが使う大きなもの―安全のために快適のために
    (神社 赤レンガ建築 ほか)
 第4章 レアモノと愛用品―この世にひとつの大切なもの
    (ライター カメラ ほか)
 第5章 変わったモノ―こんなふうに再生します
    (競輪用フレーム おもちゃ ほか)
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 ◆ 関連ページ ◆
 ・出版社 ポプラ社
 ・アマゾン 『修理』

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February 01, 2006

人工臓器は、いま

 【今週の一冊】
 ●『人工臓器は、いま』
  暮らしのなかにある最先端医療の姿

  編:日本人工臓器学会(はる書房)
   2003.11 / ¥2,100
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 ◆ 燃える一言 ◆


 『多くのエンジニアと多くの医師の連係プレイが

               必要不可欠な領域が人工臓器の世界です。』


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 我々エンジニアがものづくりをするのは、「社会の多くの人たちの生活を、
 日一日と向上させていく」(松下幸之助)ためです。
 
 ならば、人々の命を救い、日常の苦しみから開放させる「人工臓器」という
 ものづくりは、その究極の一つと言えます。
 
 医療現場に展開される、最先端のものづくりを覗き見てみましょう。
 
 
 代表的な人工臓器として、「人工心臓」が挙げられます。
 
 心臓は言うまでもなく、全身に血液を循環させる「ポンプ」の働きをする臓
 器であり、動作としては灯油用の手動ポンプと同じ原理です。
 
 こう書くと、単純な機構のような気がしますが、人工的につくることはそん
 なに甘くはありません。
 
 
 心臓という「ポンプ」の性能は、5~7L/分の血液を全身に送り出してお
 り、現在の技術で実現可能な人工心臓では、最大10L/分程度の能力があ
 ります。
 
 ところが、我々の心臓は、運動時には15L/分以上の送出能力を有する「
 可変」ポンプなのです。
 
 
 また、人工心臓は、生体からすれば「異物」ですから、血液が触れると通常
 固まってしまい、動作を邪魔したり、血液の塊が脳や他の臓器の障害となる
 「血栓」を引き起こします。
 
 そして当然、24時間休みなく、しかも数年間という長期間、動き続けなけれ
 ばなりません。
 
 例えば自動車ならば、10年間で10万キロ走ると寿命となりますが、もしも不
 眠不休、時速50キロで運転したならば、わずか3ヶ月で寿命に達する計算に
 なります。
 
 いかに過酷な使用条件で、耐久性が求められるかがわかるでしょう。
 
 
 更に、高効率であることも、人工心臓の重要な性能です。
 
 心臓の平常時の仕事率は1ワット程度であるのに対し、人工心臓の機械効率
 が5~10%であるので、残りの損失はすべて「熱」となり、これが体内に
 放出されることになります。
 
 発熱量が大きければ、周辺がやけどをしたり、体温が上昇して危険な状態に
 なることは明らかです。
 
 
 このように、機械としての機能や効率、耐久性、生体適合性という材料技術
 、あるいは体内で長期間もつための充電池や制御用コンピュータなど、非常
 に広範囲かつ難度の高い研究開発が必要です。
 
 そして、この技術が安価に、必要な方に提供できるねばならない点も、忘れ
 てはなりません。
 
 
 一口に人工臓器といっても、心臓を始めとする循環系臓器、肝臓などの代謝
 系臓器、五感の感覚器系臓器、皮膚や骨などの構造系臓器など、求められる
 技術は際限なく広がっています。
 
 豊富な写真と共に語られる、人工臓器の世界の高度な技術に驚くと共に、そ
 れでもなおたどり着けぬ、人体の精緻な構造の不思議さを、今更ながら実感
 させられた一冊です。
 
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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 小型の人工心臓として注目されているのが「定常流(連続流)型ポンプ」。
 
 遠心ポンプや軸流ポンプなどのターボポンプを利用したタイプで、「脈を打
 たない」人工心臓だ。
 
 手術などで遠心ポンプは用いられているが、人工心臓としてはまだ未完成。
 
 問題となるのが、回転軸のシール部の寿命が、数日であり、血栓ができやす
 いからだ。
 
 究極の遠心ポンプ人工心臓として研究が進められているものに、磁気浮上型
 遠心ポンプがある。
 
 「軸がない遠心ポンプならシールも必要ない」という発想だ。
 
 リニアモータの人工心臓版ともいえる、高度なメカトロニクス技術の結晶で
 ある。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 
 人体に学び、人体を模倣し、人体を超えよ。
 必要な機能とメカニズムを知った上で、代替手段を考えよう。
 
 学際領域を果敢に攻めよ。
 医学と工学、産官学の連携がキーとなる。

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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 火 | (炎3つが満点)
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 序章 はじめて知る人工臓器
 第1章 暮らしの中の人工臓器
 第2章 休むことなく体中に血液をめぐらせる
    ―ハイテクメカと機能性材料が可能にする循環系人工臓器の世界
 第3章 体内の化学反応の調整と体液の浄化
    ―生体機能の解明が生み出した代謝系人工臓器の世界
 第4章 音や光を守りたい感覚情報の脳への橋渡し
    ―五感を取り込み電気信号に変える感覚器系人工臓器の世界
 第5章 からだを形づくる、ささえる、まもる
    ―材料の特性に依存した構造系人工臓器の世界
 終章 人工臓器の未来図を描く―大学・企業開発の現場から

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July 13, 2005

E=mc2

emc2
 【今週の一冊】
 ●『E=mc2』
  世界一有名な方程式の「伝記」

  著:ディヴィッド・ボダニス 翻訳:伊藤 文英、高橋 知子、吉田 三知世
  (早川書房)
   2005.6 / ¥1,995

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 ◆ 燃える一言 ◆
 『アインシュタインの方程式に含まれる等号をトンネルか橋だとして、
       ごくわずかな質量がこの方程式という橋を渡ったとしよう。
    エネルギーの側に着いたとき、
              そのわずかな質量は驚くほど膨張している。』
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 アインシュタインが特殊相対性理論を発表した1905年に生まれ、今年生誕百
 周年を迎えた方程式、「E=mc2」。
 
 (もちろん、「2」は「c」の右肩に乗った「二乗」です。)
 
 本書は、アインシュタインの伝記でも、相対性理論の解説書でもなく、百歳
 になった「E=mc2」の生い立ちを綴った「伝記」です。
 
 
 まずは彼の祖先、「E」「=」「m」「c」そして二乗の「2」、それぞれの
 記号の歴史から始まります。
 
 イコールの記号を考案したイギリス人が、『「is equalle to」という冗長な
 言葉の繰り返しを避けるために、同じ長さの2本線でできた記号、====
 (注:本では繋がった二本線です)を編み出した』という売り文句で普及に
 努めた、なんていう解説も飛び出します。
 
 
 ファラデーの活躍により明らかにされた「エネルギー保存の法則」、そして
 酸化反応を精密に計測したラヴォアジェが示した「質量保存の法則」が、E
 とmに関する、大法則です。
 
 つまり19世紀半ばまで、エネルギーと質量は「丸屋根に覆われた別個の都市
 のようなもの」だと考えられていました。
 
 どちらも魔法のように収支バランスのとれた、驚くべき世界で、物質の形態
 ががらりと一変しても、総量は人知の及ばない法則で一定を保っており、こ
 の二つの領域に関連性があるなどと考えている者はいませんでした。
 
 
 アインシュタインの研究は、二つの独立した観念を一変させるものでした。
 
 エネルギーは保存されない。質量も保存されない。
 しかし、世界は無秩序であるというわけではない。
 
 エネルギーは単独で存在するものではない。質量も同様である。
 そして、質量とエネルギー量の和は常に一定である。
 
 この二つを結びつけるのが光速cの二乗であり、質量をエネルギーに換算す
 る係数は448,900,000,000,000,000倍(マイル/時で表現)という莫大な膨張
 を伴うのです。
 
 
 そして、この膨大なエネルギーの膨張を実際に証明するために、ラザフォー
 ド、フェルミ、マイトナーらの手により「E=mc2」は育てられ、ついに
 原子を分解し、圧縮され凍結されたエネルギーを解放する方法が示されまし
 た。
 
 不幸なことに、それは第2次世界大戦に突入した1939年のことであり、どこ
 の国がこの式の威力を「原子力爆弾」という形で使うか、という競争になっ
 たのです。
 
 アインシュタインの静かな思索に始まった「E=mc2」は、最悪の形で、し
 かし少しの狂いもなく、広島・長崎の上空で現出しました。
 
 
 戦後60年。原子力発電をはじめ、医療機器、GPS、また遺跡の年代測定
 など、現代ではアインシュタインの理論が多岐に渡って応用されています。
 
 物理の教科書や個人の伝記には現れない、数多くのドラマが、かの方程式に
 織り込まれ、紡ぎ出されたことを知り、感動を覚える力作です。
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 ◇ カンドコロ! ◇
 
 ショッピングセンターや映画館でおぼろげに光る非常口の表示も、E=mc2
 の力に頼っている。
 
 これらの表示の光源には、火災のときに停電の恐れのある、普通の電源が使
 えない。
 
 そこで、内部に放射性物質の三重水素を封入する。
 
 三重水素の不安定な原子核から質量が絶えず「消滅」し、かわりに発生する
 エネルギーが蛍光体を十分な明るさに光らせるのだ。

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 ◆ 熱い行動 ◆
 原理・原則を熟知して、常識と言われるものを疑ってみよう。
 
 無味乾燥な「法則」や「技術」にも、歴史とドラマがある。
 自分のお世話になっている「法則」「技術」の生い立ちを探ろう。
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 | 炎 | (炎3つが満点)
-----------------------------------
 ◎ 目 次 ◎
 第1部 誕生
 第2部 E=mc2の先祖
 第3章 若かりし頃
 第4章 成熟期
 第5章 時間が果てるまで

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February 09, 2005

分解マニア!

bunkaimania
 【今週の一冊】
 ●『分解マニア!』
  図解で分かる!身近な機械の仕組み

  編:三推社(講談社)
   2004.12 / ¥1,800

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 ◆ 燃える一言 ◆
 『本書は「子供心」を残したまま大人になった人の、
         今も残る「好奇心」を満たすために制作されたものだ。』
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 じっくり、こつこつ積み上げていく「ものづくり」には、達成感や創造する
 喜びがあります。
 
 一方で、未知のものを分解し、中身を探るのは、好奇心を刺激し、先人の智
 恵に触れる楽しみです。
 
 …というか、ぶっちゃければ、「見ちゃだめ」と言われる中を覗くような、
 イケナイ快感を味わせてくれるのが、この「分解マニア」です。
 
 まず圧倒されるのが「札幌ドーム」。
 
 日本ハムとコンサドーレ札幌のホームグラウンドであり、野球とサッカーが
 共にドーム球場で楽しめますが、その切り替えは「サッカー場を動かす」と
 いう、なんとも大胆なもの。
 
 天然芝を植えた縦120m、横85mのグラウンドは、「ホヴァリング」=空気圧で
 浮き上がった状態でドーム内へ移動し、更には4800人分!の座席と一緒に回
 転して所定の位置へ収まります。
 
 サッカーコートの出し入れをするために、通り道の座席4000席!を4つ折に
 畳んで収納するというのも、いやはやすごい発想です。
 
 続いては「スケートリンク」です。
 
 リンクで氷の下を透かして見ても分かりませんが、氷の下のコンクリートに
 は、60m継ぎ目なしのパイプが何本も走っており、その中を冷媒が循環す
 る巨大な「冷蔵庫」なのです。
 
 その「冷蔵庫」の構造も、また関連して「エアコン」の中身も後半で図解さ
 れています。
 
 かつて熱工学の授業で習った「冷凍サイクル」や「ヒートポンプ」が、丸や
 四角の図ばかりで、なんやらイメージがつかめなかったのに比べて、身近な
 家電の中身が分かると、がぜん印象深くなります。
 
 もっと身近なところでは、「水洗トイレ」の構造なんかは、単純なだけに知
 ると知らないのでは、「いざ!」という時に大違いです。
 
 レバーに連動した排水栓が、タンクに水が無くなると閉じ、水が溜まると浮
 き玉に繋がったバルブが水を止めるのですが、ちょろちょろ水が止まらない
 のは、栓やバルブが汚れているのかもしれませんよ。
 
 ハイブリッドカーや電波時計、食器洗い乾燥機など、最新の製品の分解図が
 ふんだんに載せられていますが、最近の「デジタル家電」は、中を見ても意
 味不明な基板ばかりになってしまうのが、ちょっと寂しいところです。
 
 ソニーの創業者、井深大は子供の頃、親戚の家に行くと手当たり次第に時計
 をばらして「壊し屋大ちゃん」と恐れられたそうですが、アナログなメカに
 は、分解する「ワクワク」感が大きいように感じます。
 
 いやいや、最近の平成の子は、ソフトの中身を「分析」することに「ワクワ
 ク」するのでしょうか??
 
 そんなことを考えつつ、「読む」というより、じっくり「眺める」本も、た
 まには面白い!
───────────────────────────────────
 ◆ 熱い行動 ◆
 身の回りの製品の構造・原理を、自分の言葉と図解で説明してみよう。

 たまには思い切って、ぶっ壊して中身を調べよう!!
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 ◆ 燃えるゲージ ◆ | 炎 | 炎 |   | (炎3つが満点)
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 ◎ 目 次 ◎
 Part1 一度は覗いてみてみたい!大型施設・最新マシンの裏側
  札幌ドーム/太陽光発電システム/すばる望遠鏡/ゴミ焼却プラント/
  サービスステーション/しんかい6500/H2Aロケット/スケートリンク
 Part2 いつもお世話になっている!意識していないけど凄いモノ
  原子力発電/オフセット輪転印刷機/ボウリング場/発馬機/スリットビ
  デオシステム/映写機/エレベーター/エスカレーター/自動ドア/自動
  販売機/自動改札機/プリクラマシン/バーコードスキャナ/立体駐車場
  /泥水式シールドマシン/モノレール/ロープウェイ/熱気球/ハイブリ
  ッドカー/電動自転車
 Part3 知っているようで、知らない!生活・医療用品に隠された不思議
  冷蔵庫/電磁調理器/炊飯器/洗濯機/電気ポット/食器洗い乾燥機/エ
  アゾール缶/消化器/エアコン/床暖房/空気清浄機/電波時計/電気シ
  ェーバー/MRI(磁気共鳴画像装置)/デンタルユニット・チェアー/サー
  モグラフィ/電子顕微鏡/血圧計/体脂肪計/水洗トイレ
 Part4 見る、聴く、楽しむ!趣味に欠かせない最新アイテム
  インクジェットプリンタ/レーザープリンタ/パソコン/デジタルカメラ
  ・レンズ/デジタルビデオカメラ/ビデオデッキ・テープ/スピーカー/
  マイクロフォン/エレキギター/パイプオルガン/新素材バット/硬式野
  球ボール/ランニングシューズ/ゴルフクラブ
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 ● ひとこと ●
 今回の本で紹介されているから、というわけではありませんが、「デンタル
 ユニット・チェアー」を見てきました。
 
 いえ、座って「親知らず」を抜いてきただけで、詳しく見るような余裕はあ
 りませんでした…。

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